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ファイナルラストな一戦

「よ~! ザコミースぅ~!」

「うわっ、ルーさん」


 ルインたちが広場にやってきたのだが、その中に見覚えのある十剣人の跳躍侯――ルーがいた。

 小さな彼女は緑色のツインテールを揺らしながら走って来て、その名の通りに跳んでミースに抱きついて、ヒョイッと回り込みながら器用に肩車のような体勢を取った。


「なんだよ~、ま~だおっちんでなかったのかよぉ~。いひひひひひ!」


 言葉の割には妙に楽しそうだ。

 そこへもう一人の声が聞こえてくる。


「ほう、人間。暫く見ぬ間に随分と成長したようだな」

「レッドエイトさん! ……なんでヒモで引きずられているんですか?」


 ルーを肩車したまま、ミースは視線を斜め下に移す。

 ルーの手に握られたヒモが、横たわるレッドエイトの鋼鉄の身体に装着されていたからだ。

 直立不動を横倒ししたような体勢でいるのがシュールである。


「ZYXを転送してエネルギーを使い果たした。しばらくは動けん」

「よ、よくわからないけど、大変ですね……」


 レッドエイトは太陽を眺めているのだが眩しくないのだろうか。

 それとも首すら動かせないでルーに引きずられていたのだろうか。

 どちらにせよ、レドナとの兄弟機ということでどこか抜けている印象が付いたのであった。

 そんな中、疲労困憊だが先生の表情を作っているルインが話しかけてきた。


「よくやったぞ、お前ら」

「ルイン先生もお疲れ様です!」

「……被害がどれだけだったとかは聞かないんだな?」

「助っ人というのが十剣人のお二人だし、それにルイン先生なら大丈夫だと信じているので」


 久しぶりに真っ正面から褒められたルインは照れくさそうにしてから、胸を張って無理にでも大声を出す。


「とっ、当然だろう! アタシはハインリヒ様の団長補佐だからな!! それはもう余裕で楽勝だったぞ!」

「いひひひひ、ルー知ってる~。あと三分しかレッドエイトが耐えられないってなったあと、内心メチャクチャ焦ってたよね~。心臓の音がこっちまで聞こえてくるレベルでさ~」

「うっ、うるさいぞ! 跳躍侯!」


 どうやら本当に主立(おもだ)った被害は出ていないようだ。

 突発的なワールドクエストと人員だったのに、さすが神殺しの団(ラグナレク)である。

 それからリュザックのことなども簡単に報告した。

 どうやら彼の父親は七代悪魔王の中でも特殊な穏健派らしく、息子であるリュザックを逃がしたのは咎められなかった。

 あとは持ち帰ってハインリヒと相談をするそうだ。

 ようやく人心地付いたという感じでルインはリラックスした表情を見せた。


「さてと、神殺しの団(ラグナレク)のメンバーだけで話したいことも終わったし、他とも合流してパーッと祝勝会でも――」

「いえ、まだ一つだけあります」


 意外にもそれに対して『待った』をかけたのはミースだった。

 肩車しているルーを両手で優しく地面に下ろしてから、笑顔で言った。


「ルーさんに再挑戦を申し込みたいです」

「はっ? ルーに再挑戦……? それってどういう意味だよ、ザコミース?」

「神殺しの団本拠地で、俺はルーさんに一本取られそうになりました」


 それはルーが腕試しがてら、意表を突いてミースを短剣で攻撃しようとしたことだろう。

 そのときはミースが動けずに殺されそうになったのだが、ハインリヒにギリギリで止められたのだ。


「アレは……冗談みたいなものだろ……? それに新入りが十剣人に一本取られるくらい当たり前だし……さすがに身分をわきまえろ。ったく、本当にザコミースは何を言って――」

「逃げるんですか?」


 空気が変わった。

 ピリッとしたものと表現していいのだろうか。

 本当にルーの身体から魔力が放出され、肌がピリピリと微細なダメージを受けている。

 ルインやゼニガーが止めに入ろうとするも、ルーは竜の獰猛な瞳で睨み、やれやれというようなレッドエイトがやらせておけと腕だけでジェスチャーをする。


「……はぁ? 今、なんつった……この偉大なる竜の血を引く跳躍侯に対して……逃げるのかって言ったのかキサマ……。冗談だったらそこまでにしておけ……今ならまだ仲間のよしみで赦してやる……」

「面白いと思ったんです」

「何?」

「圧倒的な力を持つ十剣人相手に、負けた悔しさをお返しできたら面白いと思ったんですよ」

「まさか……再挑戦して勝つ気でいるのかァ……?」


 頭に血が上っているルーは、いつもの子どもっぽい口調が抜けていた。

 生物の頂点の一つである竜が、下位種である人間を見下すのは当然である。


「ええ。まさか勝つつもりがないと思っているんですか? どれだけ人間を舐めているんですか?」


 あくまでミースは笑顔だ。

 ルーはキレてしまった。


「ブチブチブチと頭の中で血管がキレた音が聞こえちまったなぁ……! いいぞ……また同じように倒して下位種をわからせてやる!!」


 すでにミースは銀の剣+99を構えていた。

 そして、『同じように倒して』と聞いたので、何度もやった脳内のシミュレーションを復習する。

 前回は跳躍侯の名にふさわしいスピードで(・・・・)背後を取られてしまった――と思っていた。


 ……そう、スピードが速いのだと思っていたのだが、この成長の町での経験がそれを否定した。

 ボスモンスター〝動きすぎる制服〟などのスピードが速い敵と戦ったときは、いくら速くても物体が動くので風が巻き起こったり、音がしたりというのが伴うのだ。

 それに対して、神殺しの団本拠地でルーがしてきたのは、音も無く一瞬で背後に回り込んでいたのだ。

 考えられるパターンは三つ程度に絞られる。


 一つ目は、魔力で風や音を制御しての移動だ。

 これはある程度ならやっている暗殺者などは多いのだが、あの速度で行うのは至難の業だ。

 可能性は薄い。


 二つ目は、時間を止める。これは普通はありえないのだが、十剣人なら可能かもしれない。

 しかし、時間を止められるのなら、いちいち背後に回り込まなくてもいいだろう。

 これも可能性が薄い。


 そして最後が――空間転移だ。

 空間転移は、固定場所へ跳ぶというのはダンジョン脱出や、貴重なレリックによって行われたりしている。

 それを短距離とはいえ、任意の場所へ正確に転移するというのは信じられない奇跡だ。

 だが、消去法的にこれが一番確率が高い。


「また一瞬で終わらせてやる!」


 ルーは頭に血が上っているのか、荒々しい声で『また』と言って姿を消した。

 つまり、同じように背後に転移してくるのだろう。

 ここでミースが先読みして銀の剣+99を背後に突き出せば勝利だ。


(いや、それは違う)


 ミースは違和感を覚えていた。

 ルーの言葉は『また』『同じように』など、こちらに意識させているように感じたのだ。

 もしかしたら、短距離転移というネタに気付いている前提で、背後を攻撃させようと誘導しているのかもしれない。

 と、すれば頭に血が上って直上的な行動を取っているのは演技だろう。


(面白い……さすが十剣人)


 今回の戦いでかかっているのは自らの命だけ。

 そのために純粋に『面白い』と思えて、夢中になれるのだ。

 ミースの中の戦いに沸く血が熱くたぎる。


(視界に映らない位置に転移するというのを前提に考えると、前方の位置に来るのはないな。ブラフ的に背後も無しとしよう。とすると、転移しやすい頭上……)


 ミースは頭上に向けて銀の剣+99を向けようと思ったが、なぜか勝利しているルーの小さな姿を想像してしまった。

 それが銀の剣+99を反対方向へと本能で突き動かす。


「下だ!」

「なっ!?」


 大当たりだった。

 突然、ルーはミースの股下に短剣を構えた格好で現れている。

 その首元に先回りして置かれている銀の剣+99がギラリと光る。


「……なんで、ルーがここに〝跳んで〟くるってわかったのさ?」

「ルーさんのスキルは跳躍侯の名の通り、短距離転移。何度も同じように攻撃すると主張していたので、逆に背後以外ということで上から来ると思いました」

「……で、上のはずなのに下に剣を向けていたと?」

「直前に思い出したんです。ルーさんは小っちゃいから股下のスペースでもいけるかなと」

「……っか~、最後の二択で負けたのかよ~。だけど、ルーはまだ本気を出していないだけだからな、十剣人はすごいんだからな。そこんとこは勘違いするなよ、ザコミース……!」


 ミースが手を貸そうとすると、今度はルーがピョンと短距離転移をして肩車をしてきた。


「ルーさんが本当に何も考えていない人だったら、背後で読み負けしていましたから。それに、竜人さんに本気を出されたら刃すら通らないと思います」

「風竜人な、風! まぁ、わかってんなら構わないけどぉ~。ザコでもマシなザコだって覚えておいてやる~♪」


 表情は見えないが、ルーの声はご機嫌に戻っていた。

 ミースも笑みをこぼす。


「面白かったです」

「ルーもだ」


 少しだけ、跳躍侯と呼ばれた風竜人の子どもと仲良くなれた気がした。

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