クラス対抗ダンジョン攻略戦、その後
ミースたちは、リュザックが立ち去ったあとにボスを撃破した。
ゼニガーとプラムは武器が破損していたが、代わりに途中まで強化されたドロップ品を装備。
ボスはなぜか手応えの無い虚しいものに感じ、珍しくドロップも無かった。
三人はクラス対抗ダンジョン攻略戦に勝利したはずなのに、悔しげな表情で帰還した。
***
数日後――学食にミースたち三人がボーッとしながら座っていた。
そろそろ身体の疲れも取れてきているのだが、心の方はまだまだのようだ。
「なぁ……ミースはん……。リュザックはんは悪魔やったんかなぁ……?」
「ルイン先生に話したけど、言葉を濁されたね……」
事が事だけにルインに報告したのだが、あまり多くは語ってくれなかった。
ただ、今度遭遇したら迷わず逃げろというアドバイスくらいだ。
つまり、勝てないと判断されている。
それもそうだな――と納得してしまう自分がいると、ミースは気持ちが落ち込んでしまう。
どうやらゼニガーも同じようだ。
対上級悪魔の戦闘は二度目だが、今回も負けてしまったのだ。
否応なく苦い気持ちが蘇ってくる。
「負けたわよ……ええ、負けたわよ……」
そんな中、プラムだけは悔しそうな表情をしながらも歯をギリッと噛み締めて、獣のような眼光を光らせていた。
「負けたからって何よ! 次に勝てばいいじゃない! それでもダメだったら、その次に……!」
「プラム……」
ミースも前向きになりたいのだが、プラムにとっての次は、ミースにとっての今回だったのだ。
努力してもダメだったというのは思いのほか辛い。
それに身体の奥底に染みついてしまっている。
次というのがある時点で幸運なのだ。
すべての終着点である〝死〟と相まみえてしまえばそこまでだ。
レドナの最後の姿が今でも脳裏に浮かぶ。
あまりにも呆気ない死。
「……情けないわ!! 私が…………私を助けたミースはそんなんじゃなかった!!」
プラムはテーブルをバンッと叩いて苛立ちを示し、その場から立ち去ってしまった。
ミースは今の自分が情けないと自覚していたために、声をかけて引き留める事も、追いかけることもできなかった。
「さすがにそれはあかんやろ……ミースはん……」
「……うん」
たぶんゼニガーはどちらの気持ちもわかるのだろう。
今のミースは見ていられないし、それと同時に二度目の敗北を自分も味わっている。
話題を変えて気を紛らわせることくらいしかできない。
「そういえば、リュザックはん。どこかへ消えてもうたな。あのくらいの実技と座学があれば飛び級で卒業も余裕やったろうに。……って、飛び級ってどうやったらできるんや?」
「たしかルイン先生が言ってたのだと、『一定の成績と実績を持った学生が、試練のダンジョンをクリアする』というのが条件らしいよ」
「試練のダンジョンか~」
二人しかいないテーブルで喋っていると、そこへ見知った憎らしげな顔がやってきた。
「おう、勝者なのに敗者みてぇな顔をしてんな。ゼウスクラス」
「なんだ、オーロフか」
それは対抗戦が終わってから、何かと話しかけてくるようになったオーロフだった。
冒険者学校の数々の悪行はあるのだが、それは一部の教師が加速させてしまったというのもあるということで、それなりの処罰は受けたのだが退学は免れたのだ。
その彼が遠慮無くミースの横にドッカと座ってくる。
「何だはねぇだろ。もう二度もやり合った仲だろ?」
「オーロフの仲良くなる基準がわからないよ……」
「んなことより、飛び級の話って本当なのかよ?」
オーロフのおかっぱ頭がグイグイと近付いてきて、興味津々で見つめてきている。
手で引き剥がしながら答えることにした。
「ほ、本当だよ。実際に飛び級で卒業したルイン先生が言ってたし、そもそも隠されていない情報っぽいしね」
「てぇことは、オレも飛び級で卒業すればミースやリュザックより上ってことになるな……しめしめ……これは良いことを聞いたぜ……」
「オーロフはん、まさか試練のダンジョンに挑む気かいな?」
ゼニガーが聞きたいことを聞いてくれた。
明らかに難易度の高そうなダンジョンに、あのオーロフが挑んでも結果は見えているようなものだ。
「いいじゃねーか。冒険者ってのは挑戦してナンボだろ」
「オーロフはん、何か変わったんやなぁ……」
「あんだけボコされりゃな……! となると、後衛くらいは探さないとな……最近セレスティーヌはダンジョンを怖がって付き合い悪ぃし、他に誰かいねぇかなぁ……」
オーロフはブツブツ言いながら食堂から去って行ってしまった。
何か疲れてしまったミースとゼニガーもそこで解散して、各自の特訓に戻る事にしたのであった。
***
その数時間後――ルインから呼び出された二人は、耳を疑うことになる。
「緊急事態だ。お前らにワールドクエストをやってもらう。失敗した場合はスタンピードでここら一帯は壊滅だぞ」
「……え?」
「……情けないわ!! 私が…………私を助けたミース《あのこ》はそんなんじゃなかった!!」
というセリフは誤字ではなく、「私が好きだったミース《あのこ》は」というのを言い淀んだ表現だったと思います(結構前に書き溜めたのでうろ覚え)。
皆様に本になったものをご購入頂けたら、ここの範囲も書籍化できるかもなので、そのときは改稿でわかりやすくしなきゃなぁ……。