冒険者学校の模擬戦
ミースとオーロフの模擬戦、開幕はオーロフが動いた。
「食らえ、ミースぅ!!」
少し遠めから、一気に距離を詰めての重い一撃。
冒険者学校で教えている王国剣術というのは、多対多での合戦から発展したものだ。
オーロフの一撃も、多数の敵を前に距離を取り、一瞬で近付いて甲冑の上から叩き砕くという想定だ。
「くっ!」
一方、ミースも王国剣術の構えで防御を取る。
オーロフのような攻撃の型もあるのだが、基本的には防御寄りなのが王国剣術だ。
騎士の甲冑を前提として、相手の一撃を耐える。
「くけけ! この程度かぁ! ミースよぉ!!」
卑怯にも木剣の中に鉄心を仕込んでいたオーロフの攻撃は、必要以上に重かった。
本来の形なら一撃離脱なのだが、オーロフはバシバシと乱打を続ける。
ミースはひたすら耐え、呟いた。
「なるほど、たしかに我流より王国剣術の方が防御をしやすいな……」
「なーにブツブツ言ってるんだ! 念仏でも唱えてんのか!?」
「ありがとう、オーロフ。やっぱり実際に戦うと、身体が覚えてくれるみたいだ」
「……は?」
オーロフは違和感を覚えた。
なぜ、普通の木剣のミースが、鉄心入りの木剣の攻撃を受けてへし折られないのか。
それは木剣+99にしたからというイカサマなどではない。
攻撃力1の木剣に魔力を流して強化しているからだ。
冒険者なら誰しも魔力で身体や武具を強化しているのだが、短期間で相当の経験を積んでいるミースは、備わっている才能と合わせて無意識に超強化しているのだ。
「ここでタイミング良く我流に切り替えて――」
攻撃をするというのは同時に隙が出来るという事でもある。
その瞬間を狙って、ミースは形を王国剣術から我流にチェンジした。
一瞬で強固な岩石から、鋭い刃になったように錯覚する程だ。
「今ッ!!」
「ひっ!?」
ミースは大きく踏み込んで距離を詰め、ただの木剣で鉄心入り木剣を横薙ぎにする。
オーロフの鉄心入り木剣は簡単に砕かれ、中の金属が露出してしまった。
ミースは、尻餅を付いたオーロフの首元に木剣を突き付けながら、『あれ?』と気が付いた。
しかし、それを咎めようとはしなかった。
「冒険者なら、相手がどんな力を隠し持っているのかわからないしね。ありがとう、勉強になったよ、オーロフ」
「ック!! 舐っめやがって!!!! 模擬戦を運良く勝っただけで調子に乗るな!! クラス対抗のダンジョン攻略では覚えておけよ!」
ミースは手を差し伸べたのだが、それを払いのけられた。
オーロフは鉄心入り木剣を投げ捨てて、どこかへ行ってしまった。
「勝者は小僧ってことだな」
審判をしていたルインがそう宣言をすると、周囲の学生たちが湧き上がった。
「すげぇ! あのオーロフ・ハンマークを簡単に倒しちまった!!」
「ミースお前……平民で実技も微妙だと思ってたけど、本当は凄いんだな……」
「オーロフは偉そうだったからスッとしたよ!」
喝采巻き起こる学生たちに囲まれ、ミースは困惑してしまう。
こういうのは苦手なので、ゼニガーとプラムに助けを求めようとするが――
「ワイらのPTリーダーなら当然や」
「そうね、ミースはもっともっと強くなるわ」
「い、いつから俺がPTリーダーになったのさ!?」
そんないつもの三人のやり取りになってしまったのであった。
これで日常が戻ると思ったが――そこへ一人の男がやってきた。
「貴様がミースか?」
「は、はい」
「我はリュザック。ヘルメスクラスに所属する者だ」
男――ダークブルーの短く刈り込んだ髪と瞳の青年、リュザック。
ミースと同年代のはずだが、凄まじい威圧感だ。
眉間にシワを寄せ、不機嫌そうに告げる。
「弱い、つまらぬ。もっと自分の力を使いこなすのだ」
「え、あの……?」
いきなり初対面の相手にこう言われてもワケがわからず、ミースは聞き返すしかできない。
横にいたゼニガーは友を馬鹿にされていると思い、一歩前に出た。
「ちょいちょいちょい。あんさん、なんなん? ミースはんが弱いっちゅーなら、さぞリュザックはんは強いんやろ――うっ!?」
「そうだ」
気が付いたらゼニガーは吹き飛ばされていた。
思い当たることといえば、事前にリュザックが人差し指をゼニガーの身体にゆっくり当てただけだ。
「な、なんやこれは……」
ゼニガーは起き上がりながら、攻撃を受けた箇所を手で触って確認した。
特に怪我は無く、衝撃で吹き飛ばされたようだ。
この感覚は以前、ウィル・コンスタギオンにやられたモノに近い。
ゼニガーはリュザックを探すが、すでにその姿は無かった。
「い、いない……。何者や……あいつ……」
「リュザック……たぶんすごく強い……」
ミースも同じようにそれを感じ取っていた。