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Psychedelic~サイケデリック  作者: 幻想箱庭
第2章 襲撃と追跡者
20/62

第19話:作戦の失敗(1)

(……しまった! 顔を見られてしまった!! どうする、どうする!?)


 人気のない薄暗い路地で身を隠しながら、アッシュは焦っていた。

 彼の作戦では西の街で無差別に通行人を襲い、殺す予定であった。

 しかし、その作戦は失敗で終わってしまった。いや、失敗しただけならまだましだろう。

 何故なら、自分が襲った少女に顔を見られてしまったからだ。


 このままでは、自分が『焼死体事件』の犯人であることを警官隊に知らされてしまう。

 そんなことを考えているアッシュの左手には、空の注射器が握られていた。


 この中にあった緑色の液体は、無能力者には能力を与え、能力者には元あった力を強化させる効果があった。

 ただし、それらは一時的に与えられる恩恵に過ぎないが。


 とにかく、いつまでもこうしているわけにはいかない。今は少しでも街から離れて、より人目のつかない安全な場所まで逃げなくては。


 そう判断したアッシュは警官隊が動き出すよりも先に、基地がある無名区域(エリア)に戻ろうと急いでこの場を発つことにした。


「だから、いらねえって言ってるだろっ!」

「そういうわけにはいかねえだろ! お前、服がずぶ濡れじゃねえか! 風邪ひく前にこれだけでも着ろよ!」


 何やらこの近くで、男女の言い争う声が聞こえてくる。

 今、自分が置かれている状況と比べたらそんな会話などどうでもよかったのだが、たまたま通り掛かろうとした道の隙間から見えた人物の姿に、アッシュは立ち止まった。


(……アイツは……っ!)


 通りの陰に再び身を隠しつつ、アッシュはその人物を睨んだ。

 そこには、先程自分が奇襲した少女と、連れと思われる青年がいた。


「おまえ、さっきも言ったよな? あたしを女とガキ扱いするんじゃねえって」

「それとこれは関係ねえだろ! 人が親切に貸してやるって言っているのに、くだらねえ意地張りやがって。たまには人の言うことを聞けよっ!」


 互いに言い争う少女と青年。青年の手には彼のものと思われる外套が握られている。

 話の内容を聞く限り、濡れたままの少女に青年が服を貸そうとしているが、少女がそれを拒んでいるため、そのことで喧嘩をしているらしい。


「親切だぁ? おまえの親切なんて、いつ欲しいって言った?! おまえの親切なんかなくたって、あたしは一人でやってけるんだよ!」

「ああそうかよ! じゃあ、好きにしろっ!」


 そう少女に怒鳴りつけ、手にした外套を肩に掛けて、背を向けるようにそのままどこかへ去っていく青年。

 対する少女も、それまで彼がいた場所に唾を吐き捨て、頭を掻きむしる。


「あーーっ、マジ苛つくっ!」


 喧嘩別れした青年の姿が完全に見えなくなると、少女は苛立った様子で建物の壁を何度も蹴りつける。


「勝手に人にありがた迷惑押しつけて、勝手にどっかに行きやがって! あたしもあんなやつ、知るかっ!」


 一人で罵声を浴びせ続ける少女。しかし、その声に応える人物はもう誰もいない。

やがて少女も壁を蹴るのを止めて、青年が去っていった方角と真逆の方向へと歩き始めた。


 今もなお不満を口にしながら離れていく彼女に、アッシュはじっと目を凝らして思考を巡らせる。


(……ひょっとして、今なら不意を突いて殺れるか?)


 顔を見られたのならば、警官隊に通報されるよりも先に口封じすればいい。

 今なら少女は後ろを向いているため、自分の存在に気づいていないはずである。

 しかもたった一人。先程は運悪く気づかれてしまったが、ここには消火栓もないし、仮に気づかれたとしても同じ状況になることはまずあり得ない。


 意を決し、アッシュが再び少女を襲おうとしたその時だった。


 不意にどこからか聞こえてきた轟音。刹那、彼女の横を巨大な炎の塊がかすめ、その先の地面に直撃した。

 とっさに飛び退き、少女は塊が飛んできた方向を素早く見る。


 彼女の視線の先には――手のひらに炎をちらつかせ、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()が立っていた。


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