三周目開始
本拠地へ向かう雑木林の中――ミースは悪寒を感じ、プラムとゼニガーが膝から崩れ落ちてしまった。
しばらくするとルーが急いでやってきて、ミースに記憶を共有した。
「ほら、三周目……いや、お前にとっちゃ二周目か。さらに記憶が積み重なって混乱すると思うが――」
「平気なので移動しながら話しましょう、ルーさん」
「相変わらず冷静すぎるな……本当に人間なのかと疑っちまう……」
前回と同じようにプラムとゼニガーにカモフラージュの魔法をかけてから、本拠地へ向かうミースとルーの二人。
そこでルーは前回――つまり二周目の話を切り出した。
「おい、ザコミース。なんでエンシェント・デーモンに最後まで抗わなかったんだよ」
前回、ミースはエンシェント・デーモンの群れに包囲されたあと、特に抵抗もせずに殺されていた。
残りはルーとレッドエイトしか戦えないので、呆気なく全滅して三周目となったのだ。
「えーっと、それはですね……。あ、今回はルーさんの記憶ではなく、俺の記憶が入っていますね。自分の思考部分が把握できます。これは便利ですね」
「言い忘れてたけど、このスキルは一人だけ共有者を選べる。選ばれた者、つまり本人の記憶を持ち越せる感じだ。今回は仕方なくザコミースを選んでやったんだから、光栄に思えよ!」
「あはは、ありがとうございます」
「それで、なんで――」
ルーは同じ事を聞いてこようとしたので、ミースは時間省略のために先手で話し出した。
「エンシェント・デーモンの集団に最後まで抗わなかったのは、精神的な面を考慮してです」
「精神的な面……?」
「まず、悔しいですが前提としてエンシェント・デーモンが集団で襲ってきた場合はどうやっても勝てません」
「そ、それでも精一杯戦うってのが戦士としての――」
「いえ、次のループを考えて、なるべく精神的な負担を考えるべきです」
「なんだそりゃ?」
「一周目でルーさんは最後に頑張りましたが、二周目の開始時点でかなり精神面が消耗していました。これはつまり、ループを跨いでも精神的な消耗は引き継がれるということです。ループの限界が……えーっと、あと二回だとしても、最悪の事態を考えて、あと二回は耐えられるように精神面も気遣わなければなりません」
「な、何を言っているのかよくわからない……」
ミースは少し反省した。
この能力を、きっと幼いルー自身もそこまで使ったことはないのだろう。
もっと簡潔にわかりやすく伝えることにした。
「俺はルーさんが大事です」
「はぁっ!?」
「なので、ルーさんが頑張りすぎて心が折れてしまわないように、俺が守ります」
「ば、バーカ! バカザコミース! ルーの心が折れるはずないだろう! ……でも、まぁ、よくわかんないけど、頭脳担当のお前がそういうのも必要だっていうのなら……その、なんだろう……ルーの心を守ら……えと、任せる……」
「はい、任されました。ルーさんが一番大事なので」
なぜかルーは恥ずかしそうにしているが、それはきっと誇り高き風竜人の戦士として、人間風情に守られるのを恥じるということだろう。
ミースはそう納得した。
(種族差って難しいなぁ……!)
そうしている内に本拠地の転移陣に到着。
ダンジョン化している内部へと侵入した。
もうその変貌っぷりも慣れてきたもので、素早く最初のエンシェント・デーモンへ攻撃を仕掛ける。
『ゴァッ!?』
三回目ともなると迷いなく、敵に瞬時に近付くことによって意表を突く形となり、エンシェント・デーモンですら驚きの声をあげていた。
最初は不気味でミステリアスな雰囲気だったが、名前などがわかってくるとただのモンスターとして認識できる。
「もう効かない!」
エンシェント・デーモンの繰り出してくる拳を、ミースは慣れた手つきで盾を使っていなしていく。
受けるダメージも最小限だ。
それと同時にルーが速攻でデーモンの後ろへ短距離転移をして、ナイフで首を切断して倒していた。
この間、数秒の出来事である。
「次、ボス部屋へのルートでお願いします」
「わかってる、まずは最短で行くぞ」
三周目ともなると意思疎通もスムーズに進み、すぐに移動を開始した。
しばらく進んで次のエンシェント・デーモンと接敵したが、この個体はルーの一撃では倒せない。
以前と同じように背後に短距離転移して首に一撃を与えたあと――
「ホーリークルス!」
『ゴグァ!?』
ルーに意識が向いた瞬間に攻撃スキルを当てた。
まるで行動がわかっていたかのような連係攻撃に対して、エンシェント・デーモンはさらなる隙ができた。
「二撃は耐えられないだろ!!」
ルーが竜気を纏わせたナイフで再度、首に攻撃してトドメを刺した。
首と胴体が離れたエンシェント・デーモンは魔素となって消滅していく。
「ルーさん、相性バッチリですね!」
「……そ、そうだな……相性は良いかも……」
ルーはなぜか顔を向けてくれず、やはり風竜人の戦士というのは幼くても気難しいんだなと思った。
「じ、実はいつもザコミースとか言ってたけど、それは嫌いというわけじゃなくてだな……その……照れ――」
「あっ!! 大事なことに気が付きました!!」
「ひゃっ!? なんだよ~!?」
「エンシェント・デーモンは何もドロップしてません! もしかして、ドロップアイテムがないモンスターなんですかね……!? 戦いに余裕ができて、ほんっと今更ながらの気付きですよ……!」
「……バーカ、ザコミース」
なぜかルーは不機嫌になってしまったのだが、ミースは理由がわからずじまいだった。