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Psychedelic~サイケデリック  作者: 幻想箱庭
第5章 運命の歯車は埋め込まれ
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第57話:決断~アレンの選択(4)

 態度こそ変わらないものの、別れる以前と真逆の答えを聞いて一瞬だけ目を丸くするレイ。

 やがて驚いた状態から穏やかな笑みをたたえたあの表情に戻ると、アレンを見つめたままクスリと笑った。


「おやおや。(わたくし)がいない間に何があったのかは分かりませんが……まあ、いいでしょう。それでは改めて、アレン・ジュランさん、並びにジンさん。これより貴女がたお二人を組織に迎え入れるための最終確認を行います。構成員となることでこれまで以上の危険を伴う任務にも携わると思いますが、お二人の力を組織に、そしてこの国の人々のために使っていただけますか?」


 期待を寄せて、しかし真摯な眼差しでレイは言う。その瞳は、戦いの世界に身を投じなくてはならなくなるアレン達のことを案じているようでもあった。

 だが、元々メディエーターと協力者達を倒すためだけに生きてきた彼女達にとって、そんなことなど既に承知の上。アレンは薄い笑みを浮かべて、嘲るようにレイに言い返す。


「『これまで以上の危険』か。……はっ、上等だぜ。危険に対する覚悟なんざ、とうの昔に出来てるさ。誰が相手になろうが何が起きようが、関係なくやってやろうじゃねえか!」

「……ということだ。俺もこいつと同様、戦うことに異論はねえ。端から平穏な人生を送るつもりはなかったからな。だから、構成員になるかという問いに関しては、俺もこいつも答えはイエスだ。他に確認することはあるか?」


 アレンに続き、ジンも返答する。落ち着き払った様子の彼であるが、抜身の刃にも似た鋭い気配を放っていた。


 そんなただならぬ雰囲気を纏った二人組から何かを感じ取ったのだろう。レイは瞼を閉じ、深く静かに頷いた。


「……なるほど。ああ、失礼。詮索するようなことは一切しない約束でしたね。お二人の覚悟、確かに受け取りました。では――」


 両目を開き、胸に手を当てて視線をアレン達に向ける。


「今、この場において、(わたくし)は貴女がたを《クロス・イージス》の正式な構成員として承認しました。代表者として感謝の意を表すると共に、組織の一員となりましたことを心から歓迎します。これからは上司と部下の関係になってしまいますが、あまり硬くならずに、共に戦っていく仲間として接してくだされば大丈夫ですからね? 仕事内容や生活面におけるサポート等については、組織に戻ってからゆっくり話したいと思います。因みにですが、お二人には現在、住んでいる場所はありますか?」


 話の最後で、唐突にアレン達の住まいについて尋ねるレイ。

 そんな彼の台詞にジンは疑問に思いながらも、素直に自分達の現状を伝える。


「いや、ねえな。取りあえず今日は野宿でも考えていたところだが、それがどうかしたのか?」

「そうでしたか! これは全員に訊いている話なのですが、(わたくし)達の組織では構成員が快適に過ごせるように一人ひとりに部屋を用意しています。勿論、相部屋も可能ですし、まだまだ空きがありますので、お二人の希望があればすぐにでも手配出来ますが」


 手を叩き、喜びの表情を見せてレイは提案する。

 暫しの間、ジンは考えていたが、ちらりと目を移し、隣にいるアレンに意見を求めてみる。


「組織の中で暮らす、か。……ま、こいつが働いていた店からクビにされたところだし、泊まる場所も支払う金もねえからちょうどいいか。別に異論はねえだろ? アレン」

「おい、ジン。今、さりげなくあたしを馬鹿にしなかったか?」

「だから何でそういう捉え方しか出来ねえんだよ、お前は。今の俺達に宿も金もねえのは事実だろ」

「どうせあたしのせいだと言いてえんだろ。よかったな、お互い住む場所が見つかって」

「誰もそんなこと、一言も言ってねえだろうが! 毎度思うが、少しはその気の短さを直してみたらどうだ!」

「ああ?!」

「……クスッ」


 人が行き交う大通りの真ん中で、言い争いを始めるアレンとジン。

 そんな二人のやり取りを温かい目で見守りながら、レイは小さく笑い声を漏らす。


「笑ってるんじゃねえよ、紅茶男!」

「ああ、これは失礼。いえ、お二人は本当に仲がいいと思いまして」

「仲がいいと思うか? これで?」


 うんざりした様子で、レイに顔を向ける両者。


「ええ、(わたくし)から見ましたら、十分そうだと思いますが。それに、先程の会話の中でアレンさんは『お互い』と言っていました。ということは、アレンさんもジンさんと一緒に《クロス・イージス》で暮らす方面でよろしいですね?」


 その時、争っていたはずのアレン達の動きがピタリと止まった。

 今もなおニコニコした表情を向けてくるレイの前で二人は互いに顔を見合わせると、それまでの口論がくだらなくなったのか、ため息をついて心を落ち着かせる。


「……で、お前もそれでいいんだな」

「何が」

「分かってて言っているだろ。組織で暮らすかどうかだよ」

「……別に、好きにすればいいだろ」


 そっぽを向き、呟くようにアレンは言う。

 そんな彼女にジンは少しふてくされた態度を取ったが、やがて微苦笑を浮かべると、どこか安心した素振りで口を開く。


「……全く、相変わらずそういう時だけ人任せにするよな。ま、それも含めてお前らしさというやつだから、たまにはあっても悪くねえか」


 「はっ」と鼻を鳴らし、小馬鹿にするようにジンを笑うアレン。そして視線をそらしたまま、次第に暗くなっていく夜の空を仰ぎ見る。


「では、お二人の意見が合いましたことですし、そろそろ向かうとしましょうか。春の夜は急に冷え込みますので、到着しましたら体が温まる紅茶をご馳走しますね。アッサムはジンジャーティーとして楽しむことが出来ますので、今後のことについて話しながらいただきましょう。組織までの道のりは(わたくし)が案内しますので、お二人は後に続いて来てくださいね」

「ああ」


 白衣を翻して先頭を行くレイ。たわいもない会話をしながら次第に遠ざかっていく彼らをよそに、アレンだけは空を見上げて、射るような眼差しを一際明るく輝く一つの星に向けていた。

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