幕間 自動人形は生身の夢を見るか
(時間軸は書籍版一巻中辺りを想定しています)
「突然ですが、マスターミースにドキドキされたいであります!」
「ちょっとレドナ!? 突然すぎない!?」
レドナはミースと二人っきりの部屋で、大真面目にそんなことを言い始めた。
これには特に深くない理由があった。
「クルーゼニガーが『生身の女の子なら、ミースもドキドキするんとちゃうん?』とか言ってきたであります! それを試してみたいであります!」
「いやいやいや、ちょっと待って……そもそもなんで俺をドキドキさせたいの!?」
「当機の魅力不足か、それとも生身なら魅力を感じてくれるかどうか! 検証したいであります!」
「レドナが完全に暴走している……ゼニガーの奴……面白半分でなんてことを……」
ドアの側を塞がれているので、大魔王……もといレドナからは逃げられない。
レドナはいつもの赤いドレスを脱ぎ始めた。
「か、覚悟は決まっていたはずなのに恥ずかしいであります……!」
赤面しつつ脱ぐという行為に、さすがにレドナも羞恥心を覚えて頬を染めてしまう。
しかし、ミースはいつもと変わらぬ感じだ。
決してこういう雰囲気には呑まれない。
「えーっと……恥ずかしいならこれで終わりにした方が……」
レドナの身体は自動人形なので、脱いで裸になっても人間とは違う。
普通にご家庭にあるおままごと用の人形のようなボディだ。
ミースはそれに対して、特にやましいことは感じない。
「やはりこのボディではダメでありますか……しかし、ゼニガーのアイディアを使えば!」
「えっ!?」
レドナは長い髪をうまく使って、胸の部分を隠してみた。
すると、それは人形の身体であっても、見えていない部分は人形の身体ではない可能性を秘めることになる。
ゼニガーが小一時間、熱く提唱していた汚いシュレディンガーの猫理論だ。
「ウ、ウワァ……ドキドキスルナァ~……」
「棒読みでありますか!?」
どうやらミースは、ゼニガーとは感性が違うらしい。
レドナは生まれて初めて、女性としての敗北感で悔しがった。
それはもうCPUが沸騰するほどである。
「当機にはまだ魅力という機能が足りないでありますか……!? く、こんなことでは赤龍所属自律型ZYXとして面目が立ちません! 羞恥心で自爆してしまいそうであります!!」
「えぇ……そこでそんな重い言葉が出てくるの……」
「では、最終手段……赤龍の全権限を使用して、生身のボディを手に入れるであります……」
「……えぇ?」
ミースに少し呆れられてきたが、レドナとしては手段を選んでいられない。
様々なプロセスを経て、とても特殊でふんわりとした方法で身体を生身に変化させた。
赤龍とのリンクが切れている今、現実ではありえない状態だ。
「どうですか! 見てください! 不思議な光で隠さないといけないようなボディになったであります!!」
「……」
人間と同じような身体になったレドナの裸を見て、ミースは固まっていた。
「ま、マスターミース……どうでありますか!? ドキドキでありますか!?」
「……ピーガガガガガ」
「……マスターミース?」
ミースは固まっている――というより、フリーズしていた。
表面のテクスチャが剥がれ、身体が小刻みに揺れている。
「えーっと……エラーが出たであります」
***
現実世界のレドナがパチッと目を開けた。
自分の身体に触れて、ドレスの上からでも自動人形の身体だとわかる。
「やっぱり夢――もといシミュレーションでは限界がありますな~……」
ゼニガーから変なことを吹き込まれたところまでは現実だ。
そこから先、色々とミースに対して聞いてみたかったのだが、とてもそんな勇気が出なかったので人間でいう夢で試していたのだ。
「うーん、途中まではそれっぽいマスターミースの反応でしたが、最後の部分はデータ不足でありますな……」
レドナは、ミースが女性の裸を見てどんな反応をするのかというのを学習していない。
検証データすら少なく、予想すら不可能なのだ。
そこで、やっぱり現実の本人に聞くのが一番ということで、部屋で寝ているミースを起こした。
「マスターミース、聞きたいことがあります」
「ん……おはようレドナ……なんだい?」
「異性の裸を見たら、どういうリアクションをするでありますか?」
「えーっと……突然なんだろう。そんなに真剣に質問されたら答えてあげたいけど、具体的なイメージが湧かなくて……」
もしかして、そもそもミースは異性の裸すら見たことないのではという考えにいたった。
そこで具体的な人間の例を出してみる。
「マスターミースがよく話す、プラムミント・アインツェルネの裸を見てしまったとイメージしたら、どうでありますか?」
「えっ!? そ、そそそそそれは!?」
「なるほど、なるほど……学習完了であります!」
レドナは満足げに去って行った。
「な、なんだったんだ……」
残されたミースは複雑そうな表情ながら、とりあえず後でゼニガーを問い詰めようと決めたのであった。
新連載が始まりました!
『現実世界でアバターまとって無双します ~モンスターが出現する過酷な世界になったけど、どうやらアバターをそのまま使えるらしく、廃ゲーマーだった俺は配信されて謎の最強存在としてバズってしまう~』
下の方のリンクから飛べるようになっているので、読みに来ていただけると嬉しいです!
できれば初動という超重要なこのタイミングで、あなたの貴重なポイントを入れてくれると助かります<(_ _)>






