第44話:能力者達の死闘~己が意志のもとに(1)
「……はぁ。――さて」
深くため息をついてから、アレンは視線を、恐怖で身を竦ませているアッシュに戻す。
「あと残ってるのはガキ、おまえ一人だけだな。おまえもこのおっさんと、そしてあたしらとも深く関わり過ぎた。悪ぃが、ジンのあの姿を見た以上、生かして帰すつもりはねえんだ。だから――」
彼女が近づく度に、少しずつ後退して逃げようとするアッシュ。しかし、その行為も虚しく、あっという間に距離を詰められてしまう。
そんなアッシュに、アレンは微塵も表情を変えることなく瞳の奥を覗き込み――。
「お仲間同様、おまえもここで消す」
そう言って、残った炎の塊で攻撃を仕掛ける――はずだった。
「うああああああああっ!!」
「っ!?」
突如、アッシュの中で何かが弾けたのか、ほえるように叫んだ彼の胸元から大量の眩い橙色の光が放出され、彼女の視界を遮った。
右腕で顔を覆い、一瞬だけ怯むアレン。その僅かな隙を突いて、アッシュは渾身の力で発動した炎の塊を天井に向けて放った。
アレンほどの威力は持たないものの、爆発の衝撃によって吊り下げられていた鐘の一つが落下し、その場から飛び退いた二人を残して、崩れた床と共に階下へと落ちていく。
「死んでたまるかっ! オレは、こんなところで終わるわけにはいかないんだ!!」
無駄な抵抗だと分かっていながらも、両手に炎を発動し、追い詰められた獣の目で襲い掛かるアッシュ。
その攻撃を苦もなくアレンは避け続けると、頭上に残っていた三つの炎の塊――そのうちの一つをアッシュの胴体目掛けて飛ばした。
しかし、塊は標的に当たることなく、そのまま奥の空間へと消えていった。
「何故、誰も分かってくれない!? オレを化け物扱いした村のヤツらも、オレ達を利用しているこの世界も! 能力者の恨みを、悲願を、どうして誰も聞いてくれない!?」
両目に涙を浮かばせ、胸の内に秘めた悲痛な思いをアッシュは炎の拳に乗せてぶつける。
対するアレンも右腕に炎を纏わせて、無言で弾きながら二つ目を飛ばすが、それもすんでのところで回避されてしまう。
「これは報復だ! 誰も分かろうとしないのなら、オレ達が分からせるしかないんだ! オマエも能力者なら、こんな間違った世界を変えたいと思わないのか?!」
「そんなもん知るかよ」
相手の心に訴え掛けるべく本心から叫んだアッシュの言葉を、アレンは冷たく突き放し、答えた。
まるで他人事のような彼女の態度に、アッシュは唖然とした表情で固まった。そんな様子の彼に、アレンはいったん戦闘を中断すると、更に会話を続ける。
「あたしらはあたしらの『目的』を果たす、ただそれだけだ。おまえらの革命ごっこに付き合う暇なんて、これっぽっちもねえんだよ。別に、世界の支配権を能力者が握ろうが無能力者が握ろうが、どうでもいい。『目的』の邪魔さえしなければ、何だっていいんだよ。……だがな、それでもな、おまえらみてえに平気で無関係な人間を巻き込もうとするやつは、どうしても癪に障るんだよ。徹底的にぶっ潰したくなるくらいにな。……これがあたしの意見だ。分かったか? ガキ」
「……ああ、よく分かったよ」
彼女の言葉を聞いた途端、アッシュの胸元の光が次第に消滅していく。そして俯いたままゆっくり離れると、顔を上げてアレンを睨みつける。
「オマエが能力者側ではない、ただの異分子だっていうことがな……っ! 裏切り者め、オマエはオレ達能力者の敵だっ!!」
憎悪に満ちた目で叫び、アッシュは再びアレンに向かって突撃した。
全身全霊で襲い掛かってくる攻撃に、片腕では対処しきれないと判断したアレンは、手に力を込めて自身の魔力の残量を確認する。
魔力――それは能力者にとって、言わば火薬のようなもの。
いくら優れた殺傷力を有する銃であっても、エネルギーである火薬がなければ銃弾を撃ち出すことはまず不可能だろう。
時間の経過と共に回復するものであっても、攻撃を燃やし尽くすほどの防壁や、威力の高い複数の塊の発動、加えて特殊能力の酷使もあって、彼女の中にはあと僅かな量しか残っていなかった。




