学校生活
入学式も終わり、ミースたちの学校生活が始まった。
学校生活と言っても普通のものではなく――
「今日はダンジョンのドロップについて授業をします。剣などのドロップした〝加工品〟は、分解したり、溶かしたりして素材だけを意図的に抽出しようとするとどうなるでしょうか? はい、ゼニガー君」
「ワイですか。んーと、〝加工品〟は消滅します。せやからドロップ品の銀の剣があるから言うて、銀を無限に作り出せるっちゅうことやあらへん。まぁ、それとは別に〝素材〟が直接ドロップする物は〝素材〟として使えるために職人は未だにギルド単位で――」
「す、素晴らしい……ゼニガー君はアイテム関連に造詣が深いですね」
このように冒険者に関する授業が大半だ。
広い校庭で剣術に関する実技も行われたりする。
「今回は王国剣術の基礎の構えを行う。ミース君、やってみなさい」
「はい、先生! ……アレ? 難しいな……」
「ギャハハ! 王国剣術の基礎の構えもできないのかよ! 激弱じゃねーか!」
「アハハ、ごめん。我流だから慣れなくて」
そして、同時に魔術も――
「小娘、魔術適性なしで使うのは難しいぞ……」
「で、でも、やってみなくちゃ……!」
「ん~、まぁ物は試しって言うしな。やってみるか」
魔術を担当するルインは、後衛希望の生徒達を引き連れてある場所までやってきた。
それは食堂の奥にある厨房――その竈だった。
「学食のおじちゃん、おばちゃん、ちょっと失礼するぞ~」
「おっ、毎年恒例のだね」
厨房に生徒がゾロゾロ入るというのも異様な光景だが、もう慣れてしまっているらしい。
ルインは火の消えた煤だらけの竈の中を覗き込む。
「んーっと、たぶん平気だな。生徒たち、魔術っていうのはどうやって使うか知ってるか?」
「た、たしか精霊と繋がり、自らの魔力をその属性に変換して操るんですわ……」
没落貴族のセレスティーヌは、少し自信なさげな表情で答えた。
萎縮した空気を和ませるようにルインはニカッと笑う。
「正解。で、最初のステップとして精霊と繋がりを持つというのが必要なんだ。魔力適性ってやつも、精霊との相性を見たり、魔力量や柔軟性を調べたりするモノだぞ」
「ほっ」
セレスティーヌは後衛としてあまり優秀ではないと自覚しているので、胸をなで下ろした。
彼女がガチャンダナ神殿で当てたのはRスキル【魔術師】で、割と平凡なものというのもコンプレックスの原因の一つだ。
「んじゃ、セレスティーヌ。竈に近付いて意識を集中させてみろ」
「は、はい!」
セレスティーヌは言われたとおり、竈に意識を集中させた。
すると、何か暖かいものを感じることができた。
竈の火は完全に消えているはずなのに。
竈=火というイメージからの錯覚かもしれないと思ったが、たしかに感じる何かがある。
「それが精霊との繋がりだ。その繋がりを感覚として掴んでから、火の魔術を――」
「火の精霊よ、その熱き力を我に授け給え……ファイア」
セレスティーヌの呪文に反応して、手の平から小さな炎が出現した。
ルインはそれを慌てて注意する。
「ばっか!? 慣れない内は室内で試すな!」
「す、すみません!」
すぐに消される炎。
ギャラリーと化した学食の職員は『あるある』と優しく見守っていた。
毎年一人くらいはいるらしい。
いつの間にか傍らに水の入ったバケツが用意してある。
ちなみに生活魔術を使って調理に支障が無いように、消毒・防塵サポートなども完備だ。
「ったく。おまえらも全員、火の精霊を感じておけ。その後に外で生活魔術ファイアの授業だ。あとは後日、同じように川で水の精霊、高台で風の精霊、岩場で土の精霊、教会で回復の精霊を巡っていくことになる」
「は~い」
生徒達は順番に並んで、竈の精霊を感じ取っていく。
そして、プラムの番がやってきたのだが――
「……何も感じられない」
***
「ん~、やっぱりアレだな……モグモグ……」
「ルイン先生、食べながら話さないで」
ミース、ゼニガー、プラム、ルインの四人はお昼に学食を摂っていた。
今日のオススメは、ケーム川で捕れたサーモン定食だ。
脂が乗っていて、とても美味しい。
あと地元なので安い。
日々、価格を努力している学食には重要なことだ。
「はっきり言う。プラムには魔術の才能がないぞ」
「で、でもルイン先生! 私は【賢者】スキルもあるし……!」
「そりゃ、魔術が使えるようになったあとのスキルだ。こうまで精霊に嫌われてちゃ、魔術は使えないだろう。恐ろしい程の嫌われようだけど、何か心辺りはあるか?」
そういえば――とプラムは思い出した。
「たしか、お母様が昔……精霊の宝を盗み出したとかなんとか……」
「うっわ、最悪だなそれ。末代まで精霊に呪われるぞ」
「そんな!? なんとかならないんですか!?」
ルインは考え込んでしまう。
それを横で聞いていたゼニガーとミースが意見を言う。
「いっそのこと、前衛になるっちゅうんはどないや?」
「そ、それだったら俺が武器を作って……」
プラムはギロリと睨み付ける。
「ダメ! PTバランスもあるし、ミースを助けるには後衛がいいの!」
どうやらプラムの意志は硬いようだ。
たしかにルインはPTから抜けてしまう予定なので、現状はミースとゼニガーの前衛二人なのだ。
簡単なダンジョンならともかく、手強い相手と戦うとなると心もとない。
そんな中、ルインはオススメ定食を完食してから重い口を開いた。
「精霊……精霊か。仕方がねぇ、ダメ元であの理事長――メラニに相談してみるか」
「あのちびっちゃい理事長さん?」
「ああ見えても、アレは神と精霊の血も混じってるからな。そっち方面なら頼りになる」
***
さっそく、ルインに連れられて理事長室にやってきたプラム。
理事長メラニからの第一声は、あまりにもあっさりとしていた。
「精霊との繋がり、持たせられますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。ただし、ソロダンジョンで何百回も死ぬことになると思いますが」
「……へ?」
言葉の意味が理解できないプラムと、連れて来たことを後悔し始めたルインであった。
お願い、死なないでプラム!
あんたが今ここで倒れたら、実は作中でダンジョン死亡しているメインメンバーはプラムだけなのに、さらにプラムだけ死にまくるというヒロインらしからぬ処遇になっちゃう。
まだピー○姫系ヒロインのライフは残っている。
ここを耐えれば、お清楚デュエルに勝てるんだから!