第30話:ジン
キースとの戦闘が終わり、静寂に包まれた基地内部。
既に倉庫を後にしたアレンは通路を通り抜けて、ジンと彼が引き受けた戦闘員達がいる一階に赴いていた。
「――」
荒れ果てた空間。その中央に、アレンのよく知る人物が黙したまま、背を向けた状態で立っていた。
「ジン」
「――」
アレンの呼び掛けに、何故かジンは何も反応せずに、無言で正面を見続けている。そんな様子の彼に、アレンは足を運んで近づいてみると、この時ようやく、彼は黙っていたのではなく、微かに頭を動かしながら小声で何かを呟いていることに気づいた。
「ジン」
その時だ。微かに動いていたジンがピタリと動きを止め、ゆっくりとアレンの方へと振り返った。そして――。
「――オマエモ、コロス??」
にたりと歪みきった笑顔で、ジンはアレンにそう呟いた。
「ジン!!」
「――はっ。……アレ、ン?」
怒鳴るように叫んだアレンの声に我に返ったのか、ジンは目を丸くして、目の前に立っている少女の名前を呼んだ。その顔からは、先程の歪みきった笑顔はすっかり消えていた。
「ったく、何が『オマエモ、コロス??』だ。何度も言うが、おまえの『力』は普通じゃねえんだよ、酷使しやがって……。ほどほどに出来ねえんだったら、二度とあたしのそばを離れるな。分かったか?」
「あ、ああ。……そっか。俺、そんなこと言っていたのか……」
「……で、どうするんだよ? こいつら」
ジンと共に中央に来ていたアレンは、顎でしゃくって周囲にあるものを指した。
彼女がいない間に、激しい戦闘が繰り広げられていたのだろう。壁や床はえぐれ、至るところに瓦礫の山が出来上がっていた。――戦闘員達の血肉を浴び、辺りを赤く染めた状態で。
血だまりを広げながら、倒れ伏している戦闘員達。まだ息はあるものの、その呼吸は浅く、中には四肢の一部を失っている者さえいた。
常人を上回る力を所有する能力者。
それは能力だけでなく、生命力や身体能力にも同じことが言えていた。
理論上では、よほどの致命傷を与えない限り彼らを殺すことは困難とされているのだが、今この場で倒れている者達は、適切な処置を施さなければ絶命する危険性があった。
自分が作り出した血生臭い光景に、ジンは表情を曇らせ、己の両腕に視線を落とす。
この惨劇にも関わらず、彼の衣服には一滴の返り血も付着していない。しかし、グローブと外套の隙間から見えた彼の腕には、赤く輝く亀裂のようなものが走っていた。
「また、やっちまったのか、俺は……」
「……行くぞ、ジン。『当たり』を見つけた。西の街の時計塔にいるらしい。やつらを追い掛けるぞ」
彼のことを気遣っているのか、はたまた目的を果たそうと急いでいるのか。
アレンは立ち止まったままでいるジンの手首を掴むと、外へと続く出入り口に向かって歩き出すよう催促した。
アレンに連れられるまま、その場から離れ始めるジン。
基地を出るまでの間、二人が背後を振り返ることは一度もなかった。
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