神殺しの団ダンジョンに突入
内部に突入すると、そこは見慣れない形に変化していた。
大まかな地形は本拠地のままなのだが、壁や床の表面がダンジョン特有の素材に入れ替わっている。
それと一番違うのは、やはり徘徊する黒いモンスターだ。
「なるほど。たしかに肉眼で見ると、配置的に開いている鉄壁の門まで敵をスルーできそうに思えてしまいますね……」
「だろ? ルーは悪くない!」
「といっても、もう相手が感知して素早く行動することはわかっているので、きちんと倒して進みましょう。盾としては俺の方がまだマシっぽいので、先に突っ込みます」
「あ、今ルーのことを攻撃と素早さだけの風竜人と思ったな……? ザコミースのくせに生意気だぞ~!」
ミースは面倒臭い絡まれ方をしたので聞かなかったフリをした。
大収納から装備を選択して、ゼニガーの青銅の盾+99の予備を借りる。
これを利き手である右手持ちで防御重視にして、左手には銀の剣+99だ。
いつもと比べて攻撃面は劣るが、そちらはルーに任せれば良い。
余談だが――なぜ予備があるかというと、リュザッククラスになると+99装備でも破壊されるとわかったので、売られている物などで急造しておいたのだ。
他にも売られている高級なダンジョン装備もあったのだが、元が強すぎるダンジョン装備だと上手く使えないというのもある。
目安としては、自身で潜ったことのあるダンジョン装備が適正だ。
「では、行きます!」
ある程度近付くと、かなりの素早さで黒いモンスターが迫ってきた。
長い腕から拳が繰り出される。
「くっ!」
青銅の盾+99で防御したのだが、一撃だけでも腕がビリビリと痺れてしまう。
普段ゼニガーがやっているように、直撃を避けて、的確にいなさなければならないらしい。
再び襲い来る拳を注視して、盾に対して斜めに滑らせる。
「……よし、何とかなる!」
二撃目を上手くいなして、黒いモンスターの拳は防げるとわかった。
あとは異常に攻撃力の高そうな噛み付き攻撃を注意しつつ、隙があるときに攻撃するのが盾役であるミースの役割だろう。
ためしに銀の剣+99で黒いモンスターを斬りつけてみる。
「硬っ!?」
真っ直ぐに斬撃が入ったと思ったのだが、その黒く硬質な肌にギィンと弾かれてしまった。
これ以上の威力を出すには攻撃スキルしかないのだが、それでは隙が出来て盾としての役割が危うくなるだろう。
ようやく制御できるようになってきた【創世神の右手】も、さすがに連発はきつい。
どのくらいのペース配分をすればいいのかわからない今は、なるべく慎重になるべきだろう。
「というわけで、ルーさん任せました!」
「何が『というわけで』かはわからないけど、任されてやるよ! ザコミース!」
上手くミースが注意を引いていたところに、ルーが黒いモンスターの背後に短距離転移をしていた。
黒いモンスターも気付くのが遅れて、しかもミースへ攻撃をしている最中なので振り向くことができない。
「もらったぁ!」
魔力とも違う、神々しい何かを纏わせた短剣が弧を描く。
黒いモンスターの首が宙を飛んでいた。
「すごい、一撃で……」
「まぁな! この竜気を込めた一撃がルー本来の力だ!」
「竜気……?」
「んぁ~……そうだなぁ……。簡単に言うと魔力より上位で~……、何か竜の魂が発する力みたいなもんだ。まぁ、普段からこうやって出せるルーはすごいってことだな! いひひひひ!」
十剣人の中では戦闘能力が低いといっても、普通の冒険者ではありえない程に強い。
ルーが本気だったら、以前のタイマンでは絶対に勝てなかったなと思ってしまった。
「さて、次に行きましょう。倒せるといっても、それなりに時間がかかりますし、事故ってしまっても回復手段がポーションくらいしかありません。なるべく黒いモンスターがいないルートを目指しましょう」
「りょーかい。前回行ってないルートを試してみよ~」
あ、それと――とルーは歩きながら、ミースの方を見ずに呟いた。
「ザコミースの癖に、いっちょ前に黒いモンスターと戦えてる。正直、成長度合いを見くびっていた」
「ありがとうございます」
「べ、別に認めたわけじゃないからな! ルーの方が立場は上だし、強いんだぞ!」
そんなやり取りをしながら、二人は鉄壁の門をくぐり抜けて行った。
それからルーが覚えている本拠地の構造を元に、最短距離ではないが黒いモンスターが少なそうな場所を探していく。
それでも黒いモンスターとは多少なりとも遭遇することにはなった。
「くっ、さっきの黒いモンスターより攻撃が重い! 個体差があるのか!?」
二体目の黒いモンスターと戦っているのだが、青銅の盾+99でいなしても全身をシェイクされるような衝撃が襲ってくる。
完璧に近い形で防いでいるといっても、かなりのダメージが蓄積してきた。
「これで終~わりっと――……なっ!? 一撃で倒せない!?」
ルーは前回と同じように、背後に短距離転移してナイフで首を攻撃したのだが、分厚い首の皮膚を切断しきれずにまだ黒いモンスターがしぶとく動いている。
強引に振り向いた黒いモンスターが、ルーに噛み付こうとする。
「させない! 我流の構え――〝守ノ照〟」
ミースは魔力の流れを変化させ、神気を銀の剣+99に纏わせた。
「大罪を斬り裂け――新式・九の聖光搦げ邪滅す刃!!」
聖なる輝きが迸り、目にも止まらぬ十八連撃が黒いモンスターの背中を斬り刻んでいく。
黒いモンスターは魔素へと還った。
ミースはたたらを踏んでしまう。
「通じる……けど……さすがにプラムのバフ無しで放つのは負担が大きいな……。ただのホーリークルスにしておいて、ルーさんと連携して倒すのが現実的だ……」
「お、おい。ミース大丈夫か……?」
「大丈夫です、ほんの少しだけ息を整えさせてください……。って、今俺のことをミースって呼びませんでしたか? いつもザコミースと言っていたような……?」
「き、気のせいだろ! それにしても今纏っていた力は――」
「よし、復活。先を急ぎましょう」
タイムリミットは、耳の大地でレッドエイトが倒れるまでだ。
さすがに前回よりも良いペースだが、その先に何があるかわからないので急がなければならない。