試練のダンジョンボスVS冒険者学校最強PT
「ミース!! どうしてここにいるのよ!?」
「それはあとで。プラム――それとオーロフ。今は急いでゲームチェンジャーを倒そう」
「はっ、クソミース! テメェに言われる筋合いはねぇよ! オレだけでも倒せてたが、イジメになっちまうから手加減していただけだ!」
三人は一見バラバラな言葉なのだが、瞬時にそれそれの立ち回りを理解して、ゲームチェンジャーが襲いかかっているまでに体制を整えていた。
「オーロフ、頼んだ!」
「いくぜぇ! SR【パリィ】発動!」
巨大なゲームチェンジャーの全体重を乗せた攻撃――普通ならば人間程度は吹き飛ばしてしまう威力だ。
それをオーロフは真っ正面から防がず、華麗に受け流した。
大きく隙が出来たゲームチェンジャー。
「次はテメェの役割だ! クソミース、気に入らねぇがやっちまえ!」
「有り難くいかせてもらう――〝日ノ軌二十連〟!!」
ミースは軽やかなステップでゲームチェンジャーの眼前に舞う。
全力疾走でここまでやってきたはずなのに息一つ乱していない。
その両手に二刀流で握られた弱点の打撃武器――ひのきの棒+99があまりの早さに見えなくなり、それが二十連撃となってゲームチェンジャーを襲う。
連打が重なりすぎて圧縮された一回の打撃音に聞こえるくらいだ。
『グギィィィイイ!?』
ゲームチェンジャーの悲鳴か、それとも軋みを上げる音か。
大きなダメージでよろめき、再び弱点属性をチェンジさせた。
「次に磔になったのはジャイアントワスプ……突き弱点だわ!! どうしよう、今のPTに弓や槍を使えるメンバーなんて……」
「大丈夫、そこはほら。ヒーローは遅れて格好良く登場するから」
笑顔のミースを見て、プラムは察した。
彼がそこまで信頼する突き武器持ちといえば一人しかいない。
入り口の方から重装特有の、少し重めの足音が響いてくる。
「ふふん、よく来たわね――ゼニガー! 最後にやってきて良いところを持っていくつもりね!」
そこにはゼニガーの勇姿が――ではなく、息を切らして死にそうな姿があった。
「ゼェハァ……コヒューコヒュー……死ぬ……相変わらずミースはんに合わせた全力疾走は死んでまうでぇ……」
「……生まれたての子鹿みたいね」
「とんだヒーローのご登場だな……大丈夫なのか、アイツ?」
オーロフの問いに、さすがにミースも自信なさげだった。
「た、たぶん少し休ませれば大丈夫だよ、オーロフ。その間ちょっと盾を頼んだ」
「チッ、しゃーねぇなぁ!」
意外にも土壇場の盾として優秀さを見せるオーロフは、ソロの状態でゲームチェンジャーの攻撃を防ぎ続ける。
その間、ミース、プラム、ゼニガーが合流した。
「全ステータスにバフをかけるから近寄って。たぶんスタミナも多少は楽になるはず」
「お、おおきにぃ……」
「そうだ、プラム。ちょっと杖を貸して。これをこうして……」
一分ほど準備をかねた休憩を入れて、ゲームチェンジャーと冒険者学校最強PTの戦いの幕が上がった。
「それじゃあ、攻め始めるから急激なダメージによるボスの攻撃パターンの変更に注意して!」
「い、いつまで後ろでやってんだ! クソミース、早く来い……!」
「お待たせ!」
前衛にミースとオーロフとゼニガー、後衛にプラムが位置していた。
「っく、【パリィ】発動!」
オーロフがタイミングを合わせて受け流し、ゲームチェンジャーの隙を誘発させる。
そこへミースとゼニガーが飛び込む。
現在の弱点は突き属性だ。
「クソミースとクソゼニガー、いけぇ!」
「ありがとう、オーロフ!」
「ワイまでクソ呼ばわりかいな!」
いつものようにツッコミを入れつつゼニガーは盾装備ではなく、槍の二刀流をしていた。
片方は今までの青銅の槍+99による一撃――弱点であるためにそれなりのダメージを与える。
一歩下がるゲームチェンジャー。
「ワイの新装備、食らえやぁ!!」
そしてもう片方は道中で合成、完成した槍だ。
【ワスプスピア+99 攻撃力25+99 急所突き 風属性:巨大蜂の針のような槍。+99まで強化したことによって敵の急所を突き、稀に二倍撃になる】
『グオォォッ!?』
突きが当たった瞬間、白い火花のようなモノが散った。
ゼニガーはニヤッと笑う。
「スキル【急所突き】が発動して二倍のダメージや! ――ほな、あとは任せたで!」
ゲームチェンジャーは突き攻撃を二連続で食らってもまだ踏ん張っていたが、ゼニガーの後ろからヒョイッと飛び出て来たミースに視線が向けられる。
その手にはひのきの棒+99や銀の剣+99でもなく、青銅の槍+99が握られていた。
「予備で作っておいてよかった。あまり扱いには慣れてないけど――!」
「なっ!? クソミース、テメェ槍にも適性があるのかよ!?」
今まで実践であまり試した事はないのだが、ミースは全装備に対して適性がある。
もちろん、使い慣れた系統が一番なのだが、こうして相手に合わせて使い分けることもできるのだ。
「見よう見まねの槍だ!」
ゼニガーと同じような構えで鋭い一突きを放つ。
動きはゼニガーより洗練されていないが、フィジカル部分の攻撃力が高い分、強力な一撃になる。
命中、真芯を捉えた。
『ガガガガァァァッ!?』
二人合わせて三連撃。
ゲームチェンジャーは勢いよく倒れ、地面で削れるような音を出す。
そのまま地面に横たわると思ったが、ダメージの勢いを利用して大きく後ろに退いた。
そして、ミースたち前衛と遮るように雑魚モンスターの群れが地面から出現する。
これは体力を大きく削った場合の行動パターンの変更だろう。
磔もエアー・クレイドロンにチェンジしていて、弱点は火になっていた。
「これは雑魚モンスターで時間稼ぎするパターンかな」
「せやな、無理にボスのところまで辿り着いてもワイらじゃお手上げや」
妙に落ち着いているミースとゼニガーに対して、オーロフは苛立ちを隠せない。
「おい、どうすんだよコレ!? オレらは地道に一匹ずつ倒して行くしかないのかよ!」
「うーん、俺たちにできることは~……」
「ちょっとそこ通りますよ、というアレのために横へ退くことくらいやな」
もう勝つと分かってしまっている二人に手を引かれ、オーロフは射線から移動させられた。
ハッとして、プラムの方へと意識を向ける。
「あら、残念。人間へのダメージもちょっとは見ておきたかったんだけれど」
顔には貼り付けたような女王の笑み、手には成長の町ツヴォーデン最強の杖が握られていた。
【エレメントワンド+99 攻撃力30+99 魔術チャージ:エレメント・クレイドロンを凝縮させて作られた金色の杖。+99まで強化したことによって超強力な一撃を放つことができる】
「さっきから溜めてた力を解放するわよ」
武器スキル【魔術チャージ】は通常よりも時間をかけて魔力を込めることによって、発動魔術の効果を跳ね上げるというものだ。
それによって目に見えるほどの赤い魔力がプラムの周囲に渦巻き、前方に向けられたエレメントワンド+99へ指向性を持って〝破滅〟が形づくられていく。
「ヘパ、その熱き力の弩を私に寄越しなさい――重撃ファイア・バリスタッ!」
ボス部屋に赤が迸った。
通常の上級呪文であるファイア・バリスタの場合は、城壁に穴を開けられる程度の威力だ。
一方、これは指向性を持った〝破滅〟である。
直径十五センチ程度の赤い弩矢に見えるのだが、それが通り過ぎただけで触れていない雑魚モンスターが燃え上がり、直線上にいるものに至っては瞬時に炭化している。
『グボォォォオオオオ!?』
それは燃えている音なのか、断末魔なのかわからない。
直撃を食らったゲームチェンジャーは、たった一撃で胴体を消滅させられ、四肢を燃え上がらせながら魔素に還っていた。
「これが精霊の女王、プラムミント・アインツェルネの本当の力よ!」
プラムは自信満々の表情でエレメントワンド+99をクルクルと回してながら決めゼリフを言っているが――強力すぎる魔術が壁に激突して、ダンジョン全体を揺らすような爆音が響いてかき消されている。
それを見ていたオーロフは青ざめながら突っ込んだ。
「このとんでもない威力にオレを巻き込もうとしてなかったか……」
「プラムはそういうところあるから」
「ドンマイやで、オーロフはん」
放心状態のオーロフは、左右からの肩ポンを黙って受け入れるのであった。