閑話 バレンタイン
「チョコー、チョコー」
気がつくと隣からそんな声が聞こえてきた。
何故?と考えると今日が前世でいうバレンタインデーにあたる事を思い出した。
しかし、この世界でチョコレートを見たことがない。
そして、バレンタインという文化があるのかすら分からない。
そういえば、前世では自分でチョコを買ってきて食べる日になってたな。
そう思い出す。
自分で買ってきたものを食べるのは悲しくないか、と思うかもしれないが、食べなくても悲しいのだ。
そして、非情にもテレビは「今日はバレンタインです」と伝えてくるのだ。
そんなことを思いだしたらチョコを食べたくなるな。
そう思い立ち、マイにチョコについて聞いてみた。
すると、
「チョコー、チョコー」
・・・・・・全く意味が分からない。
「マイ、どうしたの?」
「チョコー、チョコー」
その後も何を言っても「チョコー、チョコー」という返答しか返ってこなかった。
そして、とりあえずチョコを買って来てみることにした。
◆
「な、ない・・・・・・」
王都中どこを探してもチョコは一切見つからなかった。
聞いた話によると、チョコは中々目にかかれない希少な食べ物との事だ。
前世で気軽に食べていたのに・・・・・・
一旦家に帰ってみるが、マイの様子は変わってなかった。
どうしようもなくなりレクスのもとを訪ねてみる。
レクスの部屋に移動魔法で行くと、
「そろそろ、来る頃だと思っていたぞ」
「え?何で?」
「スタールがチョコを求め始めたのだろう」
「何でそれを?」
どうやら、レクスは何か知っているらしい。
「今日はバレンタインだからな」
何?その謎理論。
「・・・・・・その反応はやはり知らなかったのだな?バレンタインの日に好きな異性と会った女性はチョコしか求めなくなるのだ。大体の女性は恋をした時点でその事を親から聞いたりするんだが、スタールは親が公認するほど男が苦手だったのだろう?今はそんな風に見えないが・・・・・・
普通はこの日だけは夫婦でも恋人でも会わないようにするのだが、教えられていない可能性が高いと思っていてな。それで、お前もこの世界の事を知らない。
こうして来るのではないか、と思っていたところだ」
「何で、前々に言ってくれないんだよ!」
これはさすがに伝えないとダメなことだろ?
「すまんな。ローゼがそうなったので思い出したのだ」
「今、ローゼさんは?」
「チョコを食べたから大丈夫だ」
ということは!
「チョコ、くれ!」
「・・・・・・お前、もしかして女だったのか?」
「こんなときにからかうなよ」
「すまんな、ほら」
そう言って箱を渡してくれた。
「ありがとう、それじゃ」
「あ、ま」
何かレクスが言いかけていたが、移動魔法を発動したタイミングだったため何を言いたかったのかはわからなかった。
◆
「チョコー、チョコー」
家に帰るとやはりまだマイはチョコを求めていた。
そんなマイにレクスから渡された箱に一つだけ入っていたチョコを口に入れた。
「美味しい・・・・・・チョコー、チョコー」
一瞬元に戻ったが、またチョコを求め始めた。
そうか、チョコを食べても僕が目の前にいたからまたチョコを求めたのか。
急いでレクスの元に帰るが、
「さっきのが最後だ。忠告しようとしたのにすぐに行くから・・・・・・」
「何でこうなるんだよー!」
そう叫ぶと目が覚めたのだった。
結局全て夢だったらしいことが分かった。
その過程でその夢の中のバレンタインの話をすると、マイが「チョコー、チョコー」と冗談で言い始めて、一瞬焦ったのだった。