プラム、初めてのキャンプ
本日、三話連続更新! その一。
「三層目入り口の聖域に着いたけど、体内時計的にもう夜かな……」
一層目、二層目を手際よく倒してきたミースたちだったが、この三つ首のダンジョンは広いために移動するだけでもかなりの時間がかかる。
かなりスムーズに攻略してきても夜になってしまった。
「し、仕方がないわよ……さすがにこれ以上早く進むには全力疾走で一日進み続けなきゃいけないくらいなんだから……」
「そ、そうやな……ミースはんなら可能かもしれんけど、その場合はワイらが置いてけぼりや……」
いつものようにスタミナオバケのミースは疲れを見せておらず、残りの二人はへたり込んでいる。
順調に行きすぎるのも問題かもしれない。
そこでミースは二人を休ませながらキャンプの設営を開始した。
前回は調理器具などだけだったが、今回は買って来たテントも組み立てなければならない。
早速、大収納から一式を取り出していく。
「えーっと、たしかこう組み立てるんだっけ……」
最新式のダンジョン用テントは、フレームとなるポールを組み合わせて作っていく。
風はないので地面に打ち付けるペグは不要だ。
それを湿気、寒さ対策のグランドシートの上に置けば完成。
かなり軽量なので大収納がなくても持ち運べそうだ。
意外と簡単だったのでゼニガーとプラムの分も手早く組み立ててしまう。
「あとは椅子とテーブルを出して、調理器具で料理を開始っと……あ、その前に二人に温かい飲み物を煎れてあげなきゃ」
「おおきに……この手際の良さ、嫁に欲しいくらいやな……」
「くっ、何か負けた気がするわ……」
事前に購入しておいた身体が温まるハーブティーを煎れて、ミースは調理に手を付ける。
「そういえば、ダンシングプラントの葉が手に入ったな……。アレを作ってみるか」
ミースは村の先生に教わったレシピを試してみることにした。
「まずは焚き火を……プラム、生活火魔術をお願いできる?」
「それくらいなら休みながらでも余裕よ」
プラムは火の精霊であるヘパに指示を出して、組み上げた薪に生活火魔術ファイアを飛ばした。
指先サイズの火の玉だが、消えにくいので着火に向いている。
その焚き火の上に網を使った簡易調理台があるのですぐに料理ができる。
「まずはフライパンに、ダンシングプラントの葉を乗せて、成長の町ツヴォーデン特産である旬のサーモンを包むっと……」
「へぇ、葉っぱで包み込むなんて面白いわね」
「包み焼きって言って、葉の風味が鮭に移るんだ。それに大きいダンシングプラントの葉は、中で蒸して旨みを凝縮する効果もある」
ちなみに下ごしらえを先にしておいて、下味もつけてある。
キャンプ地で複雑な調理をするのは難しいためだ。
「あ、忘れてた。バターも入れなきゃ」
「鮭にバター……出来上がりが楽しみね!」
シンプルが故に、つい想像してしまう鮭とバターの美味しい組み合わせ。
プラムはもう幸せそうな表情になっている。
「っしゃ、休めたしワイも料理を手伝うで! といっても、ただ網で魚介類を焼くだけやけどな!」
「わ、私も手伝う」
「プラムはん、初めてダンジョンで過ごす夜はきついやろ。休んどきぃ」
ミースもそれに同意した。
二人は聖杯のダンジョンでの体験で、プラムが相当身体的にきついだろうと察しているのだ。
プラムも無理をして迷惑をかけてはいけないと思ったので、渋々言うことを聞くことにした。
「む~、わかったわよ。その代わり、飛びっ切りの料理を食べさせてくれないと承知しないんだからね」
「ほんまにコイツ、女王様みたいになっとるな……。まぁええで、任せとき!」
ゼニガーは胸を張ってそう言うと、町で用意してあった魚介類を豪快に網で焼いていく。
成長の町ツヴォーデンの名物は鮭だが、海が近いために新鮮な魚介類の産地でもあるのだ。
「イカ、エビ、ホタテ、牡蠣、サザエ……あと、ルインはんに強引に持たされた野菜……オカンか!」
「私、食べ物は大体美味しく食べられるからオッケーよ!」
プラムは椅子に座ってワクワクして、料理が出来上がるのを待っていた。
精霊たちもそれに影響されてか、プラムの周囲で小躍りをしている。
「まっだかっな♪ まっだかな~♪」
「プラム女王様、しばしお待ちを」
ミースが執事っぽい演技で冗談を言う。
プラムとしてはまんざらでもなさそうだ。
「うむ、良きに計らいなさい」
ニコニコ顔で女王様っぽい演技で返す。
「あかん……このPTでもツッコミ役がワイだけかいな……」
呆れ顔のゼニガーだったが、そう言いつつも海鮮バーベキューの管理をしっかりとしている。
きちんと火が通るようにタイミングを見計らってひっくり返し、物によっては火の強いところから弱いところへ移動もさせる。
「よし、完成かな」
「こっちも良い焼き加減になったでぇ」
ダンジョンの中に香ばしい磯の香りが漂っている。
主賓の特等席に座っていたプラムは、ゴクリと唾を飲み込み待ちきれない様子だ。
ミースはそれを見て笑いながら料理を皿に盛ってあげて、プラムに手渡した。
「はい、熱いから気を付けてね」
「うん、ありがとう。頂きます!」
まずは鮭のダンシングプラント包みだ。
プラムはそれをジッと見詰める。
色々と見る角度を変えてみるのだが、ただの〝煮た葉っぱの塊〟のようで食指が伸びない。
「何というか、期待していたより地味……あっ、ごめん!」
つい、期待度の高さのギャップから本音が出てしまった。
「って、思うよね? ダンシングプラントの葉を開けてみて」
「わ、わかったわ……」
ミースが言うのなら仕方ないとばかりに、恐る恐るダンシングプラントの葉をフォークで開いていく。
何重にも包んでいるそれは神聖な蓮が花開いていくようだ。
「ふわわぁ……」
プラムの情けない声が聞こえた。
それもそのはず、中から出てきたのはその名の通りサーモンピンク――的確に蒸された鮭のバター焼きなのだ。
フワリと濃厚な鮭とバターの香りが鼻腔を刺激し、その熱気が今すぐ鮭を食えと主張しているようだ。
その誘いに勝てず、プラムはフォークをガッと突き立てる。
そして、豪快に肉厚な一切れを口に運ぶ。
「プラム、熱くない……?」
「んんんん!! へーき! おいひぃ!」
プラムは気温が低めのダンジョンで知らない内に冷え切っていたが、ダンシングプラントの葉で包むことによって凝縮された鮭の旨みと、バターのまろやかさが心身共に暖めてくれるようだ。
蒸すことでしか味わえない逸品だと自信を持って言える。
「ワイの海鮮バーベキューの方も食べてーな」
「こっちもおいしいわ!」
様々な種類のバーベキューも瞬く間に口の中に放り込んでいく。
どうやら魔力を使ったためか、普段よりも食欲があるらしい。
それを誰かと重ねたミースとゼニガーは、少しだけ優しい顔になっていた。