精霊の女王
「えーっと……」
思考がフリーズしていたミースは、ようやくまともな言葉を口にすることができた。
プラムに聞きたいことが多すぎる。
「プラム、いつの間に魔術を使えるように……?」
「ルイン先生に、メラニ学園長を紹介してもらって、そこから特殊な精霊のダンジョンへ通っていたのよ! 良い感じに精霊と〝仲良く〟なれたわ!」
プラムが言う精霊とは、周囲にいる二頭身のカラフルな浮遊物のことなのだろう。
心なしか〝仲良く〟と言われたところでビクッとしたように見えた。
「そっかー……って、そもそもなんで精霊さんが見えてるの!?」
「せやな……前衛のワイらでも精霊が見えないことくらいは習ったでぇ……」
「うーん、なんでだろ?」
プラムは自慢げな表情のまま可愛く首を傾げていた。
そのフォローとばかりに、黄色い精霊が話に割り込んできた。
たしかプラムの呼びかけに答えていたのも、この精霊だ。
『うぉっほん、それはじゃなぁ――精霊がプラム女王を主と認めたからなのじゃよ』
「精霊が主と認めた……?」
通常、魔術を使うためには精霊を感じ、繋がりを持って必要なときに加護を与えてもらうという形になる。
この状態は、完全に精霊が上位の位置にいる。
逆にプラムの場合は、精霊が人間を主として認めて、従属しているような形になっているのだ。
『もっとも、精霊が見える空間で交渉して、外でも精霊が身体を持てるように豊富な魔力とセンスを持っているプラム女王にのみ許された特権とも言えるがのぅ』
「すごい、すごいよプラム!」
ミースから褒められてプラムは照れてしまう。
それを隠すかのようにエッヘンと見栄を張る。
「ふふん、すごいでしょ」
「でも、どうやって仲良くなったの? 精霊さんからは嫌われているって話だったけど」
「そりゃ最初は一方的に精霊に攻撃されたけど、最後はこぶ――」
拳で仲良くなったと言おうとしたところで、ゼニガーが余計なトスを出してきた。
「領主令嬢ともなれば、さぞお淑やかな交渉だったんやろなぁ。もしかして、ハインリヒはんみたいにお茶会でも開いたんとちゃうか?」
「えっ、そうなのプラム! 精霊さんと一緒にお茶会ってすごいよ!」
「……」
ミースのキラキラした瞳がプラムを襲う。
ここで『拳で!』などと言ってミースをガッカリさせていいのだろうか。
いや、良くない。
そう結論づけられた。
「そ、そうよ……お茶会で平和的に交渉したのよ……」
「さすがプラムだね!」
精霊たちが、ファンシーさから離れたクソを見るような目を向けてきているが、こっそりと振り返って睨み付けたら押し黙ってくれた。
「ところで、その精霊さんたちって名前はあるの?」
「ええ、あるわよ! こっちの黄色いのから――」
雷の下級精霊ゼウ。
火の下級精霊ヘパ。
水の下級精霊ポセ。
風の下級精霊アル。
土の下級精霊デメ。
回復の下級精霊ヘス。
彼らは紹介されるとそれぞれペコリとお辞儀をしていた。
ミースはそれに律儀にお辞儀を仕返す。
『最初は、プラム女王に拳で負けたワシらに名前など勿体なく……と思っていたのじゃが――って、ぐぎゃああああああ!』
プラムは瞬時に黄色い精霊――ゼウの頭部をアイアンクローして黙らせた。
「ぷ、プラム……?」
「あっ、これは……その……この子は頭部をマッサージされるのが好きみたいで! ちなみに拳で負けたっていうのは、お歌対決があって、東の国の歌唱法である〝コブシ〟で勝ったってことよ!」
「そ、そうなんだ……」「そ、そうなんか……」
ミースとゼニガーはこの時点で『なぜ女王と呼ばれているか』というのに気付きそうになったが、色々と怖くなったので言及はしなかった。
『いたた……。名前に関しては、ワシが精霊たちの名前に関しては良い腹案があると進言致したのじゃ』
いつの間にかアイアンクローから解放されていたゼウ。
どうやら彼が精霊のまとめ役らしい。
「精霊たちっていうか、メチャクチャ自分本位から始まったような気がするんだけど? たしか『ワシ、ゼウスって響きが気に入ったので、そう名乗りたいのじゃ!』とか言ってたわよね」
「ゼウス……クラス名?」
『そう、ゼウス! どうじゃ、どうじゃ? 何かワシに相応しい偉大な雰囲気を感じるじゃろ?』
「そこで私は『スケールちっちゃいし、ゼウスから一文字引いて〝ゼウ〟でいいんじゃない?』と言って、ゼウになったわけ」
どうやら他の精霊の名前もクラス名から取ったらしい。
よく意味の分からないクラス名だったが、こうやって精霊の名前にするとなぜかしっくり来てしまう。
「それじゃあ、気を取り直してどんどん奥へ進んでいくわね! ミースとゼニガーは力を温存しておいて!」
「プラム、あんなに撃って魔力は平気なの……?」
「そうやで、いくらエレメント・クレイドロンを倒すのは魔術が楽やといってもなぁ……」
プラムは、まぁ見てなさいと言わんばかりに先に進みながら、次々と弱点の魔術をエレメント・クレイドロンに打ち込んでいく。
様子からして、たしかにプラムが無理をしているようには見えない。
「入学式でやった〝魔術適性の検査〟っていうのは精霊から好かれていないという意味でゼロになっちゃったけど、元々の魔力量や操作はそれなりだったみたい。そこにスキルガチャで手に入れたSSR【賢者】や、後衛の制服+99とかで上乗せされたって感じね」
スキルランクSSR【賢者】
これはスキルランクR【魔術師】の完全上位の複合スキルだ。
魔力アップや、発動短縮など――魔術を使用する際の大体の効果が上がっている。
それに後衛の制服+99に付いている【魔力アップ極小】【魔力回復量アップ極大】もある。
そして最後に、精霊からの加護ではなく、直接精霊を使役して魔術を使っているために様々なロスが少ないというのが大きい。
「……まさに歩く魔術砲台」
「魔術放題でもある感じやな……」
視界に入った瞬間、消滅させられるエレメント・クレイドロン。
響く爆音、輝く閃光、ダンジョンを揺らす振動。
あまりの迫力にミースとゼニガーは戦慄していた。
「あ、ミース。ドロップした杖、あとで合成お願いね」
「う、うん……」
そこに練習用の杖から、ドロップした杖を+99した物に変更したらどうなるのか。
考えただけでも恐ろしくなった。
(エルデンリングが発売したら、しばらく執筆できるか怪しいので結構書き溜めているタック)