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制服のダンジョンボス

「……この部屋は」

「体育館ってやつだな」


 また教室かと思ったら、ボス部屋は広めに作られていた。

 床の素材は同じく板張りなのだが、黒板や机などが一切無いので運動をするための場所なのだろう。

 その奥でボスらしきモンスターが準備運動をしている。


「アレは……動く制服?」」


 外見は動く制服だが、サイズが少し大きくなっている。

 雑魚モンスターと同じような感じなら楽だと思うが、ボスなので警戒を怠らない。


「ボスの名前……なんだっけかな……たしか聞いたことがあるような気がするぞ……。喉まで出かかっているけど思い出せねぇ」


 ルインがもどかしそうに考え込んでいるが、すでにボス部屋の入り口が閉まっているので、いつ発見されて戦闘が開始されるかわからない。

 それに今回は魔力による防御も使えない非戦闘員のプラムもいるので、なるべく早めに倒してしまいたい。

 前衛二人は武器を構える。


「ボスやから、用心してワイが先に行くでぇ!」

「任せた、ゼニガー!」


 いつもならドスンドスンと鎧の重量を感じさせる足音で走るのだが、布混じりとなった盾の制服+99は身軽なようで移動速度が若干速い。

 ゼニガーは速度を利用した突進で威力を高めつつ、青銅の槍+99で刺突を試みる。


「なっ!?」


 ボスは一瞬にして回避。

 素早く直角に動く奇妙なフットワークを繰り返し、ゼニガーの後ろに回り込んで袖で殴ってきた。

 軽そうな見た目に反して背中にハンマーのような衝撃を受けたゼニガーだったが、強化された防御力のおかげか踏みとどまることができた。


「めっちゃ素早いやん!? コイツ!?」

「あ、思い出した。ボスの名前は〝動きすぎる制服〟だ」

「そんなネタみたいな名前なのに手強いんか!?」


 少し大きめの動く制服――もとい〝動きすぎる制服〟は素早い動きでゼニガーに攻撃を続ける。

 ゼニガーは槍で攻撃するチャンスを見つけられずに、盾で防戦一方だ。

 なぜかルインは魔術を使わずに見ているので、ミースだけが加勢することになった。


「ホーリークルス!」


 出し惜しみ無しで速攻の攻撃スキル。

 しかし、躱された。

 頭部が付いていない分、視線が読みにくい。


(本拠地のときの跳躍侯といい、今日はスピードタイプと縁があるな……!)


 そう内心思いつつも、その瞬きの時間ですら〝動きすぎる制服〟は大きく移動している。

 前衛二人は攻撃を当てられずに翻弄されてしまう。

 一方、後衛の位置に居るルインは相変わらず動かないで、プラムに詰め寄られていた。


「ルイン先生、なんで戦わないんですか!?」

「んー、アタシが死んだら蘇生できないだろ」

「前衛があんなに一生懸命戦っているのに、怖いんですか!?」

「そういうワケじゃないんだがなぁ……」


 ミースとゼニガーが傷付く姿を見て、プラムはつい語気を荒らげてしまう。

 対照的にルインは涼しげな表情だ。


「お、少し遠くで動きが止まったでぇ! チャンスや!」


 ゼニガーの言葉の通り、〝動きすぎる制服〟は距離を離した位置でピタッと止まっている。

 ミースもチャンスだと思い、一気に踏み込んで攻撃スキルを放とうとした。

 だが、ルイン以外は誰も気付いていなかった。

 その止まった動きは力を溜めるモーションだったのだ。

 目に見えるくらいの魔力を発散しながら、踏み込んできたミースを躱して、雷のような速度で突進した。


「なんやて!?」


 ゼニガーに対して強力な多段攻撃を叩き込んだ。

 盾でいなしきれなかった分が致命傷になるレベルでダメージを与えてくる。

 防御が硬い盾役といえど、盾か武器で防がないと即死に近いダメージを食らうのだ。


「やばっ、これ死っ」


 盾が崩れればボス戦は負ける。

 もうダメだと思ったその瞬間、すでに詠唱を終えて効果を高めていた魔術が発動した。


「――ハイ・ヒーリング!」


 大きく傷を癒やす中級回復魔術だ。

 ルインは杖の先端をゼニガーに向けていていた。


「す、すごい……攻撃されている前から回復魔術を唱えていて……」

「長年の勘だ。で、その勘によると――今度はアタシがピンチになるな」

「えっ?」


 チャージした攻撃を出し切った〝動きすぎる制服〟は、身体の向きをルインに変えた。

 頭部は無いのだが、明らかに睨んでいるようだ。


「ヘイトってのは、結局のところ攻撃とかで稼ぎ続けないと、すぐ脆い後衛にいっちまうからな。アタシの死で知れ、生徒共」


〝動きすぎる制服〟は一直線で、回復ヘイトを稼いだルインへと向かって行く。

 ミースとゼニガーはそれを阻止しようとするも間に合わない。

 ルインも重めの中級魔術を唱えたことによって隙が出来ている。

 積みだ――と思えたのだが、それは違った。


「私だって……!!」


 プラムはルインの前に飛び出し、両手を大きく広げた。


「なっ!? 小娘!? 何をやってる!!」

「うぐぇッ!?」


 庇ったプラムは、〝動きすぎる制服〟の強烈な一撃を胴体に食らってしまった。

 プラムは潰れたカエルのような断末魔をあげて壁まで吹き飛び、血を吐きながら倒れた。

 複雑骨折、内臓破裂などにより死亡。

 魔素に変換されて、球体の輝きになってしまった。


「プラム!?」

「……戦闘に集中しろ!」


 プラムの死によって気が動転しそうになったミースだったが、冷静なルインの一言によって引き戻された。


「くっ、こっちを向けや!」


 ようやく追いついたゼニガーは、幸か不幸か背後を向いていた〝動きすぎる制服〟に連続攻撃を命中させた。

 これである程度のヘイトを稼げたはずだ。

 それを確認したルインは、初級土魔術で拘束を試みる。


「アース・バインド!」


 細い蔦が動きすぎる制服を一瞬足止めした。


「ボスには効かない場合もあるが、今回は何とかなったようだな。今だ、たたみ掛けろ!」

「はい! ホーリークルス!」

「ワイのも食らっとけや!」

「ファイア・ランス!」


 剣、槍、魔術による集中攻撃。

〝動きすぎる制服〟はアース・バインドを引き千切ったが、フラつきながら後退する。

 何かを叫んだあと、頭上から雑魚モンスターの〝ノーマル動く制服〟がボタボタと複数落ちてきた。


「ボスによくある、雑魚召喚による時間稼ぎか!」

「よっしゃ! コイツらは戦い慣れとる! 各個撃破していくでぇ!」


 ゼニガーが引きつけ、ミースがそれに斬りかかる。

 すると驚いたことに、以前は時間がかかっていた戦闘も一瞬で片が付いた。


「すぐに倒せる! 新装備のおかげか!」

「この調子でドンドンやったろうやないか!」


 瞬く間に召喚された雑魚を倒し、まだ体力の回復ができていないボスへと直行する。

 するとボスも最後の力を振り絞り、再び強力な一撃のためのチャージを開始した。


「やばっ! またアレが来るでぇ!?」

「……大丈夫、二度目はない」

「せやかて、あんな十剣人の跳躍侯ルーはんみたいな素早さは――」

「違うよ、ゼニガー。俺の目には違って見える」


 ミースは素早さを主体とする二者と戦って気が付いたのだ。

 跳躍侯ルーは移動が見えない。

 移動する兆候などの過程を飛ばして背後に居たのだ。

 それに比べて〝動きすぎる制服〟の場合は速いが見えるし、直線的なコースというのもすでに見切っている。


「だから大丈夫――ホーリークルス!!」


〝動きすぎる制服〟が必殺の一撃を放つとき、ミースも攻撃スキルを放つ。

 直線的な動きで予想できる位置に――だ。

 十字が輝く。

〝動きすぎる制服〟はゼニガーに到達する前に、聖なる炎の刃に斬り割かれた。

 バラバラになりながら燃えて魔素に還り、ドロップアイテムを落としたのであった。

 普段ならすぐにドロップアイテムを確認するのだが、今のミースは違った。


「プラムは大丈夫!?」

「このダンジョンの中なら平気だ。……リザレクション」


 ルインは落ち着いた表情で蘇生魔術を唱え、プラムを復活させた。

 魔素である球体が、人体へと変化する。

 血の跡が残っているプラムは痛々しいが、怪我は治っているようだ。


「プラム! どこも痛くはない!?」

「う、うん。平気……刺激的な体験だったわ……あたっ」


 生き返ったプラムを、ルインは小突いた。


「馬鹿、何で庇ったりなんかした」

「身体がとっさに……」

「そういうのは止めておけ。結果的に何とかなったが、自分の命は自分のために使え。やられた方はたまったもんじゃない」


 口は悪いが、たしかにその通りだと思えてしまった。

 特にレドナに庇われたミースは。


「それにアタシは特殊だからな。本当に庇わなくても平気だぞ」

「わ、わかったわ……」

「あーあ、せっかくの可愛い制服が血だらけだ。素材自体は丈夫で破れたりしてないけど、あとで洗濯しなきゃな。ダンジョン品は手入れがしやすいからこういうときに助かるけど」


 ルインの口調は優しくなり、プラムの身体を色々と確かめてくれている。

 場の空気は少しだけ緩んだが、ミースは申し訳なさそうな表情で話しかけた。


「ごめん、プラム。俺がもっとちゃんとしていれば……」

「そういうの無し! 私だってPTの一員なんだから! ……今はまだ無力だけど……もしかしたら魔術が使えずに、ずっと無力かもしれないという不安もあるけど……」


 そこでミースはようやく気が付いた。

 すでに冒険者として戦えているミースやゼニガーと違って、プラムはまだすべてが〝可能性〟の段階なのだ。

 実際に魔術を覚えて戦えるようになるかもわからない。

 そんな不安をずっと抱えていたのだ。


「実は私、少し魔術を独学で覚えようとしたことがあるけど、全然うまくいかなくて……」

「魔術はちゃんと、先生から習わないと難しいらしいから仕方がないよ」

「でも、さっき殺されて少しだけ吹っ切れた気がする! あんまり可愛くない死に方を見せちゃったけど、実際に戦うのはこうなんだって身体で理解したわ!」


 ダンジョンで死んでも復活はできるが、死という経験は人間に大きなショックを与える。

 ミースもそのことは知っていたので、プラムを心配してしまう。


「だ、大丈夫……? すごく痛そうだったけど……」

「痛かったわよ! 痛かったけど、意外と痛さに限界があって、『あ、こんなもんか』ってなったわ!」

「め、メンタル強い……」


 いきなり戦いに飛び込んだプラムがここまで平常心を保てるのは、天性の冒険者ということかもしれない。

 以前、聖杯のダンジョンを攻略したというプラムの父と血は争えないのだろう。

 冗談を言える雰囲気ではなかったために居心地が悪かったゼニガーは、ようやく普通に話せるとホッとした。


「ワイも盾として反省点はいっぱいあるからなぁ。とっさに【石になる】を上手く使えんかった」


 ゼニガーの切り札であるダンジョンの【石になる】は使うと一定時間動けなくなってしまうので、使いどころが難しいのだ。

 しかも今回、ヘイトの重要性がわかったので、序盤で使ってしまうと後衛にターゲットがいってしまうと予想できた。


「せやから、ミースはんも気を落とさずや。ワイ、プラムはんと一緒に成長していこうや。なんせ、ここは成長の町ツヴォーデンやからな!」

「ああ!」

「そうね!」


 三人の駆け出し冒険者は気合いを込めて、互いに拳を合わせた。

 彼らは小さな一歩踏み出し、町に来て最初のダンジョンを踏破したのであった。

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