第21話:追う者、追われる者
一方、東の路地。
警官隊がアレンとジンを見失った場所に、二人の青年は来ていた。
「この辺りですか? その二人組が姿をくらましたという場所は」
薄暗い路地を歩きながら、白衣を着た青年――レイは隣を歩いている青年に声を掛けた。
「はい。撒かれた警官隊の証言によりますと、片方は白い髪の青年。もう一人は短い赤い髪の少女とうかがっておりますが、少女の方はフードをかぶっていたようなので、その証言が合っているかどうかは怪しいところです。ブランドに連絡を取って、調べさせますか?」
レイの隣にいる青年は淡々とした口調で尋ねる。
やや紫みを帯びた濃い青色の長い髪を後ろで束ね、端整な顔立ちをした彼は、先程エイプリル・スプリングでレイと連絡を取っていた人物である。
「いいえ、その必要はありません。レザヴェルくんは、彼らと『焼死体事件』についてどのように考えていますか?」
「あくまで私の意見ですが、彼らは何らかの形で事件に関与していると思っております。そうでなければ、警官隊から逃走する必要はありません」
長髪の青年――レザヴェルははっきりと答えた。
「……なるほど。レザヴェルくんはそう思っているのですね。しかし、人間が取る行動には、時として誰にも理解することが出来ない理由を抱えていることもあるものです。もしかしたら、彼らにも何かしら事情があるのかもしれませんが……。このことについては、どう思いますか?」
「事情という言葉など、ただの言い訳に過ぎません。事件に関与しているのであれば、私は任務を遂行するのみです」
「……そうですか。――おや、あれは……」
ふと、何かを見つけたのか、レイは途中で会話を止めて西の方角を見た。
そんな彼の様子に、レザヴェルもまたレイの視線を追ってその先にあるものを見てみる。
そこには、河を挟んで反対側にある西の路地に、一人の少年の後を追うアレンとジンの姿があった。
(……あの少女は、確か先程の――)
「……こちら、レイです。キャサリンさん、聞こえますか?」
突然、誰かに話し掛けるレイ。彼がつけているイヤリングが青く輝いていることから、誰かと連絡を取っているらしい。
『……はーい! こちら、キャサリン・モーガン! どうかしましたか? レイさん』
やがてイヤリングから、女のものと思われるハキハキとした声が返ってきた。
「ええ、実は頼みたいことがありまして。今、私達が視えていますか?」
『ばーっちり、視えていますよ! 今、運河沿いの路地にいますよね?』
どうしてそのことを知っているのか、キャサリンと呼ばれた声の人物は、今、レイ達がいる場所をピタリと言い当てた。
彼女の返答にレイは満足げに微笑むと、西の路地にいるアレン達に視線を向けたまま、更に言葉を続ける。
「ええ。それでしたら今、運河を挟んで西の路地に、少年の後をつけている二人組が視えますよね? その方々を追跡してもらえますか?」
『んー、……あ! いたいた! この二人を見張ればいいんですね! りょーかいしました!』
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
用件を伝え終えて、レイはキャサリンとの通信を切った。青く輝いていたイヤリングの光が消滅していく。
「レイさん、彼らは――」
「レザヴェルくん、彼らを追い掛けますよ。もしかしたら、何か事件の手掛かりが掴めるかもしれません」
「はい。かしこまりました」
レイが突然取った行動に、レザヴェルは何も言及することなく、まるで忠実な機械人形のように返事をし、従った。
そのやり取りを終えるや否や、二人の青年は踵を返すと、アレン達を追い掛けるべく路地の通りを急いだ。
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