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五周目、折れた心の風竜人

 雑木林の中、ミースは倒れてしまったゼニガーとプラムを看病していた。

 そこにルーがやってくる。

 いつも装備しているナイフも落としてきたのか見当たらず、その表情は俯いていて影を落としている。


「……ルーさん?」

「……」


 ルーは何も言わずに記憶を渡してきた。

 そこで見たのは策を尽くし、全力を尽くし、精も根も尽き果てたような最後での――どうしようもならないような現実、突き付けられた絶望だった。

 ミースはそれでも冷静に振る舞おうとする。


「……あと数時間で片角王を倒し、最後にやってくる超巨大な悪魔をどうにかする……方法は……」


 無い。

 無いとしか考えられない。

 実際、この段階でどうにかする手段は無い。

 いつも前向きなミースだが、こればかりはどうしようもならないという壁に当たってしまった。

 しかし、この瞬間もデバフによる蝕みは続いているし、エンシェント・デーモンによる十剣人襲撃、超巨大悪魔による本拠地破壊のタイムリミットが迫ってきている。

 ループも実質これで最後というのを考えると、時間を無駄にはしていられない。

 ミースは、ルーに呼びかけて本拠地へ向かおうとしたのだが――


「ルーさん、本拠地へ――」

「……やだ」

「え?」


 ミースは耳を疑った。


「る、ルーさん……?」

「やだ……もうやだ……」


 それは聞き間違いなどではない。

 人界を救うための世界最強のギルド神殺しの団(ラグナレク)、その象徴である十剣人の跳躍侯が、この状況で『やだ』と言っているのだ。


「い、いや、でも……この状況をどうにかしないと神殺しの団(ラグナレク)も……ゼニガーとプラムも……」


 予想外の出来事に気が動転してしまったミースは、つい口を滑らせてしまった。

 今までは二人にはなるべく心配させまいと隠していたのに。


「ミースはん……?」

「どういうこと、ミース……?」


 言えない。

 これから数時間後に死を迎えるとは。

 黙るミース。

 そんな中、ルーは頭を抱えてしゃがみ込んでしまい、堰を切ったように大声で叫んだ。


「もうやだ……! ループを繰り返して死ぬのは辛い……! 怖い、痛い、ミースも死んじゃう、何度も死んじゃう! 悪魔、悪魔、殺した悪魔! ルーの父親、母親、兄、親戚、隣人、知り合い、すべてを殺した悪魔も出てきた! もうやだよ! もう……もう……!」


 明らかに錯乱している。

 目に涙を浮かべ、呼吸が乱れ、急に静かになってガタガタと震え始めた。

 とても風竜人の戦士とは思えない姿だ。

 ミースは戸惑いながらも、肩を揺さぶって会話しようとしたのだが――


「……ミース、ちょっとこっちに来なさい」

「せやな」


 怒りを込めたプラムと、呆れた感じのゼニガーの声だ。

 ミースは言うとおりに二人の近くへ行く。


「い、今一刻を争っていてそれどころじゃ……」

「それどころって何よ。あんな小さな女の子を泣かせて、サイテーだわ」

「こ、これには事情が……」


 プラムからこんなにきつい言葉をかけられたことはない。

 だが、ミースとしても引けない。


「ミースはんが、そない必死になるっちゅーことは、きっとワイらの命とかやな?」

「そ、それは……」

「ワイらは後悔せぇへん、事情を話してみるんや」


 ミースのことは何でもお見通しの二人の前では、自然と口を開いてしまう。


「……実は――」


 これまでの経緯を説明した。





「数時間後にワイらが……なるほどなぁ……」

「だから……! 絶対に俺とルーさんがやらなくちゃ……! そうしなきゃ二人は……!」


 珍しくミースは理性ではなく、感情剥き出しの言葉を吐き出している。

 それに対してゼニガーは諭すように言う。


「なぁ、ミースはん。あんさんが十歳のときはどんなやった?」

「それは……」


 ゼニガーはミースの過去を知っているはずだ。

 知っていて、その上で聞いてきている。

 父親から酷い仕打ちを受け、人間と言えるか怪しい生活をして、いつも死にそうで、プラムと出会わなければどうなっていたかわからない。

 それがミースの十歳だ。

 ほとんど自分で考えるということすらできなかった十歳だ。


 対して、十歳のルーはどうだろう。

 もっと小さいときから厳しい戦士としての生き方を強要され、周りの者をすべて悪魔に殺され、十剣人の跳躍侯という立場のプレッシャーに耐え続けたのだ。

 とても無理をしていたに違いない。

 今回のループで心が折れてしまっても、たかが十歳の少女がそれまでギリギリの綱渡りで心を保っていたというだけだ。

 誰が責められるのだろうか、誰がもっと頑張れと言えるのだろうか。


「あ……」


 ミースは自分の馬鹿さ加減が嫌になった。

 子どもだった頃は年上の肉親に酷いことをされる立場だったのに、今度は年下のルーにそれを強要しようとしていたのだ。

 それをゼニガー、プラムに気付かされて言葉もない。

 思わず歯がみしてしまう。

 そんなミースを見て、プラムは静かに力強く言い放つ。

 自らが死の運命を迎えようとしているのに、だ。


「私たちのことはいいから、あの子を助けてあげなさい。それがミースらしいわ」

「でも、それじゃあ二人は……」

「ミースはんは、ミースはんらしく生きるのが一番。それがワイらの望みっちゅーことやな!」

「ゼニガー……プラム……」


 長い沈黙。

 魂が抜けた表情でミースはポツリと呟いた。


「わかったよ……」


 現状、デバフにかかっている者を助ける手段はない。

 あの超巨大悪魔を倒す手段もない。

 諦めるしかない。

 ミースは、二人が衰弱して死亡するまで一緒にいた。

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