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<第三章完結>親ガチャ失敗したけどスキルガチャでフェス限定【装備成長】を引き当て大逆転  作者: タック
第三章(3) たった一つの想い出捨てて、過去に戻ってやり直し
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第三章エピローグ 勝利のあと

 蟲のヴィアラスカを倒したあと、ささやかながら急遽本拠地で慰労会が行われた。

 関係者たちが集まり、そこでミースはこれまでのことを説明する。


「そ、そんな……跳躍侯ちゃんが……」


 泣き崩れる者。


「私がもっと強ければ……!!」


 悔やむ者。


「苦労をかけたのぉ。ミース、よくやってくれた……」


 称賛を送る者。

 十剣人でもそれぞれだった。

 記憶を失ったルーは、ミースと手を繋いでいるが何のことかわからなそうにポカンとしている。


「ルーはワシらが預かることにしよう」


 老練伯アルヌールが申し出たのだが、ミースは真っ直ぐな眼で質問をした。


「また戦わせるのですか……?」

「いんや、記憶がない者など足手まといじゃ。もうコマとして使えぬ。まぁ、希少な風竜人として観察対象にするくらいかもなぁ」

「そんな言い方……ッ!」


 ミースは怒りに身を任せそうになったが、目の前の老人がとても悲しそうな眼をして身を震わせていたのに気が付いた。


「子どもなぞ、本当は過酷な戦いに身を置かず、ずっと足手まといのままでいるのがいい……ワシはそう思う」

「……すみません。アルヌールさんの気も知らずに……」

「いや、いいんじゃ。ワシは卑怯で残忍な老練伯。今だけ都合良く優しさを見せるなどお門違い……。これから役立たずで希少な風竜人の子どもを、ただの観察対象として保護するだけじゃ」


 言い方はひどいが、きちんと神殺しの団(ラグナレク)で守ってくれるのだろう。

 重い空気に困惑するルーを見かねてか、賢王ナバラが割って入ってきた。


「さて、湿っぽい話はルーを退屈させてしまう……。妾たちは勝利した。ささやかな宴の一つを催しても、今だけは許されるであろう! この杯を振り落としの英雄ミース・ミースリーと、跳躍侯ルーに捧げる!」


 その音頭で慰労会が開始された。

 今日だけは十剣人や、大勢の団員たちが集まって英気を養おうとしている。

 ミースはそれを見て思った。


(もう、ここには壊滅してしまった神殺しの団(ラグナレク)という事実はない……)


 もし悪魔が勝てば人界が滅びるという世界線を思い出しながらも、同時にこれから世界を守っていくんだという実感が湧く。

 真に知れた気がした、平和を守るという意味。


「ルーさん、俺一人でもやっていくよ」


 ミースが杯に注がれていた葡萄ジュースをグイッと飲み干したところに、ゼニガーとプラムがやってきた。


「いや、俺は一人じゃないな」

「急にどないしたん?」

「あはは、ごめん。独り言」

「そっかぁ。なんや、えらい苦労をしとったらしいなぁ」

「ミース? 怪我はない? 大丈夫? 何度もループして、しかも十年も……」


 色々と察してくれているゼニガーと、物凄く心配をしてくれているプラム。

 ミースは二人に答えながら笑顔を見せる。


「うん、平気。大変な一日だったけど、二人が俺を叱ってくれたから吹っ切れることができたよ」

「ワイらがミースはんを叱る……?」

「どの世界線でも、いつでも二人は大切な存在なんだなって思い知らされたよ」

「み、ミース……私のことを大切な存在だなんて……」

「いや、プラムはん。『二人は』って言っとるで? たぶん妄想しとるような意味とはちゃうかと……」


 プラムはゼニガーの言葉をスルーしつつ、ホワホワと幸せそうな表情だ。

 それを横で見ていたルーは『?』を浮かべながら首を傾げてしまっていた。


「ルーはんには、まだちょっと早いかもなぁ」

「そーなんだ~。ゼニガーおっとな~」

「ふんっ、ゼニガーは子どもよ、子ども! ルーちゃんはこんな奴の言うことなんて聞いちゃダメなんだからね!」

「プラム、なんだかこわーい」


 ルーと二人が親しげに話しているのだが、どうやら森の中で待っている間に仲良くなったらしい。

 そう考えると、この世界線ではミースよりも、ルーと顔を合わせている時間が長そうだ。


「ルーちゃん、ミースを救ってくれてありがとう」

「ん? よくわかんない」

「わからんかぁ。でも、感謝されときぃ。ワイも感謝しとる」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ――」


 ミースは、十年間一緒に過ごしたはずのルーを見ると少し悲しくなってしまう。

 ルーであって、あのルーではないのだ。

 いっそのこと、自分と関わったから記憶が失われてしまったとも考えてしまう。

 一人の少女を失ってしまった重みは途方もなく大きい。


(そうだよな……俺なんかより、他の人と仲良くしていった方がいいに決まっている……。そっちの方が幸せになれるだろう……)


 ミースはそう思い、ルーの手を離して立ち去ろうとした。

 しかし、ルーはピョンッと背中に飛びついてきた。


「じゃあ――わたし……じゃなくて、ルーは……ミースに感謝されたい! ルーに感謝しろ~! ザコミース(・・・・・)~!」

「……ルー……さん?」

「ありゃ、ザコってなんだろ……つい言っちゃった」


 ミースはその場でうずくまり、耐えられなくなって静かに泣いてしまった。


「あ、ごめん。怒っちゃった? ミース~?」


 背中側のルーからは何が起こっているのか、わからない状態らしい。

 ミースは声を出すと泣いているのがバレてしまうので、必死に首を横に振った。


「よかった。ルーを救ってくれた、大好きなミースに嫌われたくないもん!」


 それはただ、始めて見た相手で、色々と教えてくれたというだけだろう。

 本当の意味の好意ではない。

 それでも、ミースは十年間一緒にいた相手の面影を見てしまった。


「え、えーっと、ルーちゃん。あっちに美味しそうなフルーツがあったから食べに行きましょう」

「せ、せやな! ただ飯サイコーや!」

「うん! まったねー、ミース~!」


 ミースの状態に気付いた二人が、気を遣ってルーを連れて行ってくれた。

 さすがに何も知らないルーに泣き顔を見せるわけにもいかないので、心底助かったとホッとした。

 涙を拭ってから立ち上がる。


「ルーさん……。ルーさんは、いつでもルーさんだったよ」


 胸の内にある想いを、小さく呟くように言った。




 それから落ち着いたら三人と合流しようと考えていたのだが、レッドエイトと賢王ナバラがやってきた。


「ほれ、レッドエイト。妹を助けてもらった礼を言うのであろう?」

「……む、ぅ……」


 賢王ナバラの後ろから出てきたレッドエイトは居心地の悪そうな表情で固まったあと、まるで人を殺すときのような気迫を放つ。

 ついミースはビクッとしてしまう。


「……」


 しばらく無言で見つめ合い、レッドエイトはサムズアップをした。

 よくわからず、ミースもサムズアップをする。


「うん」


 何か納得してくれたのか、レッドエイトは満足げに去って行ってくれた。


「……なんだったんじゃ」

「さ、さぁ……? あ、賢王ナバラさん。直接話すのは二回目ですね」


 レッドエイトの行動で呆気にとられていたナバラは、咳払いして表情を整えた。


「こほんっ、気を取り直して……。此度は誠に大儀であったぞ。非常に困難な状況の中、ミース、ルーの両名は最大限の努力をして、世界を救ったと言っても過言ではない」

「はい、ルーのおかげです」

「謙遜をするでない。どちらも称えられるようなことをしたのじゃ。――……ところで、十年後の世界で団長はどうなっておった?」


 ミースはまだ十年後の世界の詳細を話していなかった。

 それなのに、賢王ナバラはハインリヒの可能性(・・・)に気付いていたのだろう。


「すみません。全員に話すと不安がられると思い、先に十剣人にだけ報告しようと思っていました」

「すると……やはり団長が敵に回っておったのじゃな」

「……はい。どういう経緯かはわかりません。でも、未来の団長から、今の団長へ言づてを受け取っています。内容は――」

「いや、話すでない。それは団長だけに伝えよ」

「で、でも……」

「賢王からの命令じゃ。それまでは誰にも――もちろん妾にも隠し通せ」

「わかりました……」


 賢王ナバラが言いたいことを察してしまった。

 ハインリヒが自分だけに話すことで意味ある言葉(・・・・・・)になるか、または――神殺しの団(ラグナレク)の中に内通者(・・・)がいる。

 ハインリヒがおかしな様子で寝返っていたというのも、それに何か関係しているかもしれないのだ。

 ミースは賢王ナバラの言葉に従うことにした。

 次にハインリヒと再会したときに何が起こるのかはわからないが、とても重要な役目を任されたのだろう。


「あ、ところで、まだ残りの十剣人の方に挨拶をしていないのですが……」

「残りの……? ああ、吃音王パイ・スターゲイジーのことじゃな」

「はい。まだ一度もお会いしたことがないな~と……」

「ふむ、おかしいのぉ。ミースに会いたがっていたはずじゃが……また部屋に閉じこもってしまったかもしれん」

「そうですか、それではまたの機会に」


 星見で未来を視るという吃音王パイ・スターゲイジー。

 同じ先生に教わった身で、ミースは会うのを楽しみにしていたので残念だった。




 ***




 一方その頃――戦場跡地の片隅で這いずる憐れで極小の存在があった。


「お……オレ様は……死なねぇ……ゲヒャ……ヒャ……」


 それは蟲のヴィアラスカだった。

 今までの巨大さは見る影もなく、小指の先ほどしかないフンコロガシの姿をしている。

 これが彼の本体だった。

 彼は最小最弱の悪魔として生まれ落ち、馬鹿にされ、虫けらのように扱われて生きてきた。

 母親にすら見放された。

 ヴィアラスカは糞を食らいその日を生きてきた。

 憐れ、惨め、嫌悪。

 その小さな身体に穢れた感情が溜まりきった頃、死体を自らの身体として強化できることを知ったのだ。

 大きく、強くなってすべての者を見下してやる――そう心に誓って生きてきた。

 ついには七大悪魔王にまで成り上がって、これからというところだった。

 厄介な人界勢力の神殺しの団(ラグナレク)を潰して手柄を上げられるという大チャンス。


「それなのに……それなのに……あのミースとかいうチビめ……。チクショウ、絶対に踏みつぶして殺してやる……。そのためには〝門〟が閉じる前に魔界へ帰って、また大きくなって……」

「も、もうあなたは帰れませんよ」

「……は?」


 上から迫る巨大な影。

 ヴィアラスカは〝普通の人間〟の足に踏みつぶされていた。


「ふ、踏みつぶして殺すってこういうことなんですかね? あ……、でも大丈夫ですよ。ちゃんと踏んでも死なないと〝視え〟ていましたから」


 踏まれて弱ったヴィアラスカは、ヒョイとつまみ上げられて透明な瓶に閉じ込められた。

 そこから見えたのは辛気くさそうな少女――吃音王パイ・スターゲイジーだった。


「……なんでオレ様の居場所がわかった? 姿も極小、魔力も感知できないほどなのによぉ……」

「さ、最初から〝星見〟でわかっていましたから。これでも十剣人なので……」

「ちっ、十剣人かよ! 報復としてオレ様を殺すのか? 虫けらのようによぉ。小さな奴を嬲り殺すのはサイコーだぜ? ゲヒャヒャ!」

「い、いいえ……。殺すだなんて、そんな恐ろしいことは……」

「あぁん? どういうことだぁ?」

「ひぃっ、圧をかけないでください……」


 極小サイズのヴィアラスカにすら、パイはビクッとしてしまう。

 それを見たヴィアラスカは呆れたようだった。


「けっ、生きられるんならどうでもいい。好きにしな」


 パイはホッとしたあと、卑屈そうな笑顔で独り言を呟いた。


「う~ん。先生の頼みですから〝役目〟を果たしますけど、先が視えていて〝彼ら〟を偽るというのも辛いですね~……」


 パイの眼が神気を帯びた銀色の輝き、遠くの未来を見つめていた。

 それは人ならざるモノの雰囲気を漂わせる。


「て、てめぇ……それは……人か……? いや、そうだ。今考えりゃあのミースってチビも……」

「この世界がどうなるかは~……か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」


 戦場の跡地、太陽が嗤っていた。

本日、書籍版発売です!

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『親ガチャ失敗したけどスキルガチャでフェス限定【装備成長】を引き当て大逆転 2』
著:タック
イラスト:桑島黎音先生

レーベル:ムゲンライトノベルス
ISBN:978-4434357480
発売日:2025年6月2日
価格:1650円

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