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Psychedelic~サイケデリック  作者: 幻想箱庭
第2章 襲撃と追跡者
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第14話:逃走(2)

「……はっ、馬鹿が。一昨日来やがれってんだ!」


 追手を撒きながら、ジンは後ろを向いて中指を立てた。

 その視線の先では、先程の隊員が大声で叫び、アレン達の前方にいる仲間に声を掛けていた。


「おまえ、嘘つくの超絶下手くそだった癖に、よくそういう悪知恵が働くな」

「お前こそ、発言はともかく、よく俺が合図も出していねえのに、すぐに逃げ出せたじゃねえか」

「『この国の住民』の時点だよ。合いもしねえ特徴を教えといて、後で見せるなんてことはまずねえだろ。口封じが駄目なら後はとんずらするだけ。おまえの考えなんざ、大概察しがつくんだよ」

「たまたま手続き書の量が多くて助かったぜ。そうじゃなかったら時間稼ぎもほぼ成功しなかっただろうし、どの特徴の奴がどれくらいいるのか予め把握していたかもしれねえしな」

「まあな。……だけど、この状況はまずくねえか? この人混みの中を逃げるのはともかく、万が一住民共が協力して取り押さえに掛かってきたら、いくらあたしでも蹴散らさねえと逃げるのは困難だぞ?」


 アレンがちらりと周囲を見渡す。すると前方と後方にいた警官隊が、二人を捕まえようと退路を塞いでいた。

 左右は建物。彼女の言う通り、強行突破でもしない限り、捕まるのは時間の問題だろう。


「何も汽車の道は一直線ってわけじゃねえだろ?」

「あ?」

「時には脱線もするものさ! しっかり掴まっていろ!!」


 ジンが言った直後、アレンは急に自身の体が浮くような感覚に襲われた。彼がアレンを抱きかかえ、下屋を踏み台にして建物の屋根に飛び乗ったからだ。

 唖然とした顔をする警官隊。そんな彼らのことなど歯牙にも掛けずに、ジンは屋根から屋根へと次々に飛び移って逃走した。


「西だ! 西へ逃げたぞ!!」


 そう叫び、警官隊はすかさず地上から追い掛ける。


「遅え! 遅え遅え遅え遅えっ!!」


 アレンを抱えたまま、笑いながら疾走するジン。やがて屋根の上から路地を通り抜けると、前方に大きな河が広がっているのが見えた。

 この河は運河と呼ばれており、イレイザートを西と東に分かつ境界線となる、国一番の長さを誇っているものであった。


 行く手を阻まれ、行き止まりに追い込まれるジン。あと少しも経たないうちに、警官隊に追いつかれてしまうだろう。しかし――。


「ハッハアッ!!」


 楽しそうに叫び、彼は目の前の運河に立ち止まるどころか、一層速度を上げて真っ向から向かっていく。

 そして両脚に力を込め、足元から黒い渦のようなものが現れた次の瞬間、彼は屋根の上から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 空の青と河の青の間を一つの黒い影がよぎる。

 空中を飛びながら、次第に近づいてくる地面に恐れることもなく、ジンは体勢を低くし、大きな音を立てて河の反対側にある西の路地に着地した。


「……っ!!」


 着地時の衝撃を受けるアレン。

 ジンの足元から発動していた黒い渦によって、そのほとんどは緩和されたが、体の中で内臓が叩きつけられる感覚に苦痛の声を漏らす。

 だが、これで追手から逃げ切ることには成功した。今頃東の路地では、まさか河を飛び越えて西に逃げたとは思ってもいない警官隊が、急に姿をくらましたアレン達を懸命に捜していることだろう。


「ふぅ~。ここまで来れば、警官隊もそう簡単には追いつけねえだだろ」

「……おい、ジン」

「さーて、追手が来る前に、早くどっかに身を隠すぞ」

「ジン」

「どうするかな~。取りあえずここを抜けて、街に出て安全な場所を探し始めるか――」

「おるぁっ!」


 いきなりジンの鳩尾(みぞおち)部分に一撃を加えるアレン。


「ぐはあっ! な、何しやがる、おい!?」

「いつまでもあたしを抱きかかえてるんじゃねえ! さっさと降ろせっていうんだよ、馬鹿が!」


 彼に抱えられた状態のまま、アレンはそう罵声を浴びせた。


 暫しの沈黙。アレンの態度に無表情になったジンは、彼女の要望に応えて無言で地面に降ろした。

 そして自身が着ていた外套を脱ぐと、彼女の頭にフードをかぶせて羽織らせる。


「いらねえよ」


 そう言い放ち、彼の外套を着ていたマントごと地面に投げ捨てるアレン。そして腰に巻いてあった上着の袖をほどくと、自身の頭に上着のフードをかぶせてからそれを着た。


「……はぁ」

「何だよ」

「……お前なぁ。これでも一応、女子供なんだろ? たまには少し、人に頼ってみるのもいいんじゃねえのか?」


 呆れ顔でため息をつき、アレンに物申すジン。


「うるせえよ。前にも言ったはずだ。あたしを女やガキと一緒にするんじゃねえ」


 低い声で言いながら、威嚇するような目つきでアレンはジンを睨んだ。

 彼女の言葉に、彼は再びため息をついてから、ぼそりと小声で呟く。


「……十分ガキのような気がするんだが」

「ああ?! 何か言ったか、ジン!」

「何でもねえよ。取りあえず、いつまでもここにいたら河の向こうから俺達の姿が見られちまう。いったんここから離れて街に出るぞ」

「……ちっ」


 ジンの真っ当な意見に舌打ちするアレン。

 やがて彼女は声を掛けることも振り返ることもなく、ジンをその場に残して、路地を抜けるべく一人で動き出した。


 そんなアレンを無言で見つめ、投げ捨てられた物を回収すると、ジンは彼女の後を追うためゆっくりと歩き始めた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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