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品薄の制服を適正価格で店に売りまくる

「るんるる~ん♪」


 ダンジョンから転移陣で脱出した四人は、成長の町ツヴォーデンに戻ってきていた。

 何やらプラムはスキップでご機嫌だ。


「ねぇねぇ、見てみて。似合う?」

「う、うん。似合うよ」

「可愛い?」

「た、たぶん……!」


 女子とのコミュニケーションに慣れていないミースのぎこちない受け答えだったが、プラムはご満悦のようだ。

 それもそのはず。

 ボスからドロップしたアクセサリー――


【耐雷のリボン:雷属性に対して耐性を得ることができるリボン】


 これをミースから送られたのだから。

 プラムはそれを頭に装備して最大級の笑顔になっている。

 ミースはよくわからず、同姓のゼニガーにこっそりと話しかける。


「ね、ねぇゼニガー……あの装備、そんなに性能良くないように思うんだけど……」

「女子はオシャレやからなぁ。野郎の冒険者なんて無骨な装備ばかりなのに」

「それに、本当にプラムに渡しちゃってよかったの? ゼニガーだって耐性装備は……」

「すでに頭にサークレットを装備しとるわ! 一緒に付けたら頭がワチャワチャしてまうわ! それにドロップ品は大体がミースはんのおかげなんやから、分配はミースはんが決めてええって前から言っとる」

「うーん、そう言われても……」

「律儀やなぁ。このPTはそういうのを気にせんでええて。欲しい物があったときは、ちゃんと言うさかい」

「わかった」


 そんな話をしていると、いつの間にか以前やってきた防具店が並ぶ通りにいた。

 相変わらず制服が品切れで、転売しているあの貴族二人組が幅を利かせていた。


「どうだー!? 大人気で手に入らない制服を、なんと! たったの定価十倍でお売りしまーす! ぎゃはは! タダ見してないで欲しいなら買え買え!」

「う、うぅ……さすがに欲しくても十倍は……」

「はぁ~!? 十倍でも安いってもんだぜ? オレらはこれを手に入れる努力をしたからなぁ!」


 手に入れる努力とは、店が一人一着としていたところを、人を雇った人海戦術を使って大量購入したのだ。

 貴族二人組本人は遊んでいる間に、雇った人間が制服を買い占め、それを転売品として売りさばく。

 それでも学生は制服を購入しないと、私服で冒険者学校に通うことになり、大変困る事になるのだ。


「ね、ねぇ……わたくしには普通の値段で売ってくださいますよね……? い、一緒にダンジョンに潜った仲ですわ……」

「はぁ~~~!? テメェだけ平民に助けられて死ななかったじゃねーか! それに惨めな没落貴族なんて、最初っからカーストが違うんだよ! ボロ布でも着て冒険者学校に登校してな!」

「そ、そんな……ひどい……」


 貴族二人組に追い払われたのは、これも見覚えがある少女だった。

 少し離れた場所で見ていたゼニガーは、横にいたミースに話しかける。


「ミースはん、たしかあの子は――」

「青銅ゴーレムのダンジョンで助けた子だね」


 ミースはさすがに可哀想に思えてしまった。


「そういえば、余分に制服があるから、あの子にあげようかな……」

「んー、ちょい待ち。たぶんミースはんは制服がなくて困ってる子全員に渡すオチになると思うわ。でも、それだと真っ当に商売をしている防具屋さんたちにも影響が出るからなぁ……。そこで……ちょいとワイに任せてもらえんか?」

「うん、わかった。ゼニガーが欲しいというのなら余分な制服を全部渡すよ」


 商人特有の悪い笑みをしたゼニガーは信じられる。

 ミースは数十着の各種制服をゼニガーに手渡したのであった。




 そして数十分後――


「な、なんでこんなに制服の在庫が!?」

「値崩れして転売品が売れねぇぇえ!?」


 転売貴族二人組は在庫を抱えるも見向きもされなかった。

 それもそのはず、ゼニガーが周囲の防具屋に制服を大量に流したからだ。

 最初は二人組もそれを人海戦術で買い取ろうとしたのだが、さすがに在庫を抱えたまま数十着は買い取れない。

 あれよあれよという間に欲しがっていた人間が通常ルートで手に入れ、そこからは二人組の転売品は見向きもされなかった。


「ち、ちくしょう! 普通の価格にしても売れねぇ……! なんでだ!」


 地団駄を踏む二人組のところにゼニガーが近付き、ほくそ笑んだ。


「そりゃあ、信用の違いや。ちゃんとした店や冒険者は信用を一から積み上げ続けるから、買う方も安心してるんや。それが転売なんてしてヘイトを上げまくった相手なんて、信用0に決まっとるやん。不良品掴まされたらたまったもんやないからなぁ」

「なっ!? テメェは平民の仲間!!」

「平民も貴族も商売には関係あらへん。赤字覚悟で半額くらいにしたら売れるんとちゃうん? わはは!」

「こ、この野郎……冒険者学校で一緒になったら、このオーロフ・ハンマーク様の名を覚えていろよ!」

「ゼニにならん相手なんてすぐに忘れてしまうわ~」


 ミースはそのやり取りを見ていたが、ゼニガーめちゃくちゃ煽っているなと思ってしまった。

 何か転売に関して商人として思うところがあったのだろう。

 そんな苦笑いを浮かべていると、横から袖を引っ張られた。

 それは制服を買えずに困っていた少女だ。


「……あ、あの……ミースさん。お久しぶりでございますわ」

「あ、うん。青銅ゴーレムのダンジョンぶりだね」


 少女は後衛の制服を着ている。

 どうやら無事に購入できたようだ。


「あの大量の制服を売りに出したのはミースさんですわよね……?」

「さぁ、どうだろう?」


 ドロップ率アップのことを言うと面倒なことになりそうなのではぐらかしたのだが、ミースはウソが下手なので一瞬で感付かれてしまった。

 ちなみにミース個人では無く、PTだとも弁解したかった。


「では、その制服を売りに出してくれた謎の人物さんにお礼を申し上げますわ。ありがとう……。いくら落ちぶれても、貴族としてちゃんとした格好でいたかったから……衣服というのはとても大事なのですわ……」

「そ、そうなんだ……」

「ええ、とても……」


 そう言うと少女は、ミースの手の甲にキスをしてきた。

 革手袋越しだがドキッとなる。


「わたくしの名前はセレスティーヌ・シャウエンブルク。一緒のクラスになれることを願いますわ。謎の人物さん」


 少女――セレスティーヌは、ミースの背後にいたポカンとした表情のプラムに笑顔を送ったあと、長い髪と大きな胸を揺らしながらどこかへ立ち去っていった。


「き、貴族式の挨拶なのかな……? プラム、知ってる……?」

「知らない……!」


 ボスモンスター以上の恐ろしい眼力を込めて睨まれたので、たぶんやらかしたのだろうとミースは反省した。




 ***




 ミースが立ち去ったあと、転売をしていたオーロフはまだ粘っていた。

 一緒にいた貴族の少女は飽きていなくなっているので一人だ。

 転売品の制服は店の九割価格にしているが一着も売れない。


「く、くそぉ! オレの小遣いが減っちまうじゃねーか!」

「おい、そこの者。それは冒険者学校の制服か?」


 そこに青い短髪の青年が立ち寄って興味を示した。


「そこの者……って、オレのことか? ああ、そうだ。冒険者学校の制服だぜ! 安くしとくから買っとけよ!」

「ふぅ~む……」


 青年は制服を売っている店と、雑に広げているオーロフの転売品を見比べた。

 オーロフはそれが癇に障った。


「な、なんだよ。物は一緒だろう……?」

「いやぁ、売っている場所がな。店ではなくて逆に助かったと思ってな」

「な、何を言って……」

「店だと強奪したら――目立ってしまうではないか」


 青年は金を払わずに制服を手に取ろうとしていた。

 もちろんオーロフは黙ってはいない。


「あぁん!? 舐めた真似しやがって、痛ぇ目に遭わせ――」

「下賤の者が、我に触れるな」


 掴み掛かろうとしたオーロフは、目にも止まらぬ早さで殴られた。

 それも拳、蹴りを織り交ぜた複数の連続攻撃だ。

 どれも急所を的確に狙う、殺し慣れた悪魔の所作。


「ごふぁ……!?」


 オーロフは腹を押さえながら白目で倒れてしまったが、痙攣をしているので生きているようだ。


「おや、殺そうと思ったがロールプレイによる制限がかかったか。これがワールドクエストによる契約。我を縛るとは面白いではないか! ふはは!」


 悪魔公爵が化けた青年――リュザック・DD・レートリヒカイトは制服のジャケットをバサッと羽織り、冒険者学校へと向かった。

プラムが魔術を使えなくてよかったな、ミース!!

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