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Psychedelic~サイケデリック  作者: 幻想箱庭
エピローグ
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エピローグ:復讐の連鎖は密やかに続く(1)



「――はっ」


 さわさわと聞こえてくる風の音。

 頬に何かが触れている感覚と、鼻をかすめる植物や土の匂いに、その少年の意識は覚醒された。


 彼が勢いよく上体を起こして辺りを見渡すと、そこは建物も人影も一切ない、夕日が見える見知らぬ草原の上に倒れていたことに気づいた。


「……ここは、どこだ? オレは――」

「ようやくお目覚めになりましたか?」


 突如、自身の近くで聞こえてきた男の声。

 その突然の出来事に、少年は反射的に飛び退いて声がした方向を振り向くと――いつの間にそこに現れたのだろうか。先程見渡した際には誰もいなかったはずの空間に、白い帽子をかぶったスーツ姿の一人の紳士が立っていた。


「……オマエは誰だ? どうしてオレはここにいる。オレは時計塔で死んだはずじゃなかったのか?」


 己の記憶を思い起こしながら少年――アッシュは、紳士姿の男を睨み据えたまま問い詰める。

 そんなアッシュの言葉に男は俯きがちにくつくつと喉を鳴らすと、口元を吊り上げて彼を見つめる。


「なかなか面白いことを言いますねぇ。貴方は死んでなんかいませんよ? 時計塔が崩れ落ちる前にワタクシが回収させていただきました。そんなことより、()()調()()()()()()()()()?」

「!」


 男に促され、アッシュは思い出したようにとっさに自身の胸を確認する。

 そこには、胸部を覆っていた装甲こそ溶解しているものの、胸を貫き、肺まで達していたはずの致命傷が傷跡だけ残した状態で治っていた。痛みは、ない。


「どうです? 損壊した部位も焼失した箇所も、細胞レベルで元に戻しましたので、痛みも苦しさも全く感じないでしょう? ……まあ、その傷跡だけは()()()残しましたが……クックックッ」


 アッシュの顔から胸へと視線を移し、さも愉快げに男は笑う。

 目の前にいる人物の発言に、アッシュは暫しの間、唖然と傷があった場所を見つめていたが、やがて口を閉じると、無言で再び男を睨みつける。


「おや、あまり驚かれませんね。それとも、驚愕のあまり言葉が思いつきませんでしたか?」

「……その声と喋り方。オマエ、時計塔でケイレブさんをはめたメディエーターとかいう男だろ。傷を治して、おまけにこんなところに連れ出してまで、オレに一体何の用だ?」


 あくまで感情に流されずに、静かな敵意を向けて威嚇するアッシュ。そして相手に気づかれないように、草むらに隠した右手に力を込めて、いつでも攻撃を仕掛けられる態勢を取り始める。


「……見た目に反して、意外と冷静な判断が出来る方だったのですね。……ああ、失礼。別に貴方をけなしているわけではないのですよ? 誉め言葉として受け取ってください。それと、はめたとは随分と人聞きの悪い。あの男――ケイレブ・テイラーには、我々の『真の目的』を果たすために動いてもらったに過ぎません。彼が望んでいた未来を実際に目にすることが出来なかったのは、彼が力不足であったというだけ。未来を変えるのは極めて困難なことですが、逆に言えばその変えるのが困難だった未来を変えてしまった彼本人にも責任があるということです。……ですがまあ、おかげでワタクシの方は無事に『目的』を果たせられましたので、結果的には何の問題もありませんでしたが」

「『目的』、だと……?」

「ええ、これです」


 と、男――メディエーターは懐から見覚えのある物を取り出してアッシュに見せびらかす。

 それは時計塔で少女と青年と戦う際に、自分とケイレブ、そして仲間達が使った、高濃度に凝縮された薬が入っているあの注射器であった。


「オマエ……っ、それは!!」


 その深く濃い緑色をした液体を見た瞬間、アッシュの敵意が怒りへと変わり、爆発した。

 すぐさま草むらに隠していた右手から大量の炎を生み出し、正面のメディエーター目掛けて襲わせた。


「――全然、駄目ですねぇ。それでワタクシの不意を突いたつもりですか?」

「……なっ!?」


 攻撃が着弾するよりも先に、背後から聞こえてきた男の声。それがメディエーターのものだと認識した途端、ようやく炎は誰もいない草原をかすめ、そのまま通り過ぎていった。


「相手に気づかれないように攻撃態勢を取る――そこまでは賢明な判断でよかったのですが、殺気の隠し方も能力の発動速度も全くもって未熟。お世辞でもいいとはとても言えません。せっかく能力者としての力を持っているのに、これでは宝の持ち腐れとなってしまうでしょう。そんなことより、……その右腕、下ろしていただけますか?」


 氷のように冷たい指を無防備なアッシュの首に絡ませ、少しだけ声のトーンを下げるメディエーター。

 「言うことを聞かなければ殺される」、たったそれだけの行為で背筋を凍らせたアッシュは攻撃態勢を解くと、言われるままに静かに腕を下ろした。


「素直でよろしい」


 アッシュの行動にメディエーターは満足した様子でそう言うと、絡ませていた指を首から離して、ニコニコと微笑みながら再度彼の正面に移動する。


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