表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Psychedelic~サイケデリック  作者: 幻想箱庭
第4章 役者達の狂宴
39/62

第38話:計画実行、増幅するテロリスト達の闇


『――ケイレブさん』


 過去を思い出していたケイレブの脳内に直接働きかける声。彼が伝令役として街に送った〈精神感応(テレパシー)〉の能力者からだ。


「おう、お前か。準備の方はどうだ? 順調に進んでいるか?」

『はい。今、イレイザートの各地で待機している仲間達とも連絡を取りましたが、いつでも作戦を実行出来るとのことです。後はケイレブさんの指示通り、次の時計塔の鐘が鳴り終えた時に、あいつらと一緒に薬を使って暴れればいいんですよね?』


 あいつら――騙して仲間に引き込んだ無能力者のことを指しているのだろう。

 未だに利用されていることに気づかずに、手足のように動いている彼らを思うと不憫で仕方がない、そう言わんばかりの顔でケイレブはくつくつと喉を鳴らした。


 仲間達を街に送る際、彼らには平服姿でいるよう指示を出していたケイレブ。無論、そうでもしない限り、作戦の途中で警官隊に見つかってしまう危険性があったからだ。

 住民達と同様の恰好でいれば、長時間同じ場所に留まっていても怪しまれずに済む。全てはあの男から手渡された紙に書かれている通りに、順調に事が進んでいた。


「そうだ。間違ってもタイミングをずらすんじゃねえぞ。あくまでも、鐘が鳴り終えてすぐだ。その方が演出として最高だろ?」


 胸に下げている〈予言板の欠片〉。所有者本人しか視ることの出来ない映像を脳裏に再生させながら、彼は心の中でこう考えていた。


 最初に無名区域(エリア)で視た時も今も、未来の自分はイレイザートの街々を見下ろせる高い場所、つまりはこの時計塔にいたのだ。そして、ほぼ同時刻に複数の箇所で行われるテロ行為。離れた地点にいる仲間達を一斉に動かすには、彼らにも分かる共通の合図を送る必要があった。

 だがそれは、街中に響き渡る時計塔の鐘の音を利用すればいい。鐘が鳴り終えると同時に始まる、能力者による絶望の幕開け――何という素晴らしいシナリオなのだろうか!


 朝方、ケイレブが繁華街にある飲食店に仲間を送り込んだ理由。それは警官隊の意識を、西の街に向けさせないためであった。

 東の街で大規模な騒ぎを起こせば、彼らの人手も手薄になる。本来なら、もっと複数の場で事件を起こす予定でいたケイレブであったが、あの能力者の少女が基地に現れたことで、計画が大幅に狂ってしまったのである。

 ……だが、これから起こる悲劇を考えれば、そんな些細なことは何の問題でもなかった。

 余裕さえうかがえる笑みを浮かべて、彼は中央にいる装甲服姿の仲間達の方を振り返り、声を張り上げて叫んだ。


「親愛なる我が同志よ! 我が野望に賛同し、集ってくれた勇敢な戦士達よ! よくぞ劣等種である無能力者による支配に耐えてくれた! だが、もう耐える必要はない。我ら能力者を利用し、蔑んできた愚かな無能力者共に鉄槌を与える時が訪れるのだ! 我らの手によって、傲慢な無能力者共を絶望の淵に落とす瞬間がやって来るのだ! ……今こそ革命の時だ。奴らに誰がこの世界の真の支配者であるか、思い知らせてやろうではないか!!」


 ケイレブは謳う。今まで虐げられてきた能力者の怨嗟の声を代弁するかのように、この場に集った者達が抱える心の闇を増幅させる。


 彼の言葉に、次々と賛意を示す戦闘員達。世間から見下されてきた者が、最愛の人を失った者が、家族や恋人から見放された者が――、拳を上げ、感情を高ぶらせ、目の前にいない敵に憎悪の視線を向けて、戦闘の雄叫びを上げる。

 その中でただ一人、アッシュだけは己の感情と向き合うために、静かに目を閉じて意識を集中させた。しかし、


「くだらねえ決起大会はもう済んだか?」


 闘志を燃やす彼らに水を差すかの如く――無能力者に恨みを抱いたテロリストしかいないはずの空間に、その場にそぐわない台詞を言う少女の声が聞こえてきた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ