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回り道の温泉

二章と三章の間の幕間です。

ユルい気持ちでお楽しみ頂けたら幸いです。

 プラムは道中、考え事をしていた。


(まだミースに告白とかはできないけど、それでも……もっと私のことを好きになってほしい)


 前を行くミースの、少しだけ大きくなった気がする背中を見ながら、そう思ってしまった。

 普段の強気で我を通すプラムからは信じられないような、繊細で複雑な乙女心だ。

 その気持ちが思わず溜め息として口から漏れ出てしまう。


「はぁ~……」

「お、どないしたんや? 溜め息を吐くと幸せが逃げてまうでぇ」

「あ、いたのね。ゼニガー」

「ずっとおるっちゅうねん!?」


 どうやら目に入っていなかったようだ。

 そのやり取りの最中、前を行くミースがいつの間にか足を止めていた。


「ゼニガーのことはどうでもいいけど……立ち止まってどうしたの? ミース?」

「ワイの存在をどうでもいいって酷ぅないか……」

「見て、二人とも。道を進んだところに煙が出てる小屋が見えるよ。こんな町から離れたところに何だろう、炭焼き小屋かな?」


 ミースが指差した先、たしかに小屋――それもモクモクと白いものが空へ登っているものが見える。

 ミースは首を傾げているが、すぐにゼニガーは気が付いた。


「ああ、アレは煙やのうて、湯気やな。それもぎょうさん上がっとる」

「湯気? 何かを煮てるの?」

「いや、たぶん温泉ってやつや。簡単に説明すると、地面が熱ぅなっとるところで、湧き水が温められてポカポカの風呂になっている感じやな」

「へぇ~、すごいなぁ! ……でも、なるべくなら神殺しの団(ラグナレク)の本拠地へ早めに向かいたいから、入るのはまた今度かな……」


 そのとき、プラムのSSRスキル【賢者】が発動したかしないかは定かではないが、灰色の頭脳に稲光と共に閃きが走った。


(温泉……男女二人……湯船で火照った身体、出入り口で待ち合わせて「あ、プラム。もう出てたんだ、待った?」「ううん、だいじょーぶ。ミースのことを待つのは好きだから」という特別な気分で恋人のようなやり取り……これよ!)


「ミース、温泉に入りましょう。温泉は様々な効能があって、疲れを癒やしてくれるわ」

「えっ、疲れを癒やす!? すごい……ポーションみたいなものなのか……」

「そう、言わばポーションよ。それも全知・全能・万能・最強・最高の天然ポーション。先人たちも言っているように旅をするなら急がば回れ、温泉で癒やされて疲れを取った方がこの先に何が起きても安心だわ!」

「そ、そっか。なんか早口で怖いけど……温泉に入ろうか。ゼニガーもいいよね?」


 温泉に入る流れになってガッツポーズを取るプラム。

 その空気を読まずにゼニガーが発言をした。


「温泉に入るのはええけど、疲れを癒やすっちゅうのは決まり文句でポーションとは違っ……グホァッ!?」


 ミースから見えない角度で、プラムの魔術が炸裂した。

 フラフラとするゼニガーを、プラムが笑顔で支える。


「あら、大変。早く温泉に入って癒やされなきゃ!」

「……せ、せやな……これ以上、何か言うとほんまに殺されてまう……!」


 そんなこんなで、三人は温泉がある小屋へと辿り着いた。

 ボロい……もとい風情ある佇まいで、かなり年季が入っている。

 受け付けで支払いを済ませて、男女で入り口が別れているところにそれぞれ入っていく。


「ふんふふ~ん、温泉なんて久しぶりね。ちょっと早めに上がるとしても、楽しんじゃおうかしら」


 ミースより先に上がるという思惑があるため、プラムは脱衣所の壁に張ってあった張り紙をスルーしてしまった。

 衣服を脱いで籠に入れて、開放感ある全裸で温泉へ繰り出した。


「う~ん、温泉のニオイ、立ち上る湯気、しかも貸し切り状態でテンション上がるわね~!」


 とりあえず身体を洗い流してから、温泉にソッと足先をつけた。

 とたんにプラムの表情が驚きに変わる。


「あっつ!!」


 足先がヒリヒリするような感覚だ。

 火傷はしないが、それでもかなり我慢しなければ入れない気がしてしまう。


「ど、どうしよう……こんなに熱いなら入らなくても……」


 上がっていたテンションも一気に下がり、脱衣所の方に戻ろうとしたそのとき――


「おっ、ゼニガー。良い筋肉してるね」

「ミースはんこそ、小さいながらもしっかりと締まっとるなぁ」


 湯気の向こう側からミースとゼニガーのシルエットが見え、声が聞こえてきたのだ。

 全裸のプラムは悲鳴を上げそうになるが、それでこちらを見られてしまうのもマズいので声なき悲鳴となった。


(な、なんで二人が女湯にいるの!? いえ、それよりも今の私は全裸なのよ……!? ミースだけに見られるならともかく、ゼニガーは絶対に嫌だわ……)


 ミースとゼニガーは、プラムに気付いていないらしく徐々に近付いてきている。

 焦るプラム。

 決断を迫られる。

 背後にあるのは熱すぎる温泉だけだ。


「背水の陣ならぬ、背湯の陣!! ええい、やるしかないじゃない!」


 そう叫びながら温泉にドボンと飛び込んだ。

 その音に気付いたのか、ミースが声をかけてきた。


「あ、プラム。もう入ってたんだ」

「え、ええ……そうよ……」


 混浴状態でも落ち着き払ったミースを見て、プラムは驚いてしまう。


(も、もしかしてミースってば、意外と女慣れしているの!? 裸の私がここにいるのよ!? お互いに裸なのよ!?)


 プラムは身体がなるべく見えないように深く湯に浸かる。

 熱さで全身がジンジンとしてきてしまう。

 幸いなことにミースとゼニガーは視線を向けてくることなく、身体を洗い流し始めた。


「それにしても、ほんまよかったなぁ。受け付けで水着を貸してくれて」

(水着!?)


 プラムが目をこらすと、男二人は全裸ではなく水着を履いていることに気が付いた。

 どういうことかとあんぐりと口を開けてしまう。


「うん、張り紙に気付いてよかったよ。さすがにそのまま混浴に入るわけにもいかないし」

(さすが私の好きなミース! 細かいところにも気が付くわね! そして私はそれに気付かず全裸なのだけれど!)


 話の流れ的に、ここでプラムは正直に水着を着ていないということを話すという考えが浮かんだ。

 少し恥ずかしいが、理由を説明して後ろを向いてもらっている隙に水着を借りてくれば問題解決だろう。


「あっ、あの二人とも……実は……」


 しかし、ゼニガーの次の言葉で思いとどまった。


「だっはっは! もしかしたら、おるかもしれんでぇ! 水着を着ずに全裸で混浴に入る女子! そんなんおったら痴女や、痴女!」

「……痴女」

「もう、ゼニガー。人に見られても気にしない主義の人かもしれないし、それに普通に水着の貸し出しに気が付かない人だっているかもしれないじゃないか」

「あ~、そうやな。たしかにそういう主義の場合は問題なしやな。ワイもただただ開放感を求めたいときもある。せやかて、さすがに水着の貸し出しに気付かず混浴に入ってくるアホは居らんやろ~!」

「……アホ」


 偶然にもプラムの現状にヒットしてしまい、水着を着ていないと言い出せなくなってしまった。

 そして、ミースとゼニガーが湯船に入ってきてしまう。

 気を遣ってか、二人はプラムと距離を離しているが、下手をすれば水着を着ていないと気付かれてしまうはずだ。

 なるべく深く、アゴや口にお湯がかかるくらいまで浸かることにした。


「あれ? プラム、そんなにこの温泉気に入ったの?」


 コクリと頷く。


「そっか、丁度良い熱さだしいいよね」

「せやな~。ワイもぬるいのよりはこのくらいがええわ~」


 どうやらプラムにとっては熱すぎでも、二人にとっては程よい感じらしい。

 恨めしい気持ちを強引に抑え、苦悶の表情を浮かべる。


「よっぽど気持ち良いのか、温泉に入りに来てる猿みたいな顔になっとるでぇ」


 大笑いをするゼニガー、あとで殺すと誓う。




 一時間後――ようやくミースとゼニガーは湯船から上がってくれた。


「いや~、長湯をしてもうたわ~」

「けど、すごいリフレッシュできた気がするよ。本当にポーション……いや、それ以上の効果だね! あ、プラムはまだ出ないの?」

「……ドウゾ、オカマイナクデスワヨ」

「それじゃあ、先に出て待ってるね」


 二人が脱衣所へ行ったのを見ると、プラムはトビウオのように跳ね上がって陸地へジャンプした。

 そこには温泉での風情や、女子としてのプライドもない。


「ぜは~……ぜは~……ぢぬどころだったわ……」


 急いで肌のヒリヒリを回復魔術で癒やし、水魔術で身体に冷水をかけた。

 どうやらダンジョンで鍛えられた身体だったため、湯あたりはしなかったようだ。

 それでもシチューの中の具材の気分を味わえた。


「よく耐えたわ……私……」


 自分への賛辞を送り、謎の充足感を得ていたのだが――そこへ雷の精霊ゼウがポンッと現れて姿を見せた。


「プラム女王、最初から温泉を水魔術で埋めて温度を下げておけばよかったと思うのじゃが」

「……どうしてそれを先に言わないのかしらぁ?」

「だってのぉ、人間のこういうところは見ててサイコーにオモシロ……あ、ちょっと待つのじゃ。四属性で攻撃されるとシャレにならな――」


 プラムはストレスを解消したあと、外で二人と合流したのであった。

 初の幕間、いかがだったでしょうか。

 いつもと雰囲気が違うのは、ちょっとコメディっぽいものを書きたかったのと、〝絵〟が付いたら面白そうなものをやってみたかったというのがあります。

 そう、絵といえば本作の書籍化情報の公開許可を、編集さんから頂いたのであります!


 発売日は2022年7月22日の予定です!

 レーベルはムゲンライトノベルスさんという新規レーベルですが、書店さんにも紙の本として流通すると聞いています。

 それにともない、若干タイトルが変更されることになります。

『親ガチャ失敗したけどスキルガチャでフェス限定【装備成長】を引き当て大逆転』となりますが、そんなに変わっていない感じですね。

 後日、なろう版もスッとタイトルが変更されていると思います。ブクマされている方はご注意ください。


 そして、もう予約が始まっているところもあるので、買い逃したくない方はぜひ予約をお願いします。

 今回は三巻発売まではいきたい! なぜなら、もうなろう版で三巻分の分量を書いてしまったからです! 無駄にしたくない!!


 ちなみに第三章の投稿タイミングについては、活動報告をチェックして頂けたら幸いです。

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いつも読みに来て頂き、ありがとうございます!

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こちら、書籍版です!

『親ガチャ失敗したけどスキルガチャでフェス限定【装備成長】を引き当て大逆転 2』
著:タック
イラスト:桑島黎音先生

レーベル:ムゲンライトノベルス
ISBN:978-4434357480
発売日:2025年6月2日
価格:1650円

結城にこ先生によるコミカライズ一巻も発売中です!
【↓各種情報はこちらのリンクから↓】
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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍化決定、おめでとうございます!! 発売日は…、オイラの誕生日の2日後か。 覚えておこう。 [一言] 『背水の陣』という言葉があるということは…、 韓信と同じ戦術した人がいるワケですか。…
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