第53話:牢獄機関(5)
「ええ、最高責任者で合っていますよ。聞き間違いではありませんので、ご安心を。他に質問はありますか?」
微笑みを崩すことなく、レイは確かにそう言い放った。
暫しの間、室内に沈黙が訪れる。そして――。
「はあっ?! 責任者?! マジで、てめえがかよ!? てめえなんかでちゃんと務まってるのかよ、その組織!」
「……何か、酷い言われようですね……。確かに、私達の組織は直接国の管理下にない分、他の対能力者組織と比較して規模も人員もあまりない方ですが、体制自体はしっかりしていますよ? 管理下にないとはいえ、国に脅威をもたらす重大事件に携わることもありますし、今回のように上層都市から依頼を任せられることもあります。しかし、人手不足で悩んでいるのもまた事実。国や上層都市から優秀だと見なされた人材は、そのほとんどが別の組織に引き抜かれてしまいますので。……ただし、それは条件を満たした人物に限られますが」
「条件?」
どこか残念そうな表情を見せるレイに、アレンは聞き返す。
「ええ、国が定めた規則、というのでしょうか。エスレーダで対能力者組織の構成員になれるのは、『能力ランクや潜在魔力が基準値を満たし、かつ過去に犯罪歴のない、エスレーダの国籍を取得している者のみ』。反逆者を生み出さないため、というのもあるのでしょう。どんなに優れた才能があったとしても、条件を満たさない能力者や魔力の低い無能力者は認められないのがこの国の現状です。ですが私は、本人の意思と実力さえあればどのような過去を持っていたとしても、本質を見極めた上で彼らを迎え入れるつもりでいます。私が勧誘を持ち掛けた一番の理由、それは力を誇示するわけでも称賛を得るわけでもなく、見ず知らずの人のために危険を冒してまで立ち向かおうとする意志を貴女がたから感じ取ったからです」
顔から笑みを消し、落ち着いた姿勢でレイはアレンと対峙する。
まっすぐ見据えたその瞳には、偽りや世辞といったものが一切なく、本心から彼女に訴え掛けていた。
静まり返る室内。
やがて彼は軽く咳払いをすると、穏やかな微笑みを浮かべて会話を再開する。
「……お話が長くなってしまいましたね。そろそろ所長さんに貴女が構成員であることを説明して、釈放の手続きを取りに行きましょうか」
「待てよ、おい。まだ誰もてめえのところの組織に入るなんて一言も言ってねえぞ。さっきの会話でてめえは言ってなかったか? 『本人の意思があれば』と」
「まあ、確かに私、そうは言いましたが、それでは貴女を無実の状態でここから出すことが出来なくなってしまうでしょう? とにかく、牢獄機関から出るまでの間は、私と話を合わせてください。最終的なお返事は後程お聞きしたいと思いますので、それまでにゆっくり考えてくだされば幸いです。ああ、それと――」
独房の中のアレンから視線を外すことなく、何かを思い出したかのようにレイは言葉を付け加えて、
「お連れの方の名前、ジンさんで合っていますよね? 後でその制服、本来の持ち主に返してあげてくださいね。アレンさんと私は、この後別室にて所長さんとお話がありますので、誰もいなくなった頃合いを見計らって外に向かってください。……では、鍵を開けてもらうためにも、一度退室するとしましょう」
それだけ言い残してから、彼は二人に一礼すると、そのまま部屋を後にした。
扉が閉まる音を聞きながら、アレンとジンは互いに顔を見合わせ、口を開く。
「……おい、おまえがいたこと、端からバレてるじゃねえかよ」
「マジで何者なんだ? あいつは……」
レイが出ていった扉を見つめ、二人は呟く。そしてそれ以上のことは何も話さずに、ただ立ち尽くすのみであった。
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