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小説家になろうラジオ大賞5

娘の雪山、父の雪山

作者: 尾手メシ

 昨夜からの雪で、朝には一面の銀世界になっていた。雪は朝になっても降り続き、ようやく小康状態になったのは昼近くになってからである。

 BGM代わりに点けているテレビでは、午前のワイドショーに引き続いて、午後のワイドショーでも混乱する駅の様子が映し出されている。相変わらず電車になんとか乗ろうという人でごった返していて、その喧騒が治まる気配は全く無い。少しずつ電車は再開しているということだが、予報では、このあと再び雪が降り出すのだという。

 エミは夫のことを思った。いつもよりも二時間早く出勤していったが、果たして会社に辿り着けたのだろうか。昨日に早々とテレワークを決めた自分の会社は英断だったのだと、エミは改めて安堵した。

 庭では、保育園が休園になった娘が雪遊びをしていた。小さいバケツに雪を詰めては、それを運んで溢してを繰り返している。どうやら雪山を作っているらしい。エミが仕事の合間にちらちら眺めているうちに、雪山は娘の胸ほどの高さになっていた。結構な大作である。

 娘は雪山の前にしゃがみ込んで、雪山を見上げている。手には、いつの間にか人形が握られていた。

「何してるの?」

「これ、ジィジ」

窓越しに問いかけたエミに娘は手の人形を掲げてみせると、やおらにそれを雪山に頭から突き込んだ。足だけが飛び出した様を見て、娘はケタケタと笑っている。


「じゃあ、切るわね」

 母からの電話を切ると、エミは細く息を吐いた。頭の整理が追いつかない。

 父が死んだのだという。ふらりと家を出たっきり帰らない父を心配して探していたところ、路上で死んでいるのが見つかった。ただ、その死に様というのが、道路脇の雪の吹き溜まりに頭から突っ込んでいたのだという。

「足が飛び出していたことで見つけられたのだから、幸いだったのかもしれない」

そう言う母の声は震えていた。

 雪は、予報通りに夕方から再び降り出していた。カーテンを引いてあるので見えないが、窓の向こうでは今も降り続いているはずである。あの、ジィジの刺さった雪山に降り積もっているはずである。

 娘の人形は二人一組のキャラクターだ。もう一体ある。夫からは帰れないと連絡がきていた。

「バァバはいいの?」

隣に座る娘に囁いた。娘はエミを見上げてキョトンとしたあと、意味を察したのかニコリと笑った。

 これは罪ではない。悪意ではない。ただ親子が二人、雪遊びに興じるだけなのだから。

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