成長の町ツヴォーデン
隣の座席に腰掛けているゼニガーがグルグル目で話しかけてきた。
「あかん、本拠地での情報量が多すぎてこんがらがってしもうたわ……」
ミース、ゼニガー、プラム、それとルインの四人は本拠地から外へ転移して、そこから用意された馬車に乗って移動をしていた。
「うーん、たしかに俺もちょっと整理したいかな……つまり要点をまとめると――」
1、神殺しの団は巨大なギルドで、そのトップには十剣人という恐ろしく強いメンバーが揃っている。
2、そのメンバーたちはワールドクエストと呼ばれる神からのガチャをこなしている。
3、ミースは本拠地にある大きなエーテルコアを強化していきレドナを生き返らせることが目的。
4、冒険者学校へ行くことになった。
「ちょちょちょい、待つんや。3までは何とか理解したで。けどなぁ、4の冒険者学校へ行くことになったっていうのは飛びすぎちゃうんか?」
ゼニガーがツッコミを入れてくる。
たしかに繋がり的に一気に飛んでいる気がする。
それをルインが、死ぬほど不機嫌そうにしながらジト目で割り込んできた。
「はぁ~~~? そんなのあんたたちがひよっこだから、冒険者学校で下地を作ってこいってハインリヒ様の崇高なるお考えだろ~……。足りないスキルレベルも上がるかもしれねーしよぉ~」
「る、ルイン、怒ってる?」
「ぜんっぜん怒ってないぞ……まったくもってなぁ……!!」
「ひえっ」
今にも殴りかかってきそうな気配がうかがえる。
たぶん原因となったハインリヒとルインによる、出発時の会話を思い出す。
『ルイン、キミはミースたちに付いていってあげなさい』
『えっ!? もしかして、その言い方だとハインリヒ様と別れてですか!?』
『うん』
『ど……どうしてですかぁぁぁあああ!? もしかしてアタシのことをお嫌いに!?』
『そうじゃないよ、彼らには魔術を教える存在が必要だと思ったからさ』
『そ、それなら中途半端に使えるアタシよりも、十剣人の賢王ナバラ様の方が……』
『ナバラは魔術じゃなくて、他者が真似できない魔法の領域だからね。感覚派すぎるし他者に教えるのには向いてないんだよ』
『そんなぁぁぁあハインリヒ様と別れたくないですぅぅぅうう! もし、アタシがいない間にハインリヒ様に何かあったらどうするんですかぁぁぁああ!!』
『しばらくは本拠地で机仕事の予定だから平気だよ。それに……僕が一番信頼できる魔術師はキミなんだ』
『い、一番信頼できる……アタシが……』
『それじゃあ、冒険者学校の理事長に話を通して教師枠を取ってるから、よろしく~』
そうやって丸め込まれていた。
ハインリヒは悪い大人だという意味が1000%理解できた気がする。
ルインを見ていると色々と顔に出てしまいそうなので、一緒に馬車に乗っているプラムに話しかけることにした。
「そ、そういえばプラムは【賢者】のスキルガチャを当ててたよね。魔術を本格的に習ったらすごいことになりそう」
「……うん」
何やらプラムは元気がなかった。
本拠地でもそうだったのだが、特に魔術の話になってからは口数が減っている。
ミースは気になって理由を聞こうとしたのだが――
「お、成長の町ツヴォーデンが見えてきたでぇ!」
窓から外を覗くゼニガーの声でかき消された。
町には興味があったのでミースも景色を楽しむ事にした。
「わぁ、始まりの町アインシアより大きいね」
遠目からでも高い塔がいくつも立っているのが見えた。
それを中心に様々な建築物が広がっている。
印象としては、美しくも格式高く、落ち着いた雰囲気という感じだろうか。
町の外側はΩ形の川に囲まれており、それが海へと流れ込んでいるようだ。
「じーちゃんから聞いた話やと、最初に小さな学校があった土地らしいんや。その学校が多くの優秀な生徒を輩出して大きくなり、そこを中心に町が広がったんやと」
「なるほど、それで成長の町と言われてるんだね」
「一説には、名物のサーモンが成長して戻ってくるからとも言われとるな」
ミースは、そういえば始まりの町アインシアの酒場で、ここが名産のサーモンを食べたなと思い出した。
あれは脂が乗って美味しかった。
「お、今サーモンのことを思い出してたやろ!」
「えっ!? なんでわかったのさ!?」
「ミースはんは顔に出るからなぁ~。町に着いたらまず食事でも――」
いや、とルインが話を遮った。
そして、真剣な顔をして言った。
「食事も大事だが、まずは制服狩りだぞ」
「……制服……狩り……?」