制服狩り
四人は成長の町ツヴォーデンへと足を踏み入れた。
町の外から見ていた印象はそのままで、知的な美しさを感じる。
入り口の門から学校がある中心地まで石畳が敷かれていて歩きやすい。
ただ、場所が始まりの町アインシアより北なので肌寒さを感じる。
なるべく早く新しい衣服を手に入れたいところだ。
「う~、さむ。そういえば、入り口の門は冒険者カードを見せずに素通りだったけど平気なの? アインシアでは町に入るのには結構手間取ったけど……」
「そないな感じやったなぁ。しかも素通りだけやなく、衛兵たちが全員出てきて頭を下げとったで……なんやったんや、あれは」
ミースとゼニガーは首を傾げたが、ルインはさも当然のように答えた。
「神殺しの団の馬車だぞ? VIP待遇は当たり前だ」
「そ、そんなにこのギルドって有名だったの……?」
「機密保持のために一般にはあまり広まっていないが、各国が神殺しの団に協力しているからな。こういう門の人間などには知らされている」
「そうなんだ……」
改めてヤバいギルドに入ってしまったなと思った。
そのギルドのトップであるハインリヒの期待に添えるのだろうか。
ミースはつい難しい顔をしてしまう。
それを察したのか、ゼニガーが頭をグシャグシャと撫でてきた。
「まぁ、ダンジョン以外は気軽にいこうやミースはん! 考えすぎても疲れてまうで!」
「……うん、そうだね。ありがとう、ゼニガー。……ところで、今はどこへ向かってるの、ルイン?」
前を行く猫耳少女に話しかけてみた。
ズンズンと先に進んで行くので、この町に来たことがあるのだろう。
「制服狩りだぞ」
「い、いや、制服狩りって……そもそも何?」
「制服を狩る以外にどんな意味があるんだ?」
本当に制服を狩るという意味の言葉らしい。
そこからイメージされるのは、道を歩く学生から制服を剥ぎ取るようなイメージだ。
さすがに冒険者になったばかりで犯罪者になるのはいけない。
「ルイン! ダメだよ! 学生を襲って服を脱がせるなんて!」
「な、なななな!? そんなことするはずないだろ!!」
「いや、でも、制服狩りって……」
「はぁ~……そこから説明が必要か。ほら、丁度良い。この立ち並ぶ防具屋をみてみろ」
周囲の景色は、いつの間にか店が並ぶ商業地区にやってきていた。
右手には、ルインが言うように小規模から中規模の防具屋が並んでいる。
「あ! 防具屋にダンジョン産の制服入荷って書かれた立て札がある!」
「そうだ。冒険者学校の制服は、ダンジョンでドロップしたものなんだ。だから、今からダンジョンに狩りに行くってことさ」
田舎に住んでいたミースからすれば、衣服をダンジョンから調達するというのはあまり常識的では無い。
戦闘で使う防具なら、まだわかるのだが。
しかし、商人を目指すゼニガーとしては別の疑問が浮かんだようだ。
「売ってるなら買ってもええんとちゃうか?」
「買えれば……な。良くみてみろ」
「あ~……」
制服と書かれた張り紙の下に、売り切れのスタンプが押してあった。
「この入学の時期はみんな駆け込みで買っていくからな。入荷したら取り合いだぞ。そんなのを待つよりも、アタシたちは自分で取りに行った方が早いだろう」
「せやな~、ミースのスキルもあるし」
店先にできた行列が、売り切れの知らせで解散していくところが見えた。
どうやらかなり熾烈な競争らしい。
そんな横で、身なりの良い少年と少女のコンビが人海戦術を使って購入したばかりの制服をどっさりと路上に広げ、呼び込みを開始していた。
「制服売るぜ~! 早い者勝ちだ~!」
その声を聞いて入学生たちが近付いて行くのだが、価格を見てトボトボと去って行く。
どうやら店で購入した金額の数倍で転売しているようだ。
「あれ? どこかで見たことある顔のような……」
よく見ると、始まりの町アインシアの〝青銅ゴーレムのダンジョン〟でボスに倒されていた貴族の少年少女だと思い出した。
家が貴族なのにこういうことをしているというのは、ただの優越感と遊ぶ金欲しさなのだろう。
「この時期は、ああいう奴らも出てくる」
「物を売る人間として怒りを覚えてまうでぇ……!」
「うん、あんなのからは買いたくない。自分たちでダンジョンへ行こう」
ミースたちは制服狩りのためにダンジョンへと向かったのであった。