ラストダイブ、試練のダンジョン
試練のダンジョンへ出発前、ミースとゼニガーは厳重に管理された冒険者学校の兵器庫へ案内された。
魔術による鍵が何重にもかけられており、学生は普通出入りができない。
「餞別だ、持っていくといいぞ」
ルインから手渡されたのはポーションと、使い道の分からない筒だった。
「これは……?」
「片方は国宝級のポーションだ。即効性があって、出回っている物よりも魔術回復に近い。危険な時は迷わずに飲め」
ミースはゴクリと喉を鳴らした。
国宝級というのがどれくらいの意味かわからないが、ゼニガーが悲喜交々の面白い顔をしているので相当なのだろう。
「もう片方のブツは……銃だ」
「……銃?」
聞いたことの無い言葉に首を傾げる。
ゼニガーの方を見ても、同じような表情をしている。
ミースが世間知らずというわけでもなく、この銃というモノは非常に珍しいのだろう。
「赤龍由来の……ようするにレドナ本来の武器技術を流用したものだ。属性が込められた魔石を火薬により飛ばし、敵に命中させることによって中級属性魔術くらいの威力が出るぞ」
「すごい! そんな物があるなんて! 使わせてもらいます!」
ミースが銃を受け取ろうとしたのだが、ルインにガシッと掴まれた。
「一発にかかる金がメチャクチャ高いから、本当にピンチな時に撃つんだぞ……」
「わかりました! ピンチになったら撃ちます! 楽しみだなぁ!」
「お、おい……本当にわかっているのか小僧……。撃つたびに冒険者学校の経営が傾くレベルで――」
「これが説明書ですね、移動しながら読みます! それじゃあ、急ごうゼニガー!」
「あ、待て! 本当の本当に理解しているのか!?」
スタンピードの時間が迫ってきているので、ミースとゼニガーは外に用意してある馬車に向かうのであった。
***
走り続ける馬車の中、ミースは考え事をしていた。
報酬が金色の魔石ということは、レドナ復活のためになるだろう。
しかし――失敗すれば。
「成長の町ツヴォーデンすべてのダンジョンでスタンピード発生か……。始まりの町アインシアのときとは規模が違うな……」
「なんや、ミースはん。失敗したときのことを考えてるんかいな?」
「うん……さすがに大きすぎて実感はないけど……」
馬車の中、横に座るゼニガーが優しげに言った。
「ワールドクエストをやれるんがワイらしかいなかっただけや。全力でやれば誰も責めん。少なくともワイは責めたりせぇへん」
「そうだね、ありがとう。俺も何があってもゼニガーを責めたりはしないよ」
「そうや、この町で学んだ分……やれるだけ全力でやったろうや!」
その一言で緊張がほぐれた気がした。
やはり最初からずっと一緒に、ダンジョンに潜っているゼニガーは頼りになる。
目的地に到着して、二人を置いて去って行く馬車。
眼前には試練のダンジョンが存在していた。
大きな入り口は白いレンガのようだが、継ぎ目が全く見えない。
ダンジョン特有の素材で作られているのだろう。
「そういえば、プラムとオーロフはなんで試練のダンジョンに入っていったんだろう?」
「オーロフはんは……飛び級で見返したいって言ってたのを実行したんやろうなぁ」
「なるほど……」
「プラムはんは――」
ゼニガーはその先を言おうとしたが、何かプライバシーというか、人の恋路に踏み込んでしまいそうだったので言葉を濁すことにした。
「き、きっと修行のためやな!」
「そっか……頑張り屋さんなんだね……! でも、優しいプラムのことだから、オーロフの言いなりになってないか心配だよ」
「っぷ、わはは! それなら大丈夫やろ!」
「そうなの?」
ミースの目から見たら、いったいプラムがどんな風に映っているのか。
そう考えてゼニガーは思わず笑い出してしまったのだ。
一通り笑ったところで二人は気合いを入れ直した。
「よっしゃ、それじゃあ進もうや!」
「ワールドクエスト、開始だ!」
***
――一方その頃、オーロフPT……。
「ほら、オーロフ! ちゃんと前で盾をしなさいよ!」
「ひぃぃぃ! なんでオレがこき使われなきゃいけねぇんだよぉぉおお!?」
主導権を握っているのがプラムなので、プラムPTと呼称した方がよさそうだ。
そのプラムPTは二層目を進んでいた。
このダンジョンは全三層構造と比較的短めなのだが、モンスターが手強いことで有名だ。
エレメント・クレイドロンも通常のものとは違い、時間とスペースがあると合体して巨大化したりもする。
「敵が合体前に最速で倒すわよ! 全部私に向かってくるから、ほら! 盾しなさい、盾! 腕が千切れたりしなければ私が治してあげるから安心なさい!」
「こ、この女こえぇぇぇぇえ!!」
順調に試練のダンジョンを進んでいるように見えたプラムであったが、前回の戦いで魔力を込めすぎて杖を破壊してしまったので、加減しながら撃たなければならなくて歯がゆい思いをしていた。
それにミースやゼニガーがいた頃と違って、結構な確率で敵が抜けてくる。
自らも傷付きながら後衛をこなしているのだ。
(でも、こんなことでくじけてはいられない……。家を飛び出してまでミースを助けようとしたのに、結局は力足らず……。このくらいクリアしてミースを引っ張ってあげられるようにならなきゃ)
プラムもプラムなりに考えて、試練のダンジョンに挑んでいるのだ。
「お、おい。プラムミント……」
「ふふ。すべてが終わったら、ちゃんと気兼ねなくミースに想いを伝えられるかなぁ……」
「聞けよぉ!? なんかモンスターたちの様子が変だぞ……?」
「え?」
今までプラムに向かってきていたはずのモンスターが、なぜか同士討ちをしている。
スタンピードの前兆である、異常行動だ。