ミースの長すぎる一日
――少し前の時刻、ミースたちは成長の町ツヴォーデンから、本拠地行きの転移陣へもうすぐというところまでやってきていた。
この転移陣は出現場所が変化するので、今回は雑木林の中を通って行く事になった。
「これまた、けったいなところやな~……。前の断崖絶壁よりはマシやけど……」
「そうね~。もっと町の付近とかに設置すれば便利そうじゃない?」
ゼニガーとプラムの不満に、ミースは笑いながら答える。
「町に近すぎても、見つかって悪用されちゃうんじゃないかな。たぶん団員しか入れないと思うけど、想定外への用心に越したことはないし」
「ミースはんはマジメやな~……」
「そこがミースのいいところよ。そうやって色々と考えてくれるのはダンジョンでも心強いし……ふふ……」
「あっつぅ~! 何か知らんけど、ここだけ気温が急上昇やでぇ~! ……あ痛っ!?」
プラムに杖で殴られるゼニガーだが、当の本人であるミースは意味もわからず首を傾げる。
そんないつものやり取りをしていると、ミースは急に悪寒を感じた。
ウィルのような悪魔の気配とも違う、さらに深い、どこまでも続く陥穽のような不気味さだ。
それと同時に横を歩いていたゼニガーとプラムが膝から崩れ落ちてしまった。
「あ、あかん……なんか身体に力が入らへん……」
「なにこれ……立てないわ……」
ミースは二人のことが心配だが、これは何かから攻撃を受けていると判断して、瞬時に周囲を警戒した。
相手を弱らせたあと、すぐに仕留めに来るはずだ。
しかし、周囲に気配は感じられないし、襲ってくる相手もいない。
「狙いは俺たちじゃない……? 二人とも、大丈夫?」
「ミースはん、すまんけど動けへんわ……今すぐ死ぬって感じとはちゃうけど……」
「しばらく休めば何とかなる……といいんだけどね……」
ミースとしては、どうしたらいいのか判断に迷ってしまう。
神殺しの団なら治療できる人間もいそうだが、ミースが誰かを呼びに行ってしまうと二人を置いていくことになってしまう。
モンスターにでも襲われたらひとたまりもないだろう。
逆にミースがここで二人を護衛し続けると、時間による悪化が不安だ。
「んー……二人を背負って本拠地まで行く?」
「ちょ、ちょっとそれは女子として恥ずかしい! もう少しだけ休んで様子を見てからで……」
「わかった、そうしよう」
しばらく待つ間、ミースは思考を働かせた。
このデバフは何のために?
なぜ自分たちが影響を受けたのか?
そして、三人の内一人だけ平気なこと。
もう少し判断材料があれば面白い気がする。
(っと、悪い癖だ。俺以外の誰かが危険なときは面白いとか言ってられない……)
そうして休んでいると、本拠地の方向から独特な気配を感じた。
短距離転移による移動方法――それはルーだった。
「ザコミース! ルーの力になれ! 信じられないかもだけど――」
「信じます。早く内容を伝えてください」
「なっ!? 決断早すぎるだろぅ!?」
「ルーさんの表情が物語っているので……」
ミースから見たルーは、まるで一回死んだかのような形相で焦っているように見えた。
外傷はないようなので、それだけ精神的に負担がかかっているのだろう。
それも本拠地付近なのに、十剣人ではないミースを頼るほどなのだ。
よほどのことがないとそんな状況にはならない。
「わかった、ルーが今からスキルで伝達する記憶は事実だ。そして神殺しの団の最重要機密でもある……。身長差があるな……屈んでこっちを見ろ」
「こ、こうですか?」
ミースが言うとおりにすると、ルーは遠慮なく顔を近づけ、そのまま額をピッタリとくっつけてきた。
緊急事態には場違いな考えだが、縦長の瞳孔を持つ竜の瞳が綺麗だなと思った。
それと同時に、ルーの前回の思考を含めた記憶が数時間分だけ流れ込んでくる。
「これは……」
「落ち着けよ、これをされたら大体の人間は大慌てになる。まずは深呼吸とか――」
「理解しました。急いでダンジョンへ向かいましょう」
「……冷静すぎだろ、ザコミース」
突発的なことには慣れてきたので、というような苦笑を一つ。
「あ、それとゼニガーとプラムに風魔法でカモフラージュをお願いできますか? そういうことをしていたとルイン先生から聞いたので」
「わかった、動かない相手なら見つからず長時間持つ」
状況がわからないゼニガーとプラムだったが、ルーによって風魔法のカモフラージュを受けて安全を確保された。
一秒でも惜しいミースとルーは、説明もせずに本拠地へと向かうのであった。
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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<(_ _)>ぺこり