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常人と戦人

本日、三話連続更新! その三!

「ゼウスクラスのてめぇらをぶっ殺してやるぜ!!」


 先陣を切ったのはオーロフだった。

 手に持っているのは片手剣と、中型の盾というスタンダードな騎士スタイルだ。

 ターゲットは一番崩しやすいと思われたのか、後衛のプラムへ向かう。


「ファイア・アタック。ウォーター・マジック。エアー・スピード。アース・ディフェンス――」


 当のプラムは気にせず、PTに強化魔法を唱えていた。

 それを見て疾走中のオーロフはゲスな笑みを浮かべる。


「おいおいおい、狙われているのに暢気に詠唱とか、さすが領主令嬢様だぜぇー!」

「違うよ、プラムはPTを信じているから自分の役割をこなしているんだ」


 オーロフの進路先に、ミースが風のように舞い込んで銀の剣+99を構えていた。


「ちっ」


 さすがにオーロフはミースを無視して突っ込むことはできない。

 後衛のプラムを攻撃できたとしても、横か背後からミースの一撃を受けてしまうからだ。


「まぁ、対人戦ではヘイトアップが微妙になるから、一対一の構図になりやすいんやなぁ」


 首をコキコキとならすような仕草をして、ゼニガーも前に歩み出た。

 その対面にいるのは、ハンマーを構えたぽっちゃりパワータイプ貴族女子のマルトだ。


「ワタシ、硬い相手大好き」

「おっ、ワイのモテ期かいな?」

「いっぱいハンマーで潰せるからぁ……」

「……」


 マルトの猟奇的な発言を聞いて、ゼニガーは引き気味な表情になっていた。


「となると、私は……セレスティーヌ、貴女の相手をするわけね」

「そ、そうですわね……。わたくし、領主令嬢のプラムミント様が相手でも容赦はしませんわ……!」


 プラムはPTに強化魔法を使い終え、没落貴族令嬢のセレスティーヌと対決することになった。

 他の二人は間合いやけん制などでジリジリと見合っているが、魔術ならばすでに射程圏内だ。


「魔術適性がないプラムミント様相手なら、わたくしだって……! 火の精霊よ、その熱き力の矢を我に授け給え――ファイア・アロー!」

「あ、そういえばまだ言ってなかったわね」


 セレスティーヌのファイア・アローの詠唱から到達までの数秒間、プラムは平時と変わらない様子で話しかけていた。


「魔術、使えるようになったわ」

「……え?」


 プラムにファイア・アローが突き刺さりそうになった瞬間、水の精霊が前に出て無詠唱でウォーター・アローを放って相殺。

 残ったのは呆然としたセレスティーヌの表情と、水蒸気だけだ。


「え……? なんで、どうしてですの……。呪文を唱えずに一瞬で……ありえない……」

「ごめんね、貴女には何の恨みもないけど(・・・・・・・)……」


 プラムはもう一度ウォーター・アローを放ってセレスティーヌを気絶させようとしたのだが、ふと彼女の顔を見て思いだしたことがあった。

 それはミースの手の甲に、セレスティーヌがキスをしていたシーンだ。


「……やっぱり、ちょっとは(・・・・・)あるかなぁ~!」


 怖い笑顔を浮かべて、追加でファイア・アロー、エアー・アロー、アース・アロー、サンダー・アローを空中に出現させる。


「お、お待ちになって!? なんでそんな同時に魔術を……もしかして【五重詠唱クィンティプル・キャスト】!? しかも、基本属性以外の見たことの無い雷――」

「バイバイ、なるべく苦しませずに一瞬で()ってあげるから安心していいわよ」

「ひぃっ!?」


 軽やかな声のあと、五色の暴力が吹き荒れた。

 プラムの宣言の通り、苦悶の表情を浮かべる前にセレスティーヌは即死して、魔素である球体となって蘇生待ちとなった。




「女は怖いでぇ……」


 その少し離れた場所で、ゼニガーはハンマーを盾で受け止めていた。

 相手のマルトは太った身体の体重を乗せて一撃が重く、しかも連打してきている。

 肉体の強さでいえばかなりのものだ。

 それにスキルランクR【重戦士】が合わさっていて、手の付けられないパワーアタッカーと言えるだろう。


「ひえ~! こっちの女も怖いでぇ!?」

「フン! フン! フン! フン! フンヌゥゥゥ!」


 人間が出せるか怪しい打撃音が響き渡り、金属同士の火花が飛び散る。


「ぐふふ! ワタシのハンマーは500キログラム! 大人しく潰れろぉ!」

「ほ、ほんまに人間なんか!?」


 いくら冒険者といえど、そんな重さの武器を使っている者は少ない。

 魔力やスキルで強化して力を上げることも可能だが、それに加えて素の筋肉量が多いのだろう。

 まさに天性のパワーアタッカーだ。

 しかし――


「せやけど、隙が大きいでぇ!」


 防御のエキスパートであるゼニガーは、PTの中で一番相手の攻撃を観察することができるポジションだ。

 当然、その経験から隙が出来るタイミングも把握しやすい。

 重すぎるハンマーにタイミングを合わせて、うまく盾でいなした。


「なぬぃっ!?」

「ほいっとな」


 側面に回り込んだゼニガーは華麗な槍捌きを見せ、マルトの足元のバランスを崩した。


「ワイは女性相手には優しいからな。……怪我はせぇへんかったか?」


 アザくらいは出来てしまったかもしれないが、槍の穂先は使わずに転ばせたので血は一滴も出ていない。

 マルトは倒れながら唖然としている。


「あんさん、イカサマPTなんかに入ってるから、もっと弱いと思っとったが――意外とやるやん!」


 強い相手の攻撃を受け、盾として敬意を表したゼニガー。

 その表情は自然とイケメンスマイルになっていた。

 それを見たマルトは頬を赤らめる。

 いつもはその巨体から女性扱いされないし、腕力も異常として見られているのに、ゼニガーはその逆で女性扱いして強さを褒めてくれたのだ。

 王子様に見えてもおかしくはない。


「ぜ、ゼニガー様ぁ!」

「うわ!? ちょちょちょい!? なんやこれ!? 誰得や、助けっ」


 マルトはゼニガーを押し倒し、脱出不可能な愛のサブミッションをかけていた。




 PTの二人がやられたのを見て、オーロフはチッと舌打ちをした。


「アイツら、簡単に負けやがって……」

「オーロフ、もう三対一だよ。それでも諦めないの?」

「……諦められっかよ! 敗北なんて認めねぇ!!」


 オーロフは剥き出しの感情を見せてきた。

 戦いを終えたプラムが加勢してこようとしていたが、ミースは手でけん制した。

 そして、問い掛ける。


「オーロフはどうして冒険者学校に入ったんだ?」

「そんなの……はっ、そんなの決まってんじゃねーかよ! 貴族として箔を付けるためで、ついでにテメェらをぶちのめして気持ちよくなりてぇだけだ!」

「わかった。話したくないのなら、こっちで決着を付けよう」


 ミースは学校では見せない、目の据わった表情だ。

 オーロフは一瞬ゾッとして、持っていた剣が揺らぐ。


(な、なんだコイツ……雰囲気が変わったぞ……。戦場帰りの騎士のようだ……)


 好戦的な目……どころではない。

 本気の殺意を込めた目。

 人殺しの目だ。


(び、ビビってたまるかよ!)


 オーロフは精一杯の虚勢を表情に乗せ、王国剣術の防御寄りの構えを取った。

 前回の模擬戦では大ぶりな攻撃をしてしまったために隙ができて敗北したが、さすがにオーロフも悔しかったので学習をしている。

 王国剣術本来の防御主体で、相手の隙を突くスタイルだ。

 それにこれならオーロフが持つスキルも活かすことが出来る。


(オレのスキルが決まりゃ一撃だぜ……!)


 ミースはそれを知ってか知らずか、攻撃重視の我流の構えを取る。


「それじゃあ、こっちから行くよ!」

「ハッ、へっぴり腰のおままごと剣術で来いよ!」


 ミースは半歩踏み込み、ギリギリの射程から銀の剣+99を振る。

 オーロフは持っている盾で弾く。


「隙有りだぜ!」

「そうはいかない!」


 オーロフが隙を狙って剣を突き出してきたが、ミースはそれを回避した。同時に側面から近付いて、オーロフへ一撃を狙う。

 ――が、それもオーロフは盾で弾いて、反撃の糸口とする。


「食らいやがれッ!」

「くっ」


 ミースは紙一重で回避。


「やるね、オーロフ」

「これが本来のオレの騎士スタイルだぜ!」


 オーロフの戦い方としてはアタッカーというより、ゼニガーのような盾としての立ち位置に近い。

 馬鹿みたいに隙を見せてこなければ、その防御はなかなかのものだ。

 打ち合いが一合、二合、三合――と続き、剣戟の音が鳴り響く。

 その決闘じみた戦いを見学しているプラムは歯がゆいと同時に、前衛同士の戦いに見とれてしまっていた。


「ねぇ、ゼニガー……もしかして二人は同じくらいの力なの?」

「んー、プラムはんはわからんかもしれんが、ミースはんの方がかなり押しとるな。盾視点だと、守って時間は稼げても、そこから一人で切り崩すのは大変なんや」


 それは当の本人達も分かっていた。


(チッ、攻撃の一手が掴めねぇ! だが――)

「もらった!」


 ミースが決めの一撃を入れようとした瞬間――


「もらったのはこっちだぜ! 【パリィ】!」

「なっ!?」


 ミースの攻撃が盾に当たった瞬間、普段よりも大きく弾かれた。

 それはスキルランクSR【パリィ】の効果である。

 これは敵の攻撃のタイミングとスキル発動をピッタリと合わせれば、強制的に弾き飛ばして、大きな隙を作ることができるというものだ。

 オーロフはこのために打ち合ってミースの攻撃タイミングを計っていた。


「死ねぇ! ミースぅ!」


 体勢を崩したミースに対して、オーロフの刃が迫る。

 しかし、ミースは落ち着いていた。


「――我流から王国剣術へ」


 ミースは構えをチェンジした。

 この世界の構えというのは、ただ単に剣の持ち方などを変えるだけではない。

 魔力の巡らせ方によって、目的の行動をしやすくするという効果もあるのだ。

 この場合は攻撃的な魔力配分の我流から、防御的な王国剣術へとシフトした。


「なに!?」


 耳障りな金属音。

 間一髪、剣で防ぐ。

 そこからミースは剣と剣を上手く滑らせるようにして、オーロフの攻撃を凌ぐと同時に――


「オレの剣が!?」


 オーロフの剣を絡め取って、遠くへ弾き飛ばした。

 剣を失ったオーロフに対して、ミースは剣の切っ先を突き付ける。


「下手をしたら殺していたかもしれない」


 学校では本気を出してしまうと相手を殺してしまうかもしれないため、いつも手加減していたのだ。

 そのため――今の言葉はミースにとっては賛辞だ。

 しかし、オーロフにとっては。


「ち、チクショウ!! コケにしやがって!!」


 馬鹿にされたと感じたのだろう。

 悔し涙を浮かべたオーロフはマルトを連れて、来た道を引き返していった。

 ホッとしたところで、ゼニガーとプラムが駆け寄ってきた。


「ミースはん、お見事や」

「やったわね」

「う~ん……なんか怒らせちゃったみたいだけど……」

「成長するためには悔しがることも必要やで、知らんけど」


 勝利したゼウスクラスPTの三人は、ダンジョンの奥の方へと進むことにした。


 ……ちなみに唯一の被害者であるセレスティーヌは、学校があとで蘇生させてくれるだろう。それまで魔素の状態でプラムの悪夢にガタガタ震えながら待つしかない。

最近エルデンリングのためにペースを落として書き溜めていると言ったな!

しかし、本当は書籍化のお話が来ていたためだったのだ!

詳細は後日、またタイミングがあったらお伝えします。




……それはそれとして、エルデンリングは全力でやるぞ!!!!!!!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ワタシのハンマーは500キログラム! …ああ、某スケベな銃のプロの相方たる女性の 使用している0.1%の重量ですか。 そう聞いたら無理はなさそう。 (あっちは100トンハンマー) それにし…
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