十剣人の実力
ミースたちが試練のダンジョンに潜っている時刻、外ではルインが指揮を執っていた。
「1から10の前衛PTは試練のダンジョン前へ。1から6の後衛PTは3グループに分かれて、魔力切れ前にローテーションしろ。簡易砦の作成も急ぐんだぞ……!」
ルインはミースに付けている使い魔からの情報で、異常行動が最終段階に入ったことを知った。
もうそろそろスタンピードの本番となるだろう。
今回は事前に知ることが出来ていたので、試練のダンジョン前でありったけの冒険者を集めてPTを組ませ、前衛で削り・防ぎつつ、後衛の魔術で焼いていく作戦だ。
町まで距離はあるが他に戦力を設置していないので、ここを通したら実質終わりという状態でもある。
「厳しい戦いになるかもな……」
ルインはつい呟いてしまうが、横にいたセレスティーヌが疑問に思ったことを聞く。
「ルイン先生、どうしてですの? 試練のダンジョンは、この町のダンジョンモンスターを寄せ集めた程度の種類でしょう? それくらいならわたくしたち、学生だって倒せるくらいじゃ――」
「……いいか、よく聞け。滅多に起きないことだから冒険者学校じゃまだ教えてなかったが、スタンピードによってモンスターの特性が変わるんだぞ」
通常、ダンジョンのモンスターは感知範囲内に入った冒険者を敵と認識して向かってくる。
しかし、スタンピードの場合は優先順位が変更されるのだ。
大抵は町などに一直線に向かって悪意ある殺戮を繰り返す。
冒険者は物理的に殴るなどしてヘイトを取らないと、無視されてしまうようになっているのだ。
「それに等間隔で待機してくれているお優しい状態と違って、次から次へと――それこそ無限に湧き出してくる。オマケに外のフィールドで死ねば冒険者は蘇生できない」
「そ、それだったらダンジョンの中で安全に戦えば――」
「ばーか、アタシたち冒険者だけが安全に蘇生できるように死んでも、町は破壊されちまうぞ。住人を避難させようにも、さすがにそこまでの時間はないし、逃げてるところまで追ってくるしな」
地形的な意味でも、狭いダンジョン内で無限に突進してくるモンスターを相手にすると簡単に数の有利で圧死させられてしまう。
そういうこともあって外で陣形を組んで戦うのが一番効率的なのだ。
「スタンピードっていうのは命を懸けて何とかするしかないんだぞ。だから、まだ学生のお前らは危なくなったら下がれ」
「はい……と言いたいところですが、ミースさんが先陣を切ってくださっているのです。ここで逃げたら女の恥ですわ」
「ったく、今期の学生は我が強い奴が多くて大変だぞ……」
恐怖を感じながらも勇気で奮い立たせるセレスティーヌを見て、ルインはやれやれと呆れるしかない。
「ハインリヒ様が助っ人を二人送ってくれているらしいから、それまで耐えてくれればいい」
「ハインリヒ様……とは……?」
「セレスティーヌにとってのミースみたいなもんだぞ」
少し考えて、セレスティーヌはその意味を察して顔を赤らめてしまう。
これで余計な緊張を解きほぐすことができただろう。
「おっと、使い魔からの情報によるとそろそろ来るらしいぞ――総員、スタンピードに備えよッ!!」
各所に伝令が伝えられ、試練のダンジョン前に緊張が走る。
無駄口がなくなり、音が消えたかと思うくらい静かになる。
自然と聞こえてきたのは、徐々に大きくなる振動音。
試練のダンジョンの中からだ。
「第一波、来るぞ! 一層目のモンスターだが、油断はするな!」
入り口からスタンピードが溢れだしてきた。
先陣を切ったのは成長の町に相応しい各種弱点と耐性があるモンスターたちだ。
移動速度の問題か、最初は物理弱点のモンスターが多い。
「各前衛PTのリーダーは、弱点を指示して狙わせろ!」
前衛PTにはそれぞれ盾、突き、打撃、斬撃とバランス良く配置されている。
ここで上手く倒して行けば、簡易砦の高台に配置されている魔術師の負担が減らせるだろう。
実際、盾が防ぎ、前衛が削り、後衛が援護をして機能しているように見える。
「おぉ、あのルインって子の言われた通りにやってみたら対処できてるぞ! 一介の冒険者であるオレたちが、スタンピードに対処できてるぞ!!」
「こ、これなら!!」
中から湧き出てきた敵を順調に倒すことができ、冒険者たちは沸き立っていた。
スタンピードに関しては悲惨な伝聞が色々と流れてきていたのだが、それを自分たちが防げているという自信が出てきたのだ。
事実、ルインが冒険者を集めて適切な陣形を組んでいなければ、一層目のスタンピードで突破されていただろう。
そう、一層目のスタンピードは防ぐ事ができた。
「気を抜くんじゃないぞ! すぐに二層目のモンスターが来る!」
「えっ?」
戦場の士気を保つためにルインは檄を飛ばす。
事前に二層目のモンスターの注意すべき点を伝えていたのだが、最初の安易な勝利に似た防衛が気を緩めさせていた。
前衛がそれに気が付いた時は、眼前に突進されていた。
「うぐぁ!?」
「やべぇ、耐えろ耐えろ!!」
それは黒い牛に見えるが、身体は一回り大きく、戦うための盛り上がった筋肉と鋭利な角を備えていた。
「ひぃっ、普通のブルホーンじゃねぇ……!?」
ブルホーン――多くのダンジョンに分布している基本的なモンスターだが、スタンピードになると死ぬまで人里に突進するような行動になるので非常に厄介だ。
「倒し切れねぇ! 防ぎ切れねぇ!! やべぇぞ、突破される……町の住民が……!?」
防御のための陣形を突進によって崩していくブルホーンたち。
移動速度が速く、今からでは追撃することもできない。
セレスティーヌも簡易砦の上からファイア・アローで狙っているのだが、数十匹も抜けられているので倒しきれない。
「お、終わりですわ……冒険者の守りが無い町に辿り着いてしまったらモンスターによる虐殺が……」
「前衛PT、抜けられても気にするな! 前のモンスターにだけ集中するんだぞ!」
「……ルイン先生、なぜそんなに冷静なんですの!? 住民が……学校が……」
未だに隣で前線に指示を出すルインに対して、セレスティーヌは苛立ちを覚えた。
これから町がどうなるか考えていないのだろうか。
人の心が無いのだろうか。
「適材適所って知ってるか? アタシたちが出入り口でなるべく抑え、ミースがボスを討伐しに行っているように――尻拭いをしてくださる最高の適材様がご到着だぞ」
「……え?」
セレスティーヌは思わず声が出てしまった。
それはルインの言葉と同時に、町へ走って行くブルホーンたちの行く先に二人の人物が立っているのが見えたからだ。
魔道具による短距離用の魔術通信がルインの耳元に聞こえてくる。
『団長の頼みでやってきた。戦闘モード起動。敵影確認――広域射撃にて殲滅する』
機械の身体を持つ十剣人、鉄腕伯レッドエイト。
彼は両腕にミースが持っていたような銃――それを巨大にして回転機構を兼ね備えた重機関砲を二門、数百キロはありそうなのだが軽々と左右の手で構えていた。
『貴様らには上等すぎる鉛の餌だ。存分に食らえ』
発砲。
一発が大砲による轟音のようだった。
それが秒間で百発近く放たれる。
遠く離れているセレスティーヌでさえ、身をすくませてしまうくらいだ。
「な、なんですの……アレは……」
「正義の味方だぞ」
ルインはそう言ったが、正義の味方とは程遠い光景が見えていた。
銃弾が一発当たるだけでもブルホーンの身体は弾け、それが豪雨のように降り注いでいるのだ。
血煙があがり、地獄のような光景が広がっている。
味方なのはありがたいが、その一方的な暴力は破壊神のようだ。
『んぁ~、もう。鉄腕伯は倒し方が雑だなぁ。抜けてきてるブルホーンがいるじゃん~』
もう一人の声が聞こえてきた。
それは風竜人の少女、跳躍侯ルーだ。
スタンピードの戦場に似合わぬ気楽な言葉遣いで、面倒臭そうにしている。
その小さな身体の横をブルホーンが通り過ぎていくのだが放置するほどだ。
「なっ!? あの子どもも助っ人なのでは!? なぜ何もしないんですの!?」
「跳躍侯にとって距離は関係ないからな」
「距離は……関係ない……?」
ルインが何を言っているのか、セレスティーヌには理解できなかった。
しかし、次の瞬間――
『やる気はないけど~……あのザコミースが無様に頑張ってるから様子を見に来たわけだし~……少しは先輩の威厳ってものを見せておかないとねっ! いひひひひ!』
ルーは言葉とは裏腹に、はにかんだ笑顔で笑う。
それに対していつもと変わらぬ仏頂面のレッドエイトが茶々を入れた。
『年の近い、あの人間のことが気に入ったのか?』
『そそそそそ、そんなことない鉄腕伯』
『図星か』
『あーもう! うっちゃいうっちゃい! 撃ち漏らし処理でルーは忙しいんだから!』
ルーはピョンッと跳んだ。
その瞬間、通り過ぎたはずのブルホーンの眼前に出現していた。
短剣を持つ手が風のように軽やかに動き、一瞬で敵を解体する。
『次――』
再び跳び、銃弾で倒し損ねたブルホーンの眼前へと出現、解体。
『次――次――次――次っ!』
一瞬にして孤立しているブルホーンを各個撃破していく。
十剣人の二人は言い合ったりもしているが、どうやら相性が良いようだ。
その異次元の戦いを見て、セレスティーヌはポカンとしてしまう。
「つ、強すぎる……あんなに軽々と……。これがルイン先生が仰っていた助っ人……」
「アタシの一番好きな人はもっともっと強いけどな!」
そんなことを誇らしげにドヤ顔で言うルインだったが、前線の方に予想外の動きがあったのか険しげな視線を向けた。
「……これは、不味いぞ」
「ルイン先生?」
試練のダンジョン入り口からエレメント・クレイドロンが出てきていた。
それだけなら後衛PTによる魔術の集中砲火によって倒すことができていたのだが、何か様子がおかしいのだ。
一箇所に集まってきているように見える。
「そうか、エレメント・クレイドロンは空間があれば合体して大きくなる……。今奴らがいるのは最大級に広い空間であるフィールド――ということは……」
各属性のエレメント・クレイドロンが合わさり始め、その弱点が補完されていく。
魔術でのダメージが弱点ではなくなり、多少のダメージで削ってもすぐに後ろからやってくるエレメント・クレイドロンと合体されて回復される。
「なっ、なんですの!? アレは!?」
「ヤベェ大きさになってきたぞ……」
エレメント・クレイドロンは合体を繰り返し、6メートルもの巨体になっていた。
各属性が合わさり、何者にも侵されない金属であるゴールドのようだった。
「もはやエレメント・クレイドロンじゃないな……。アレはゴールデン・クレイドロンと呼称する。前衛PTで抑え――……るのはきついか」
ゴールデン・クレイドロンの足元で前衛たちが武器を振るうが、相手を傷付けることができない。
後衛の魔術も、どの属性でも表面を汚す程度だ。
歯牙にもかけられていないのか、そのままゴールデン・クレイドロンは町へと向かおうとしている。
到着してしまえば人々が避難している頑強な建物も腕の一振りで破壊され、逃げた住人も巨大な足で踏みつぶされてしまうだろう。
「ふっ、こんなときだけど焦らないぞ。なんせ、十剣人がいるのだからな!」
脂汗を浮かべるルインは、万感の思いを込めてレッドエイトの方を見つめた。
彼の持つ重機関砲なら敵の大きさを気にせずに強力な攻撃をたたき込めるからだ。
しかし、返ってきたのは申し訳なさそうな魔術通話。
『すまん、弾切れだ。あの人間が赤龍の力を多少は戻してくれたのだが、まだ兵器生産能力は完全には戻っていないようだ』
「ハインリヒ様ぁ!! 人選間違えてませんかぁ!?」
頭を抱えるルイン、それに同情したようなルーの声。
『んぁ~……。ルーが対処しようか? 大きな敵相手だとちょっと自信がないけどさ~。ルーのワールドスキルも使いどころじゃないし~……。ホント、なんでこんなポンコツと組ませたのさ、団長は』
ポンコツと言われてムッとしたのか、レッドエイトはギロリと睨む。
『そこまで言うのならオレが――いや、当機が出撃する』
『ちょっ!? 本気でポンコツぅ!? あんな目立つモノをここで使うなんて――』
『ふっ、可愛い妹もスタンピード阻止に尽力をしていたんだ。兄の当機が出し惜しみをしていては笑われてしまう。それに――あの人間にもな』
レッドエイトは、レドナとミースのことを話すときだけ少し柔らかい表情になるようだ。
『……アンタ、そんな顔できんだ。わぁ~ったわよ、風魔法で少しだけ目立たなくするから、その間にデカブツザコをやっちゃえ』
『恩に着る……が、無理をするなよ。跳躍侯が神殺しの団の最後の切り札だと聞いているからな』
『バーカ。ルーの切り札は神殺しの団が全滅でもしなきゃ出せないよ~だ』
『そうか。では――赤龍とリンク……不安定だが成功。現座標を指定……成功。赤龍所属自律型ZYX、型式番号KSX-888 赤き巨人――転送!』
稲妻が落ちた。
光が発生し、霧のようなモノが充満する。
それは原子まで分解されて送られてきたモノだ。
奔流渦巻き、瞬時に結合し、組み上げられ、元の形を取り戻していく。
見えてきたのは赤い金属の塊だった。
五メートル程度あり、人の形をしている。
ダンジョンボスのゴーレムにも似ているのだが、明らかに金属の人工物だ。
頭部には二つのカメラアイが緑に輝き、肩幅が広くマッシブ体型。
それは大昔、別世界で人と人の星間戦争によって開発された殺戮機械――人型同化兵器ZYXと呼ばれる存在だった。
本来はパイロットとなる人間が神経を同化させて乗り込んで戦うのだが、レッドエイトの場合は単体で自律できる。
今までの人間サイズボディは、ただ単にコミュニケーションを取るためのオマケに過ぎない。
この赤き巨人が鉄腕伯レッドエイトの本体なのだ。
『跳躍侯、この場は頼んだぞ』
『頼んだぁ? ったりめぇだろう! 頼まれなくてもやってやんよ!』
レッドエイトは赤き巨人の前方にあるコックピットハッチを開き、内部へ乗り込んだ。
そして人間サイズのボディを停止し、赤き巨人の方へ機能を移す。
『機体動作、確認……正常』
機体の手を握ったり開いたりして、自身が大きくなっていることを実感する。
高くなった視点。
下を見れば小さなルーがさらに小さく見え、手を振っていた。
『それじゃあ、鉄腕伯。援護だよ。――我が血に混じる風神ボレアス様、どうか力をお貸しください」
ルーは魔法を唱え始めた。
これは魔術とは違い、神々から加護を得て発動するモノだ。
通常では繋がりを持てないので使えないのだが、ルーはその血のルーツを辿って加護を引き出している。
魔力と魂を混合させ、エーテルという特殊なエネルギーを作りだして発動させる。
一歩コントロールを間違えば、自らの魂を消費し尽くしてしまう恐ろしさすらある。
「風の外套となりて、旅人の目を遮り、忘れさせたまえ――〝陰風の微笑み〟』
普段のルーとは違い、神秘的な巫女のような表情で風魔法を発動させた。
それは赤き巨人の周囲に展開し、風の渦となって周囲数メートルを遮った。
突然現れたそれに気付いた冒険者も、中に何か赤い色が見えると認識する程度だ。
『感謝する……が、ここまでする必要があるのか?』
『あるに決まってるでしょ! んなデッカい奴が歩き回ってたら、また新たな都市伝説が誕生しちゃう! ルーなんて空飛ぶマンドラゴラとか言われてるんだから! 髪が緑のツインテールだからってひどくない!?』
『炭素生物というのは神経質だな』
『鉄腕伯は神経まで鋼でできているって吹聴してやる……』
『戦闘力が高そうでいいな』
そうマジメに返しながら、赤き巨人はゴールデン・クレイドロンへと向かって行く。
かなりの速度だが、巨大なためにゆっくりと見える。
ほぼ同サイズになったため、正面からガッチリと組み合った。
それだけで金属をすり合わせた巨大な重低音が鳴り響く。
『かなりの力だな』
ゴールデン・クレイドロンは目口の無い頭を後ろに伸ばして、その反動で一気に頭突きをしてきた。
視界に星が散る。
赤き巨人は組み合っていた手を離してしまい、後ろにたたらを踏む。
『くっ、損傷軽微……。金属なのか粘土なのかわからん奴だな。だが、耐久力はどうだ……!』
赤き巨人は一気に踏み出し、前方へ突進。
その途方もない質量を載せた右拳を放つ。
轟音、衝撃波が波紋のように周囲の木々を揺らす。
冒険者たちは風魔法で視界を遮られているが、その異常事態にざわついている。
「な、何が起きているんだ……」
倒れたゴールデン・クレイドロンだったが、凹ませた顔面を修復させながら立ち上がってきた。
赤き巨人は数歩退く。
『耐久力もかなりのモノだな……。攻撃魔術や属性相性を捨てた分、防御に特化させたのか。それならこちらも本気を出させてもらおう』
赤き巨人は腰に帯びていた〝筒〟を握りしめた。
それは機械でありながら銃のような複雑な作りでは無く、ただ先端に穴が空いただけの簡素な棒に見える。
『〝光剣〟――どんな防御も溶断する必殺の武器』
〝筒〟の先端からまばゆい光が伸び、剣の形状になった。
エーテルで作られたそれは、魔力程度の防御では防げず、どんな強固な相手でも丸裸と変わらなくなる。
すなわち――一振りすれば――
『南無三……!』
真っ二つになるのは必然。
ゴールデン・クレイドロンはバターのように分かたれ、巨大な泥へと戻っていく。
身体を斬っただけではなく、その魂ごと切断したのでまた再生することはないだろう。
赤き巨人が数歩離れた。
すると風魔法が晴れたところにゴールデン・クレイドロンの死骸が見え、冒険者たちが大歓声を上げる。
「すげぇ! 何かわからないけど、でけぇのがゴールデン・クレイドロンをやっつけちまった!」
「あ、あんなに強い巨大合体モンスターを呆気なく……!?」
「これもルイン先生のシナリオ通りか!!」
急に尊敬の眼差しを向けられ、ぎこちない笑顔で手を振るルイン。
「そ、そうだぞ……! ハハハハハ……!」
完全に予定外と予定外が重なっただけなのだが、変な事を言って機密を必要以上に漏らしたり、士気を下げたりするわけにもいかない。
「大人って大変なんですわね……」
横で逐一リアクションを見ていたセレスティーヌだけは何かを察していた。
そんな緩んだ空気だったが、スタンピードはまだ続いている。
再び湧き出てきたエレメント・クレイドロンが合体し、ゴールデン・クレイドロンが現れた。
もう慣れたとばかりに冒険者たちは攻撃を中止して離れ、ルインに任せようとしていた。
そのルインも、レッドエイトに任せようとしていた。
そして、期待の連鎖を一身に受けたレッドエイトはマジメな口調でこう言った。
『エネルギー切れ間際だ。もう光剣も使えないし、三分で当機は活動を停止する』
「……は?」
そういえば――と赤き巨人の姿を見る。
光剣の輝きは消え、カメラアイの部分はピコンピコンと赤く点滅を繰り返していた。
もう帰りたいオーラが出ている。
「……鉄腕伯、まだ帰るなよ?」
『……三分間だけ、ゴールデン・クレイドロンと組み合って抑え込む』
ルインは血の気がサァッと引いた。
探知しているミースの現在位置は、ようやくボス部屋に到着しそうな程度だ。
そこからボスを初見で、しかも三分という短時間で倒せという現状。
さらにスタンピードでボス自体も強化されているだろう。
無謀すぎる。
常識的に考えて無理だ。
頭ではそういう結論が出てしまう。
しかし――その過酷な状況でも、現場の指揮官となっているルインは、そうなると認識してはいけない。
白目を剥きながらも現場の志気を上げなければいけないのだ。
ヤケクソで叫ぶしか無い。
「冒険者の諸君、最奥に辿り着きそうな我が生徒ミースが、たった三分でボスを倒してくれるらしい。やったぞ、あと三分耐えれば我らの勝利だぞ!! 始まりの英雄は、いま成長の英雄となる!!」
「「「「オォーッ!!」」」」
冒険者たちの鬨の声があがった。
タイムリミット三分の最終決戦が始まろうとしていた。