第48話:死闘の果てに
「……疲れた」
ようやくたどり着いた一階フロアで、上層階が崩れる音を聞きながらアレンはぽつりと呟く。
「そりゃあ、朝からずっと戦いっぱなしだったからな。それと、お前は戦闘になると後先考えずに魔力を消耗する癖がある。どうせ今回も派手に暴れていたんだろ? ま、無事に『当たり』を倒し終わったことだし、今日はゆっくり休め」
「言われなくてもそうするさ」
労うジンに素っ気ない態度で返事をすると、アレンは疲弊しきった体で外に続く扉に手を掛けた――。
「――動くな! 入国者、アレン・ジュラン! 及び、ジン! お前達を『焼死体事件』の犯人として、牢獄機関に連行する!」
アレンが時計塔の外に足を踏み入れたその時、怒鳴るような声が耳に飛び込んできた。
降り注ぐ日差しに目を細め、何気なく周囲を見渡してみると、そこには武装した警官隊が十数人、塔の入り口を取り囲んでいた。
「……やべ」
彼らの存在に、本音を漏らしてしまうアレン。そうこうしている内に警官隊は次々と彼女の元に押し寄せて、あっという間に身柄を確保する。
「先輩! ジンですが、どこにも姿が見当たりません!」
不意に、時計塔の中で警官隊の誰かが叫んだ。
慌てた様子で捜索を始める彼らを、僅かに視線を動かして見ていたアレンは、この場からいなくなった人物に対して嘲りと敬意をもって静かに微笑んだ。
(……さてはあいつ、こいつらの姿が見えた瞬間に逃げ出したな。まあ、それが賢明な判断か)
多勢に無勢な状況に加え、相手は行政機関の人間。面が割れてしまった以上、ここで暴れてしまえば余計な騒動を生み出してしまうだろう。それならば、連行中に隙を突いて逃げ出すか、どこかで助けに来るであろうジンを待っていた方が逃走は成功する。
そんなことを考えながら、アレンはいったん彼らに従う道を選ぶことにした。
「何を笑っている! 大人しく我々について来い!」
「うるせえな、端から抵抗する気なんてねえから安心しろ。それより、こちとら疲れてるんだ。連れて行くなら早く案内しろよ」
犯罪者の身でありながら憎まれ口を叩く彼女に、隊員は舌打ちしてから両手首に手枷をはめさせる。居合わせた住民達が遠目で見守る中、ガチャリと錠が掛かる音が辺りに響いた。
「ほら、さっさと歩け!」
突き飛ばされるように背中を押され、時計塔前から歩き出すアレン。
エスレーダとヤスガルンを騒がせていた『焼死体事件』の犯人の確保。やがて彼らの姿が大通りから遠ざかると、ようやく人々の口から安堵のため息や歓声といったものが聞こえてきた。
警官隊の功績をたたえ、喜び合う住民達。しかし一人だけ、そんな彼らをよそにアレンが連行されていった方向を眺めながら、光り輝くイヤリングに向かって話し掛ける人物がいた。
「――もしもし、ノアくんですか? 至急、お願いしたいものがあります」
通信機越しでそう尋ね、その人物は小声で何かを伝え始める。
ほどなくして、彼は微笑みを浮かべると、白衣を翻して歓喜溢れる通りを後にした。
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