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Psychedelic~サイケデリック  作者: 幻想箱庭
第4章 役者達の狂宴
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第41話:能力者達の死闘~争いの対価と代償(1)

 エスレーダのシンボル的存在である時計塔。その鐘の音はイレイザートの街々に響き渡り、そこで暮らしている住民達に時刻を知らせる一つの手段にもなっている。

 ――無論、街で待機しているケイレブの仲間達が作戦を開始するための合図としても。


 しかし、アレンだけはそのようなことに意識を向けることなく、瞳から完全に光を失ったジンの亡骸を見つめたまま、強く拳を握り締めていた。


「……これで、お嬢ちゃんを守るナイトもいなくなったな。残念だったなぁ。これまで何度も邪魔をされてきたが、勝利の女神は俺達に微笑んだらしい。お嬢ちゃんの妨害行為も全て無駄になっちまったというわけだ」


 嗜虐的な笑みを浮かべながら、ホールの中央へと歩き出すケイレブ。

 そして仲間達の方を振り返ると、まるで舞台に立つ役者のように大きく両腕を広げて天井を仰いだ。


「さあ! 宴の始まりだ! 今、まさにこの瞬間から、我ら能力者による偉大な作戦が実行される! 街に送り出した仲間達も暴れている頃合いだろう。まずは手始めに、イレイザートに蔓延(はびこ)る愚かな無能力者共を殺戮し、誰が人類の真の支配者であるか思い知らせてやろうではないか!!」

「……どんな未来を視たのか知らねえが、そんなにその欠片のことを信じきってるのか?」


 完全に悦に入っている彼の耳に、どこか落ち着いた口調の少女の声が聞こえてきた。

 ケイレブが視線を移してみると、そこにはとても冷めた眼差しで自分を見つめてくるアレンの姿があった。


「何だ、お嬢ちゃん。負け惜しみに何か喋りたくなったのかい? 安心しな。お嬢ちゃんもすぐにその男の後を追うように殺して――」

『……ケ、ケイレブさん……』


 突如、彼の言葉を遮って脳内に響く男の声。

 伝令役として街に送ったあの〈精神感応(テレパシー)〉の能力者からだ。


「ほらよ、お仲間からのご連絡だぜ」


 ケイレブにしか聞こえないはずの声に反応を示すアレン。否、彼女だけではなかった。

 この場にいる誰もが、自分達の脳内に働きかけてくる声の正体にざわざわと騒ぎ立てている。

 ケイレブはそれを、高濃度に凝縮した例の薬を使ったが故に、力が強化されて全員に聞こえるようになったのだと瞬時に理解した。

 理解した途端、言葉を遮ってまで連絡をよこした相手に苛立ちを覚え、声を荒らげた。


「おい! お前、作戦はどうした! まさか、失敗したんじゃねえだろうな!?」

『ケイレブ、さん……』


 問い詰められているにも関わらず、何故かケイレブの名前を繰り返し呼ぶ伝令役。その話し振りは、まるで何かに取り憑かれているかのような、酷く怯え上がった感じがあった。


「おい――」

『ケイレブさん、……れ、例の薬、ですが……、あの薬を使った瞬間、無能力者共が、無能力者共が……っ』

「何だ、早く言え! 殺されてえか!!」

『無能力者共が、化け物に変わっ……ひっ!?』


 ここまで言い終えた時、伝令役が短い悲鳴を上げた。彼の知覚を通しているからか、獣のような唸り声が聞こえてくる。


『く、来るなっ! お前ら、や、止めっ、……うわああああああっ!!』


 獣の咆哮と共に、この世のものとは思えない悲鳴が上がる。


『い、いだい、痛っ、頼む、喰わないでくれ……ぎゃああああああああああっ!!』


 悲痛な叫びに混じり、ぐちゃぐちゃと肉が潰れる生々しい音が伝わってくる。

 やがて一際大きな断末魔が全員の脳内に響き渡った直後、ぶつりと音を立てて、それを最後に伝令役から何かが送られてくることは二度となかった。


 静まり返る最上階。

 恐怖と不安で青ざめている戦闘員達をよそに、ケイレブは急いで窓際に駆け寄ると、イレイザートの様子を確認した。


 彼が見たもの――ちらほらと何かから逃げている住民達の姿こそうかがえるものの、〈予言版の欠片〉を通して視たあの惨劇はどこを見渡しても一切起きていなかった。


「……な、何故だ、何故起きていない!」

「どうやら、お望みの未来は現れなかったみてえだな」


 動揺の色を見せ始めたケイレブに、アレンはゆっくりと歩み寄り、話し掛ける。


「お嬢ちゃん、てめえ一体、何を知っていやがる……!」

「さぁてな。気になるんだったら、今度おまえが信用しきってるあの男――メディエーターに会った時に直接訊いてみるんだな。……やつがおまえにあの薬の正体を知らせずに手渡した時点で、真実を話すかどうかは別だけどな」

「……何?」


 「あの薬の正体」と、彼女は言った。

 何を言っているのか分からない、そういった顔でケイレブは眉をひそめて問いただす。


「その様子だと、本当に何も知らされてねえんだな。……オーケー。そんなおまえらには特別にあたしが直々に教えてやるから、耳の穴かっぽじってよく聞くんだな」


 吐き捨てるように、この場にいる全員に向けてアレンは言う。

 そしてため息をついてから、微かに憐れみの表情を見せて、静かに口を開いた。


「……おまえらが使ってるあの薬な、確かにあれは能力者の力を強化し、そうでない人間には能力を授ける効果を持っている。使()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「肉体と、魂を侵食……?」

「そうだ。さっき、お仲間が言ってただろ? 『無能力者が化け物に変わった』って。あれは能力者に変える夢の薬なんかじゃねえ。()()()()()()()()()()なんだよ。……まあ、使用回数にもよるけどな。どうせおまえらのことだから、無能力者にも高濃度に凝縮したやつを使わせたんだろ。濃度が高い分、肉体と魂の侵食度も一気に上がる――これで『元人間の魔物』の出来上がりってわけだ。幸い、あたしら能力者はそう簡単に魔物にはならねえみてえだが、おっさんらの体にも、そろそろガタが来るんじゃねえのか?」


 最後の一言に、ケイレブは反射的に体を確認する。その両腕は小刻みに震えており、青く見えるはずの血管も濃い緑色へと変色し、異様に盛り上がっていた。


「な、何だ、こりゃあ……っ!?」


 変わり果てた自身の腕に、愕然(がくぜん)とするケイレブ。


 ――その時だった。彼の懐からカサカサと、まるで意思を持っているかのように一枚の折り畳まれた紙が出てきた。

 その紙は宙に舞い始めると、彼の前で止まり、ゆっくりと元の大きさに開かれていった。


 それは、無名区域(エリア)でスーツケースと共にメディエーターから手渡された、指示が書かれた例のものであった。


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