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神殺しの団ダンジョン、ボス戦

「……ボス部屋前に到着だ」

「結構ダメージを負いましたが、次のループは色々と工夫してもっと安全に移動できそうですね」

「あとたった二回のループで最後だからなぁ……ルーはなるべくこれで終わりにしたい……」


 二人が到着したボス部屋は、以前やってきた時とあまり見た目が変わっていない。

 ミースは、ここでハインリヒに『レッドハートと呼ばれる結晶体を装備成長スキルで修復してくれ』と頼まれていたのを、つい昨日のように思い出してしまう。

 しかし、そんなことよりも先にボスを倒して、状況を好転させなければ神殺しの団(ラグナレク)が壊滅だ。


「さてと、部屋の中に入ってボスと――……そういえば、この部屋も〝耳の大地〟みたいに面白ネーミングがあるんですか?」

「いや、向こうはルインが気まぐれに付けただけで、こっちは……たしか〝どーりょくしつ〟とか呼ばれていた気がする」

「……動力室?」


 珍しい言葉だが、ボスを倒すことには関係がなさそうなので、そこは気にせずにボス部屋の扉を開けることにした。

 ミースの頬を生ぬるい風が撫でる。

 部屋の中もあまり変わっていないのだが、そこに立っている〝存在〟一つで空気が大きく違う。


「道中のエンシェント・デーモンよりデカいですね……」

「それだけじゃない。この魔力量、ルーの倍はあるかもしれない……」


 立っていたのは身長三メートルはあろうかというエンシェント・デーモン。

 角が片方折れていて、歴戦の強者という風体だ。

 今まで最初から傷有りのモンスターは見たことがないので、このダンジョンはそれほどに特殊なのかもしれない。


『よく来たな、人間よ』

「……ダンジョンのモンスターが喋った!?」


 今まで前例のないことにミースたちは驚いてしまう。

 それと同時に会話ができるのなら、何とか戦わずに済む方法もあるのではという選択肢を思いつく。


「あなたはなぜ、こんな場所で――」

『憎き神々に未来を奪われた種、今は仮初めの身体。言葉は不要、死合う以外に吾輩の選択肢はないのだ』


 エンシェント・デーモンは床に突き刺さっていた二本の剣を引き抜き、巨体を活かした重厚感ある構えを取った。


『吾輩はエンシェント・デーモンの長、片角王――推して参る』

「くっ、戦うしかないのか!」


 エンシェント・デーモンのボス――片角王はドスンドスンと足音を響かせながら迫ってきた。

 二本の剣を振り上げる。

 ミースはそれを盾で防ごうと一瞬思ったが、ふとゼニガーの顔が浮かんだ。


(たぶん『慣れないミースはんにはきついやろ』って、突っ込まれる気がするな)


 確信はないが、たったそれだけでミースはバックステップをして大きく後ろへ下がった。

 瞬間、ミースが元いた場所には、長大で重厚な二本の剣が深く突き刺さる。

 大地が揺れたと錯覚する程の凄まじい威力だ。

 よく考えたら、今までのエンシェント・デーモンたちは素手であの強さだったのだ。

 その長である片角王が武器を使ったら、こうも恐ろしい威力が出るということなのだろう。


「こんなことならオーロフにパリィでも教えてもらえばよかったな……」


 気圧されないように冗談めいた言葉を吐くしかない。

 横にいるルーも隙を見て短距離転移で回り込もうとしていたようだが、どうやらチャンスがなかったようだ。


『どうした、打ち込んで来ぬのか?』


 片角王は挑発をしてくるが、それに乗るわけにはいかない。

 一見、ゆったりとした重い動きだが、明らかに戦い慣れをしている。

 一撃を入れられたとしても、骨を切らせて肉を立つようなカウンターを狙ってくるだろう。

 それほどまでに知性ある者同士での体格差というのは大きい。

 これがただのボスモンスターだったのなら、どんなに楽だったかと実感する。


「そんなに言うんだったらやってやるよ!」

「ルーさん!?」


 強者との戦いで血が騒いでしまったのか、それともスキルでヘイトアップの効果があったのか。


(――いや、たぶん度重なるループでもう心が限界に近いんだ……)


 とにかくルーは片角王へと斬りかかって行ってしまう。


『本当に真っ正面から打ち込んでくるとはな』


 片角王は横薙ぎに剣を振った。

 ルーはピョンッと身軽な動きでジャンプしてそれを躱すが、片角王はもう一本の剣で迎撃を狙う。

 空中では避けられないので普通なら詰みだ。


「そうくると思った!」


 ルーは真っ二つになる前に空中で短距離転移をして、片角王の眼前へ出現した。

 さすがに視覚目一杯に敵が現れれば動揺を誘うだろう。

 そのままルーはナイフで攻撃しようとしたのだが――


『ヌンッ!』

「がぁッ!?」


 泥臭い喧嘩だと言わんばかりに頭突きをする片角王。

 体重の軽いルーは簡単に吹き飛ばされ、地面に激突して、体勢を立て直せない状態になってしまった。

 隙を見逃さない片角王の剣が迫る。


『剣の錆となれ』

「ルーさんは俺が守る!」


 ミースが青銅の盾+99を構え、間に入って庇う。

 限界まで床を踏みしめ、それと同時に繊細な動きで片角王の剣をミリ単位でいなす。

 衝撃、耳鳴り。

 天地が逆転して、周囲の状況がよくわからない。

 一瞬の隙が命取りなので、いち早く現状理解しなければならない。


(攻撃で吹き飛ばされ、回転して床に倒れている……右腕は……ダメだ。折れている。青銅の盾+99も最小限でいなしたはずなのに壊れた)


 壊れた青銅の盾+99を投げ捨てながら、ミースは骨折の痛みを我慢して立ち上がった。

 片角王の追撃が来るかと思ったが、ルーが立ち上がって構え続けていたのを警戒されて助かったようだ。


「ごめん……ミース……ごめん……」

「大丈夫です、ルーさんが無事なら負けていません」


 ルーが責任を感じて泣きそうな顔になっているが、まだまだ勝負はこれからだ。

 ミースは先ほどの攻撃から、どう戦うかを考えた。


(盾ですら防げない重い一撃……銀の剣+99で受けたり、鍔迫り合いをしたりするのはきついな……。戦い慣れしていて意表も突きにくい。そうなると正攻法で回避しつつ、全力で攻撃してやられる前にやるしかないか)


「ルーさん、出し惜しみなしでいきましょう」

「わ、わかった……ミース……」

「また呼び方が戻りましたね?」

「な、何のことかわからないなぁ! ザコミース!!」


 揺れていたメンタルが少しだけ平常に戻り、二人は武器を構え直した。

 ここから先は余計なことは一切必要ない。

 避けて、斬るだけだ。


「いきます!」

「合わせる!」


 ミースに残されているのは残り少ない体力と、左手一本、それと銀の剣+99だけだ。

 それだけで強大な片角王に立ち向かわなければならない。

 しかし、そんなことは慣れている。

 ただ出来ることを全力でするだけだ。


 片角王に向かって走る。

 ガードは捨てて全力で。


『お主、素早いな……。だが、カトンボのようなモノよ』


 片角王の二刀流の内、片方がミースを狙ってくる。

 普通、二刀流というものは両手持ちと違い、威力を犠牲にして手数などを増やすものだ。

 これが片角王の場合、一本でも巨木のような迫力を帯びているのだ。

 一撃でもマトモに食らえば人間は耐えられないので、単純に二倍以上は気を付ける必要がある。

 ミースの眼前に迫る横薙ぎ。


(巨大な剣での横薙ぎ……射程が長すぎて前後左右へは避けられない。ルーさんのようにジャンプで避けたら次で詰む。選択肢的には下しかない……!)


 ただしゃがむだけの場合は足が止まってしまうので、スライディングのような形で避けたのだが、それでもまだ片角王へは距離が足りない。

 攻撃をするよりも先に、もう一本の剣で攻撃されると頭の中で警鐘が鳴る。


「ルーも忘れるなよ!」


 ルーも同時に攻撃を仕掛けて、片角王のもう一本の剣で防御させることに成功した。

 ミースはその隙に距離を詰めた。

 いける、射程内だ。


「ここが出しどころだ! 新式・九の聖光搦げ邪滅す刃ナイン・ホーリークルス!!」

『ぐぬゥゥ! その力は懐かしきあの神の……!』


 神気を纏った輝きが奔り、目にも止まらぬ十字の連撃が煌めく。

 通じるか心配だったが、ミースの渾身の一撃は片角王にかなりのダメージを与えていた。

 黒い甲殻がひび割れ、紫色の血が流れ出している。

 その太い両腕も斬り割かれて、だらりと伸びている。

 全体的にかなりの出血だが、それでも倒れはしない。

 このチャンスにミースは追撃をしようとするが、体力の消耗と慣れない左腕で撃ったことによって身体がすぐには動かない。

 代わりにルーが特攻してナイフの刃を何度も突き刺している。


『それでは、こちらも礼儀として本気を出すとしようではないか……!』


 一気に片角王の魔力が膨れあがった。

 これは大技が来る前兆だと、これまでの経験から察した。

 ルーは攻撃に集中しているのか気が付いていない。


「ルーさん、離れて!」

「……え?」


 ミースは、直感でルーを突き飛ばした。

 次に感じたのは両肩をガッシリと掴まれ、サメのような巨大なギザギザの牙が迫ってくるところだった。


(なるほど、面白い……これは一回で勝てる相手じゃないな……)


 窮地に陥り、本気を出した片角王は身体を変化させていた。

 腕は四本となり、腹の部分に大きな口が開いている。


「ミース!? そんな、ミース!?」


 ガパッと開く腹の口。

 ミースは片角王に食べられたところで、三周目の記憶は終了した。

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