祝勝会、成長の英雄の誕生!
「それじゃあ、この冒険者学校の学食を貸し切っての祝勝会~……スコール!」
「ルイン先生……スコールって?」
「あ、乾杯って意味だぞ! カンパ~~イ!!」
その場に集まった百人近くが『カンパーイ!!』と大きく杯を掲げた。
並々と入った液体が揺れてこぼれそうになる。
大人はアルコール、子どもは甘い果実水などだ。
「今日は冒険者ギルドの奢りだ! 存分に飲んで食って騒げ! ただし、酔って冒険者学校の女子生徒に手を出したら、海に放流してサーモンの餌にするぞ!」
「あの猫耳女教師こえ~……」
スタンピードに貢献した冒険者や学生を集めて、冒険者学校の学食で祝勝会が行われていた。
普段は学生たちのために並ぶテーブルだが、今は酒に合うような料理が所狭しと並んでいる。
当然だが、学生は酒を飲めない。
ルインたち教師だけではなく、学園長のメラニまでいるからだ。
「ミース君、ゼニガー君、プラム君。食べてますか?」
「あ、メラニ学園長!」
「これからたらふく食わせてもらう予定やで~! 人の金でタダ飯サイコーや!」
「あらあら……うふふ……お金はギルド持ちで本当によかったわ~……。なんせ、誰かさんたちに渡した国宝級のポーションと、希少な銃弾が使い切られたから~……」
ダンジョンで濫用、乱発していたしていたのを思い出したミースは血の気が引き、ゼニガーに至っては口に含んでいた料理を吹き出しそうになっていた。
そのあまりのリアクションと、普段は優しそうなメラニ学園長の怖気のするような表情を見てプラムは察した。
「な、なにをしたのよ……二人とも……」
「いえいえ、可愛い生徒が無事ならお金なんていくらでも……まぁ、限度というものがありますが。ええ、報告によると割と必要の無いところでも使っていたとか……ええ……」
「ご、ごめんなさい……メラニ学園長……」
ミースが謝ると、メラニ学園長はからからと笑った。
「冗談ですよ。こういう時でもないと宝の持ち腐れですからね。ミース君の村の先生――フェアト先生なら、きっとこうして渡していたでしょうから」
「メラニ学園長は、フェアト先生とどういうご関係で……?」
「まったく、フェアト先生はこんなに良い生徒を育てられて……私の時も、もっと時間をかけて構ってくだされば……」
メラニはブツブツ言いながら、アルコール度数の高い酒をあおり、質問をスルーしてどこかへ行ってしまった。
首を傾げる男二人、プラムだけは男女の関係だなと気付いていた。
そして次にやってきたのはアレスクラスの三人組だった。
「よぉ、クソミース!」
「ゼニガー! 会えて嬉しいわよぉ!」
「ご機嫌よう、ミースさん」
かなり馴れ馴れしくミースに絡んでくるようになったオーロフと、恋か闘争心かよくわからないもので頬を赤らめているマルト。
それと礼儀正しくするも目線がミースとプラムの間を行き来しているセレスティーヌだ。
「やぁ、アレスクラスPTの三人」
「げっ、マルトはん……」
「……ご機嫌よう、セレスティーヌ……。ちょっとミースに近くない?」
ミースたちも三者三様のリアクションだ。
彼ら三人もそれぞれダンジョン、防衛とで功績をあげて学校で話題になっていた。
最初と比べると仲も良く――
「ゼニガー! ワタシと寝技の訓練する!」
「ヒィィィ! 堪忍やー!」
「ミースさん、このあとお時間など……」
「ダーメ! ミースは疲れてるんだからね!」
どちらかといえば仲良くなっているようだ。
それを半笑いでミースとオーロフが眺める。
「ゼウスクラスPTも色々と大変みてぇだな……」
「は、ははは……」
「そうだ、オレこれからしていこうと思うことがあってよ」
「していこうと思うこと……?」
オーロフはニッと笑った。
「来年度の入学予定で制服が手に入らなくて困ってる奴がいたら、一緒に取りに行ってやろうと思ってな」
「へ~……へぇぇぇ~~~~。あのオーロフが……」
「な、なんだよそのリアクションはよぉ……似合わねぇってのか?」
「ううん、そんなことないよ。不器用なオーロフらしい」
「けっ、そんなんじゃねぇよ。オレはつえぇからな。弱くて情けねぇ奴らを仕方なく手助けしてやんだよ」
そういうとオーロフは照れ隠しでグイッとキウイジュースを飲み干してから、テーブルの料理を黙々と食べ始めてしまった。
急いで食べて時々むせたりもしている。
続いてやってきたのは、十剣人の二人だった。
ちなみにレッドエイトはエネルギーが回復したのか普通に歩いてきている。
「そういえば、今回の評価をまだ伝えていなかったな、人間。スタンピード収束、リュザック撃退と見事だったぞ。どうやらキサマはできる人間のようだ」
「まぁ、ルーも多少は評価してあげるよ。身体の強さは十剣人に比べるとまーだまだだけど、戦闘のセンスとかは結構なモノだしさ~」
「ありがとうございます、レッドエイトさん、ルーさん」
ミースがペコリとお辞儀をしてから顔を上げると、珍しくレッドエイトの方が興味をこちらに向けながら顔を近づけてきた。
「例のスキルレベルは上がったか?」
「あ、ちょっと待ってください」
例のスキルレベルとは、【装備成長】のことだろう。
しばらく前はスキルレベル3だった。
そして今は――
【装備成長レベル4(レア度Fスキル):レベル1,ダンジョンドロップ品を同種合成させて強化する。レベル2、装備品以外のアイテムにも適用できるようになる。レベル3、魔石による付与効果を得る。レベル4、合成品に修復機能(小)が付く】
「4に上がってますね!」
「そうか……こんなにも短期間で上がるとは……。さすが妹の認めた――いや、何でもない」
明らかにレッドエイトは褒めようとしていたのだが途中で止めてしまった。
レドナの現状を思い出してしまったのだろうか。
「本拠地に戻ったら、さっそくレッドハートに魔石を合成できるか試してみます。レドナとも早く会いたいので」
「冒険者学校はどうするんだ? まだ入って一年も経っていないだろう」
「それは飛び級で卒業予定なので大丈夫です」
成り行きとは言え、飛び級の条件である試練のダンジョンをクリアしてしまったので、ミースたち三人は卒業の手続きを進めていたのだ。
そのタイミングでルインも一緒に神殺しの団本拠地へ戻ることになっている。
「そうか……期待させてもらうぞ、人間」
「はい!」
「おっと、オレ以外にも期待している者が多そうだな。邪魔をすると悪いので先に本拠地へ戻っておくぞ。ほら、行くぞ跳躍侯」
「え~~~~、もう帰るの~~~、や~~~だ~~~!」
今度は以前とは逆に、レッドエイトがルーを引きずる形となって去って行った。
それと入れ替わるようにやってきたのが、多くの学友たちだった。
学生特有の賑やかさがある。
「いたいた、本日の主役! ゼウスクラスPTだ!」
「私たち、ずっと探していたんですよ」
「へへっ、学校と町を守ってくれてありがとうな」
「……みんな」
クラスメイトだけではなく、違う学年などからも集まってきていた。
それぞれが思い思いの感謝の言葉を告げて、ミースたちはむず痒そうにする。
「そういえば、ミースは『始まりの英雄』って呼ばれてるんだよな?」
「う、うん……ちょっと恥ずかしい呼び方だけど……」
「照れることはないぜ! それにもう始まりじゃなくて、立派に成長したしな!」
「……成長。それなら成長の町ツヴォーデンとかけて、『成長の英雄』ってのはどうだ!」
「いいな、それ!」
「賛成!」
学友たちは勝手に盛り上がり、そしてミースはいつの間にか『成長の英雄』と呼ばれるようになったのであった。






