ダンジョンを制服する
「それじゃあ、次は盾の制服を狩ろう」
「よっ、待ってました! ミースはん! チュッチュッ愛しとるでぇ~!」
「はいはい」
ミースはゼニガーをスルーしながら、小部屋の中を覗き込んでいく。
すぐに盾持ちの動く制服を発見することができた。
外見的に色はほぼ変わらないが、細かいところに金属プレートの補強が入っていたりして盾役のための制服という感じだ。
ちなみに武器は槍を持っているので距離に気を付けなければならない。
「おーし、釣るぞ。ストーン・アロー!」
PTのリズムと力量がわかってきたのか、ルインは即釣りをした。
冗談っぽく振る舞っていたゼニガーも一瞬で頭を切り替え、小部屋から出てきた動く制服に槍を一撃。
しかし、盾でいなされてしまった。
ゼニガーはすぐ手に持っていた青銅の盾+99を、動く制服に叩き付ける臨機応変な動き。
「すかさず追撃のファイア・アロー!」
動く制服は盾でファイア・アローを防いだ。
どうやら盾は魔術防御も高いようだ。
たぶん、ルインはわざと失敗して見せて、敵の特性を把握させようとしているのだろう。
プラムは離れた場所でこまめにメモを取っていく。
「今や! ミースはん!」
「魔術に気を取られて横ががら空きだ! ホーリークルス!」
これからのことを考えるとスタミナや魔力を温存したいが、硬い盾持ちには決められるときに決めたい。
ミースは懐に潜り込み、攻撃スキルで動く制服を十字に切り裂いた。
深く刃が食い込むと燃え上がったので、銀の剣に付いている火属性に弱いのだろう。
前衛の制服は燃え上がらなかったので、別々の属性が設定されていそうだ。
「よし、倒した!」
「ワイの制服キター!」
魔素に還っていく盾の制服。
ドロップアイテムは、そのままの見た目の制服だった。
【盾の制服・上 防御25 ヘイトアップ極小 防御アップ極大(未達成) ヘイトアップ(未達成) 言語理解(未達成):不思議な布と金属で出来た制服で、少し敵の視線を集める。+99まで強化することによって、盾向けで学生的なスキルが解放される】
「このままじゃ今の装備より弱いから、数が集まるまで持っておくよ」
盾の制服を大収納に回収してから、次の小部屋を覗き込む。
そこにいたのは杖を持った制服だった。
デザイン的にはケープを装備しているので後衛用なのだろう。
「次はプラムのだ」
「わ、私のも良いの……?」
「もちろん!」
「せやで! 将来の賢者様の制服や!」
プラムとしてはまだ一人だけ戦えない状態で非常に申し訳ないと思ったのだが、制服が可愛いので欲望に屈してしまう。
「お、お願いするわ……!」
「んじゃ、釣るぞ。エアー・アロー!」
風が衝撃波となって、動く後衛の制服に当たった。
ゼニガーはその場で待ち構えていたのだが、相手がやってこない。
「なんや?」
ゼニガーは不思議そうに眺めていると、敵が杖からファイア・アローを放ってきた。
それはヘイトを持っているルインの方へと向かう。
「……まずっ!?」
ゼニガーの反応が遅れて、ファイア・アローに盾が届かない。
ルインはやれやれという表情で先読みして魔術を唱えていた。
「レジスト・ファイア」
これは初級火魔術の一種で、火属性を軽減するというものだ。
初級のファイア・アロー程度ならほぼ相殺することができる。
少し手を火傷してしまうかな、と考えながらルインは手の平を前に突き出してファイア・アローを防ごうとしたのだが――
「おんどりゃー!!」
ゼニガーは盾をぶん投げてファイア・アローを吹き飛ばした。
ルインはポカンとしてしまう。
「……お、おいおい。色々と準備をしていたのに台無しにされてしまったぞ。こういうときは放置しても――」
「もう仲間に怪我をさせたくないんや……!」
「……木偶の坊……お前……」
ゼニガーの迫真の表情に、ルインは言葉が出なかった。
――出なかったせいで、盾を失ったゼニガーは遅れてやって来た動く後衛の制服に杖で殴られた。
「ぐほぁっ!?」
「後ろから来てるぞ……と言い遅れた。すま~ん」
「あ、ごめん。俺もとっさのことで立ち止まって見ちゃってた」
「アタシもメモってて言い忘れたわ」
盾を失って杖でボコボコに殴られるゼニガー。
「盾役は盾を持ってるから盾というのであって、盾は投げない方がいいぞ」
「た、盾盾うっさいわ! しばかれて実感しとるわぁ!! いで、いでででで!?」
これ以上ゼニガーが〝童話の亀〟のように杖で叩かれまくるのも可哀想なので、ミースは斬撃を放つ。
「はぁっ!」
動く後衛の制服は防御力が低めだったので数発で倒すことができた。
開幕の魔術さえ気を付ければ狩りやすそうだ。
そんな倒した余韻の中、ルインは人差し指をピッと立てて講義する。
「えーっと、始まりの町には攻撃魔術を使う敵がいなかっただろうけど、次からは考えながら戦うように。ルイン大先生からは以上だぞ~」
「先に言えやー!?」
「ノーヒントでの対処の仕方も授業だぞ」
「ほんまスパルタやな!」
そのゼニガーの言葉の通り、スパルタな狩りが開始された。
目標は297着の制服だ。
さすがに頭がおかしくなりそうな数字だが、倒して行くとドロップ数が1~3からのランダムだと判明したので少しだけ気が楽になった。
それに各制服の属性による弱点などを考えつつ戦ったりして、戦闘の効率を上げていく。
プラムも戦闘に参加出来ないなりに、先に小部屋をマッピングして敵の種類や数などを報告してくれた。
そんなこんなで――
「ぜぇー……はぁー……やったで……やりきったで……」
「だ、ダンジョンってこんなに過酷だったのね……私は戦ってすらいないのに大変なんだけど……」
「ククク……アタシの授業に付いてくるとはやるじゃねーか……」
三人は肩で息をして、倒れ込んでしまっていた。
ただ一人、スタミナオバケのミースを除いて。
「楽しかったし、追加でもうちょっと狩ろう!」
「「「……」」」
無言の抗議がダンジョンで行われた。
結局、数十着分の余分な制服を狩っていたら、最下層のボスまで到達してしまったのであった。
スタミナの残りはたぶん%で
ゼニガー5/100
プラム30/100
ルイン1/100
ミース80/100