第50話:牢獄機関(2)
「おい、ジン! いつ誰がそんなこと思ったって?! 別に焦ってなんかねえし、助けもちっとも待ってねえよ!」
「そうか? それにしては今のお前、図星を突かれたような顔をしているぞ?」
「……っ」
指摘され、反射的に顔を背けるアレン。その目には明らかに動揺の色があった。
「……助けを待ってた? はっ、そんなか弱い乙女みてえな行動、あたしがするわけねえだろ。おまえの助けなんかなくたって、脱獄くらい一人でやってやるさ!」
動じたのも束の間。アレンは嘲るような笑みを見せると唐突に立ち上がり、能力を封印している手枷を鉄格子に向けて何度も叩きつける。
「くっそ、壊れろよ! 何で外れねえんだよ!」
「……何、ムキになっているんだか。おい、よせよ。音を聞きつけて誰かやって来るかもしれねえだろ。少しは冷静に――」
「うるせえ、黙ってろ! こいつさえ外れれば、こんな牢獄くらい――」
「いいから静かにしろ! そして俺の話を聞け!」
先程までの穏やかな口調とは打って変わり、声を荒らげてジンは叫ぶ。
普段では見ることのない怒気を含んだジンの顔。その突然の変化に、アレンは叩きつけていた行為を止め、大人しく話を聞いてみることにした。
「……何だよ」
「いいか、アレン。前々から思っていたことを言わせてもらう。お前は少しでも弱い自分になることを極端に嫌う。それが肉体的なものであっても、精神的なものであっても。だけどな、この世に完全に強い人間なんて存在すると思うか? しねえだろ?」
鉄格子越しに説教を始めるジン。
彼が語る内容に、思い当たる節があったのだろう。アレンは無言で聞き続ける。
「どんな奴にも、弱い部分は必ずある。それなのにお前は完全否定して、常に強さを求めている。別に、強くあること自体は悪くねえ。だけどよ、どんなに繕ったって、一人じゃ出来ねえこともあるだろ? さっき俺があんな風に言ったのはな、馬鹿にしたかったからじゃねえ。人に頼るということを覚えてほしいからあえて言ったんだよ。俺はな、お前が何でもかんでも一人で背負って無茶しねえか心配なんだよ」
落ち着き払った様子で、しかし真剣な瞳でジンは諭す。
「今更、培ってきた性格を直せとまでは言わねえ。その代わり、一つだけしてほしいことがある。よく聞け。たまにでもいいから俺の助けを必要としろ。分かったか?」
「……ったく、しょうがねえな」
軽くため息をつき、睨むような視線をジンに送る。
「分かったよ。だが、女とガキ扱いだけは絶対にするんじゃねえぞ。人に条件を出すんだから、おまえもあたしの条件を呑め」
「勿論、そこは承知したぜ。……さて、説教タイムは終わりだ。早くしねえと、尋問官が来ちまうからな。今、お前がやるべきことはもう分かっているよな?」
「ああ、気に食わねえけどな」
すぅっと息を吸い込み、アレンは蒼い双眸を大きく見開いて、
「いつまでもここにいる趣味はあたしにはねえ。ジン、あたしを助け出せ!」
「誰かそこにいるのか?!」
その時だった。部屋の外から男の声が聞こえてきた。
「やべえっ!」




