磨り減る心と告白と
雑木林の中でミースは、プラムとゼニガーを看病していた。
そうしていると遠くから泣き腫らしたルーがやってきて、勢いよく抱きつかれた。
「ミース! 死んだら嫌だ! ミース!!」
「ルーさん……?」
何が何だかわからなかったミースだが、ルーに記憶を転写されてすべて思い出した。
それと同時に、ルーがここまで動揺しているのは過剰に思えた。
「ルーさん、落ち着いてください。俺は生きてますし、たとえ俺なんかが死んだとしても気にしないでください」
そう言って安心させようとしたのだが、さらにルーのことを泣かせてしまった。
ミースは首を傾げる。
早く本拠地に急がなければいけないのだが、このままでは出発できない。
「ミースはん、事情はようわからんけど……もうちょっとルーはんに優しくしたるんや……」
「え?」
「そうよ、ミース。泣いている女の子にする対応じゃないわ。私は、私に優しくしてくれるミースも好きだけど、他の人に優しくするミースも好きなんだからね」
デバフで弱っているはずのゼニガーとプラムから叱られてしまった。
それほどまでに対応がまずかったのかと反省した。
「えーっと……よくわからないけど、オレが悪いのかな。ごめん、ルーさん」
ミースは小さい子をあやすように、優しく抱擁して、髪型を崩さないように気を付けながら頭を撫でた。
フェアト先生に教わったものだが、ルーが少しずつ泣き止んでくれている感じなので、意外と効果てきめんらしい。
「……ごめん、落ち着いた。ゼニガーとプラムと言ったっけ……ありがとう……。少しミースを借りていく……事情はすべてが解決したら話す。風竜人の誇りに懸けて約束する」
ルーは珍しく謙虚に頭を下げた。
ゼニガーとプラムは一瞬目を丸くしたのだが、すぐに力ない笑顔を返した。
「お構いなくや。ミースはんがそう判断したならワイらはそれに従うまで」
「ミース。私たちのことより、今はルーさんのことを気にかけてあげなさい」
「う、うん。それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」
女の子を気遣うというのは戦うことよりも難しいなと思いながら、本拠地に向かって出発したのであった。
本拠地までの移動時間、いつものようにルーと話すことにした。
今回はこれまでのループと違って、何やらルーがおかしかったこともある。
「ルーさん、えーっと……あの……すごい取り乱してたけど……どうしたんですか? もしかして、俺が片角王に殺されたあとに何か――」
「……片角王はひと思いにルーを殺したよ。余計な痛みも辱めもない」
「それじゃあ、どうしてですか……?」
ルーは言いづらそうな表情だったが、少しためらいつつも答えてくれた。
「ミースが死んだのを見たから」
「え? ……あ、すみません。グロかったですかね。お見苦しい死に様を見せてしまいまし――」
「違う……ミースが死んで悲しかった……」
ミースは耳を疑った。
自分が死んだだけであれ程までに取り乱したというのだ。
さすがにおかしすぎる。
「な、何度か死ぬ姿を見せてますよね? どうして急に……」
「急にじゃない……少しずつ……好きになったのかもしれない……」
「あ、あはは……俺のことを好いてくれて光栄です」
好感を持つと言うことだろう。
戦い方の工夫などが、きっと戦士として――
「初めてだから良く分からないけど、たぶんそういう好きじゃない……。ルーは……ミースのことを……一人の女の子として好きになった……」
「んんっ!?」
突然すぎる、どストレートな告白を受けた。
いくらそういうことに疎いミースでも、さすがに恋愛というものだとわかってしまう。
丁度、そのタイミングで本拠地への転移陣へ到着した。
「あの、その……ルーさん……?」
「今はそういう状況じゃないのもわかってる。だから答えはいらない。次のループが限界だから、先に言っておきたかっただけだ」
「そ、そうですか……」
「……バーカ! そんなに身体を強張らせるなよ! こっちまで……なんだ……もっともっと意識しちゃうだろ! 今回のループで終わらせるつもりなんだから、いつものように無駄に冷静沈着でいろ~ッ! 十剣人、跳躍侯の命令だぞ! ザコミースめ!」
「は、はい!」
「……それに……たぶん、お前なら今回で倒せる算段は付けてるんだろう?」
「はい……!」
ミースは無理やり頭を切り替えて、本拠地内に突入した。