幕間 シン・自動腹ぺこ人形
シリアス続きだったので、溜めていたゲージを解放しました。
レドナは慰労会が始まってすぐ、会場でミースにキメ顔で告げた。
「マスターミース、高度な戦いのあとには高度なメンテが必要なのであります。失礼ながら席を外させて頂きます」
「うん、わかったよ」
「では、失礼するであります」
颯爽とモデル歩きでミースから離れて――……直後に一瞬で表情が崩れた。
「めっっっっっっちゃ……お腹が減ったであります!!」
それはレドナにとって予想外の出来事だった。
エーテル・コアが修復されて、赤龍とのリンクも回復して万全のはずだったのだが、ミースの力が予想外に強すぎたのだ。
そのおかげで蓄えていたエネルギーが底を突き、再びお約束の空腹感に襲われているというわけである。
「さすがに格好良く復活した直後に、マスターミースにお腹グゥグゥを知られるのは無様すぎるであります……。ここは密かに食糧を摂取してエネルギーに変換……ちなみに変換効率が爆上がりしたので、食事をする意味も大きく……ごはんはエネルギー……ごはんはすごいであります……」
そんなわけのわからないことをブツブツ言いながら、ミースから見えない会場端まで移動した。
そこで手当たり次第に用意されていた料理を食べまくるも、まだまだ足りない気がする。
あと、地味に周囲がざわついて視線が集まってきていた。
そこからスーパー量子コンピューターを凌駕する高性能頭脳が導き出した答えは――
「厨房で食うであります」
供給元を攻めるというZYXの宇宙軍戦略的に正しい行動だった。
お腹を押さえながら血走った眼で厨房にやってきたレドナ。
幸いなことに人がいないタイミングだった。
きっと料理を作り終えて、シェフたちも慰労会に参加しているのだろう。
「料理人さん、いつもご苦労様であります。それはそれとして、ここにある物を食い尽くす」
料理人に感謝をしつつ、食い荒らす。
まさに外道の行動だった。
今の腹ぺこ自動人形となった彼女の頭は空っぽで、倫理観など入ってはいない。
たとえアシモフのロボット三原則であっても縛ることはできないだろう。
「宇宙中の食材に感謝を込めて……いただきます!!」
パンッと拝むように手を合わせてから食事を開始しようと思ったところで気が付いた。
「……なんで材料しかないでありますか?」
ここは厨房、料理がそのままあるわけではない。
きょとんとしていたレドナも、しばらくしてからそれに気が付いた。
「……よし、せっかくだから当機が料理を作って、それを自分で食べるであります! レドナちゃん三分クッキング、提供は急に神殺しの団でお送りするであります!」
謎の機能で軽快なBGMを流しつつ、レドナによる調理が開始された。
「宇宙時代の料理と言えばこれ! 何かよくわからないカラフルなペーストであります!」
レドナはキョロキョロと周囲を見て、食材になりそうなものをサーチした。
「ピピピピ……発見であります。ちなみにピピピピというのは特に意味なく言ってみただけなので。さて、食材は緑色……これは緑色のペーストを作れるでありますな!」
見つかった材料はトマトのヘタ、ブロッコリーの茎、ナスのヘタ、キャベツの芯、ピーマンの種、キウイフルーツの皮などだ。
「この〝箱〟には豊富な食材が入っているであります! 食材の宝石箱や~! ……おっと、クルーゼニガーの口癖が移ってしまった」
これで材料は揃った。
そして、次に探すべきものを思い出した。
「調理道具が必要でありますな。調理道具……包丁……使ったことがない。鍋……使ったことがない。フライパン、フライ返し、コンロ……。そんな……ZYXに使えるわけないでありますよ! 当機にはできっこないよ! 赤龍ママ!」
『調理するなら早くしろ、でなければ帰れ……レドナ』そう聞こえた気がしたが、それは自分で言っていただけだった。
「わかったよ、赤龍ママ……当機、やるよ!」
レドナは覚悟を決めて、一世一代の勝負に出ることにした。
「機能解放――〝流星弓〟! これが……当機が使える調理道具であります!!」
厨房に凄まじい輝きが満ちた。
何だかんだで料理が完成した。
出来上がったばかりのホッカホカ緑色の謎ペーストを味見してみる。
「モグ……モグモグ……。なるほど、ディストピアな場所で、ディストピアな当機が、ディストピアな兵装で、ディストピアな組織の厨房で作った逸品……とてもディストピアな美味しさであります……!」
これはいける! と――なり、他にもカラフルな原色のピンク、青、紫を作って、慰労会に持ち込んで振る舞った。
この日、神殺しの団史上最大の被害を出す食中毒事件まで発展したという。
それから厨房のゴミ箱には『漁るの禁止』と注意書きがされるようになった。
もしこの範囲が本になったら、これが巻末に入ってしまうのか……? と心配になる作者タック。