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逃避行

 ゼニガーとプラムが衰弱死したということは、同じデバフがかかっていた神殺しの団(ラグナレク)全員も死亡したということだろう。

 その事実は酷く重い。


「ミース……ミース……ごめんなさい……ごめんなさい……」

「大丈夫、俺はこれからルーさんを守ることだけをするよ」


 ルーは、ミースの骨が見えている拳や、額についたアザ――自傷の痕を見てひたすら謝った。

 ミースは既に覚悟を決めていて、ルーに対しては無理やりにでも笑顔を見せる。


「さてと、まずはここから一番近い町――成長の町ツヴォーデンへ行きましょうか」

「ツヴォーデンへ……?」

「メラニ理事長なら今後の事を色々と相談に乗って頂けるかなと」


 ルーはビクッとして、立ち止まってしまう。

 きっと自分が放棄した役目を責められると思ったのだろう。

 ミースは『大丈夫』と呟いて、ルーの小さな手と手を繋いで安心させてあげた。




 ***




「なるほど、状況は理解しました」


 冒険者学校の理事長室、ミースの手当てをしながらメラニはそう言った。

 彼女に事情を話し終えた二人は――といっても大体はミースが説明し、聞かれた時だけルーが頷いていた。

 メラニは現状を理解したのに、あまり驚きもせず冷静だ。

 そして、一言だけ聞いてきた。


「跳躍侯、記憶はまだあるのですね?」

「えっ、あっ……」


 今まではただ頷くだけだったルーが、その言葉には取り乱してしまう。

 代わりにミースが答えることにした。


「大丈夫ですよ。ルーさんは頭を打ったりもしていないので、記憶も平気です」


 メラニはミースの眼をジッと見てきた。

 そこに何かを感じ取ったのか、ふと表情を和らげる。


「そうですか。それならいいです」


 そう言うだけで、他の事は何も聞かなかった。

 すべてが無意味だという風に。


「さて、ミース君と跳躍侯の今後ですが――おそらく、冒険者学校があるツヴォーデンは悪魔たちに占領されることでしょう」

「悪魔たちに占領……? ということは、魔界から攻めてくるのですか?」

「ミース君、良い質問です。ストッパーであった神殺しの団(ラグナレク)が消滅したとなれば、そうなるのも必然。次に……人界にやってきた悪魔たちは人間たちの戦力をそぎ落とそうとします」


 ミースは、神殺しの団(ラグナレク)がどれほどに重要な存在だったかを改めて思い知る。

 平和というのは崩れるのは一瞬でも、維持するというのは多大なる貢献者たちのおかげだったのだ。


「ミース君に馴染みのあるアインシアも、たぶん悪魔が攻めてきますね。となると~……冒険者が少ない地、ドライクルへ逃げることをオススメします」

「ドライクルへ……ですか?」


 振り落としの町と呼ばれるドライクル。

 南の方にある町で、無限に湧き出るオアシスの水でフルーツ栽培が有名なところだ。

 だが、振り落としの由縁となるもう一つの顔がある。

 神々が争ったときに出来たという特殊な砂漠が周囲を覆っており、辿り着くためにはかなり苦労するのだ。

 何の装備もガイドもなければ、辿り着くまでに問答無用で振り落とされる。

 ドライクルにある交易用の転移陣は一方通行なので、こちらからは徒歩で行くしかない。


「あそこはダンジョンがないですからね。その関係で冒険者もいないので、悪魔も攻めて来にくいでしょう。知り合いへの紹介状も書きますので、現地に行けば衣食住は確保できるはずです」

「わかりました、ありがとうございます。……メラニ理事長はこれからどうするのですか?」


 ミースの質問に対して、メラニはスラスラと紹介状を書きながら答えた。


「そうですね……無駄だと思いますが、最期までこの冒険者学校を守ります」

「だったら、俺も――」

「いいえ、それはダメです。あなたは……あなただけは穏やかに、最後の一秒まで跳躍侯の側にいてあげなさい。それが救いです」


 メラニの言葉は静かで、重く、強い意志が込められていた。

 覚悟を決めた者の言葉だ。

 ミースはそれを否定できない。


「……はい」

「あ~あ。私は本当は羨ましいと思っていますよ。こんな状況でも一緒に居てくれる男の人か~……どこかの誰かさん――ミース君の先生とか~……はぁ~……」

「それって、フェアト先生のことですか?」

「ミース君は、あんな女泣かせにはならないようにしてくださいね」


 そう笑いながら、メラニは紹介状を手渡してきた。

 それが彼女との最後の時間だった。

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