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<第三章完結>親ガチャ失敗したけどスキルガチャでフェス限定【装備成長】を引き当て大逆転  作者: タック
第三章(3) たった一つの想い出捨てて、過去に戻ってやり直し
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復活の赤き自動人形

 部屋の中で厳かに佇む巨体。

 片角王はこちらの眼を真っ直ぐ見ると、低く重い声で呟いた。


『戦士よ、よくぞ参った』


 瞳を見た瞬間にすべてを悟ったのだろう。

 片角王は二刀流で構え、同じ戦士として名乗りをあげる。


『吾輩はエンシェント・デーモンの長、片角王』

「俺は新人冒険者のザコミース……いや、振り落としの英雄ミース・ミースリーだッ!! あの世界の想いを背負って戦いにきたッ!!」

『その意気や佳し! 小さき英雄、存分に死合おうぞッ!!』


 剣をぶつける前から、互いの気迫が衝突する。

 両者から発せられた〝力〟が中間地点で爆発し、気流を生んでミースの前髪を揺らす。

 以前のミースならここで躊躇して様子見をしていただろう。

 しかし、今は違う。

 正面から戦うための力がある。

 背中を押してくれる彼女がいる。

 あとは漢二人が牙をぶつけ合うだけだ。


「いくぞッ!! 片角王!」


 風に乗ったかのように疾駆する。

 迷いもなく一直線だ。

 片角王は、ミースの恐ろしいほどの素早さと決断力に目を見張る。


『小さき英雄、貴様強いな! すぐにわかる! だが……ッ!!』


 片角王は二刀流に膨大な魔力を纏わせ、ミースの次の攻撃に備える。


『一種族を力でまとめ上げた吾輩はもっと強い! 年季が違う! 歴史の重みを背負っているのだ!!』

「歴史の重みくらい、俺が振り落としてやる!!」


 間合いに入った。

 剣戟。

 巨大な二本の剣と、それに比べたら小さな風竜剣+99。

 信じられないことに差がありすぎるそれらが――一合、二合と打ち合っている。

 もはや質量の差など関係ない。

 二人の背負ってきた宿業が火花を散らす。


「はあぁぁぁッ!!」

『ぬぅォおおおお!!』


 金属と金属が衝突し、振動で空間が揺れる。

 天井からパラパラと細かな破片が落下してきているほどだ。

 それでも二人は、互いにその場所からほぼ動いていない。

 ひたすらに己をぶつけるかのように、剣をぶつけ続ける。

 戦士にとってはこれが意思表示の方法なのだ。

 互いにどちらの覚悟の方が強いか。

 漢同士の戦いに、もはや言葉は不要。

 剣だけが魂のあり方を決めてくれる。


「もらった!!」


 何度も戦った片角王の太刀筋を見極め、強引にはじき飛ばした。

 その一瞬の隙を狙って正中線を剣で一刀両断しようとした。


『小さき英雄、その動きは――そういうことか!! ならば、隠す必要もあるまい!』


 信じられないことに、片角王は体力が削れていない状態にもかかわらず第二形態――四本腕を生やし、腹の口をガパッと開いた。


「ダンジョンのシステムを無視した!?」

『血が滾る……!! 憎き彼奴(きゃつ)らの傀儡となっても、魂だけは操れまい!!』


 新たに現れた二本の腕で風竜剣+99をガードしていた。

 二本の腕は斬り裂かれ、血が吹き出ているが胴体までは届かない。

 なんたる覚悟だろうか。

 ミースは戦慄してしまう。


『やっと隙ができたな! 小さき英雄よッ!!』


 ハッと気が付いたときには遅かった。

 すでに眼前に迫ってきている二刀流。

 回避行動の時間はない。

 喰らって真っ二つになっている未来の自分が見える。


(……ここで終わりか……情けない……)


 諦めるしかない。

 十年間、素振りをしただけだ。

 スキルレベルは上がったが、所詮そこまで。

 太古のエンシェント・デーモンの歴史の重みの前では、その程度の重みなのだ。

 時間がゆっくりに感じる。

 額の皮膚の皮を一枚裂き、血が滲む感覚までわかる。

 このまま頭蓋を割り、ミースはループのない死を迎えるだろう。

 悔しい、本当は諦めたくない。


(でも、俺には片角王に勝てる要素が……)


 ある。

 そう輝く風竜剣+99が右手にあった。


(そうか、あったな……ルーさんから受け取ったものが!)


 ――ズシン、と地鳴りのような音を響かせ、片角王の二刀流は地面まで到達する。

 決した勝負。


『……』


 しかし、片角王の顔にあったのは勝利の余韻ではなかった。

 とても満足げな敗者の顔だ。


『見事だ……ここまでギリギリで反撃に転じられたらどうしようもない。命を賭した反撃、天晴れである……』


 片角王は、首の横から真っ直ぐに心臓の下まで斬り裂かれていた。

 それは背後――Fスキル【跳躍】で短距離転移をしたミースの風竜剣+99だった。


「見事な戦い、ありがとうございました。エンシェント・デーモンの長、片角王」

『小さき英雄よ。隠された世界の真実に辿り着き、子離れできぬ馬鹿者を誅すことを祈っているぞ……』

「それは、いったい――」


 答えを聞く前に片角王は倒れ、物言わぬ屍となった。

 ミースは剣を鞘にしまい、深く一礼をする。


「あなたを倒した者として、この先も生き残っていきます」


 ミースは一度、深呼吸をして気持ちを切り替えた。

 ここまでの到達を短縮できたために、まだ超巨大悪魔――蟲のヴィアラスカ襲撃までは時間がある。

 アレをどうにかして倒さなければ未来はない。


「レッドハートの台座に、ワールドクエスト報酬でもらった金色の魔石を合成……。よし、スキルレベル6なら可能だ! 合成開始!」


 ミースはこのために十年間を過ごしてスキルレベル6に上げていたのだ。

 現状を打開できる唯一の可能性に賭けて。

 レッドハートが輝きだし、声を発した。


『共和国宇宙軍所属、赤龍型試作一番艦〝赤龍〟です』

「動いてくれた!」


 今までの苦労が報われた瞬間――だと思ったのだが。


『システム……エラー。赤龍搭載AI〝七面天女〟が破損しています。修復、もしくは代理のAIを用意してください』

「よ、よくわからないけど、動かないのか……!? そんな……ここまできて……」


 ここでダメだったら打つ手がない。

 どうしたらいいかと考えようと思ったが、その暇すら与えられなかった。

 片角王の亡骸が魔力を放つ。


「なっ!?」


 ミースは致命的な違和感を見落としていた。

 ダンジョンなら、そこにいるモンスターは死ねば例外なく魔素に還る。

 今回の片角王は、なぜかそれがなかったのだ。


「ダンジョンのシステムを壊してしまったからか……?」

『グォロォォオオオオオウゥゥウウウ!!』


 もはや片角王は知性なく、立ち上がって雄叫びをあげていた。

 さしずめゾンビ片角王というところだろう。

 ミースの方をギロリと睨み付けると、千切れかけた身体で二刀流を構えた。


「くそっ! こんな状況なのにやるしかないっていうのか!」

『KSX-999の申請により、Self()-Replicati()ng Spacecraft()システムの使用を許可。マテリアル選択、ナノマシン、エーテライト、オリハルコン――』

「後ろからもわけのわからない声が響いているし……」


 状況が把握できないながらも、ミースはゾンビ片角王を最初にどうにかすることにした。

 前より動きが鈍いので倒せるという確信があった。

 剣の射程まで踏み込んで――……というところで、前に出していた手から激痛を感じた。


「くっ!? なんだこれは!?」


 慌てて下がると、ゾンビ片角王の周囲には薄いバリアのようなモノが貼られているのに気が付く。


「まさか……これは……」


 ミースは思い出した。

 それは以前、ゼニガーと戦ったことがある悪魔が使っていたモノだ。

 周囲にフィールドを張って、一定距離の相手にダメージを与える。

 ようするに剣の射程に近付くことができない。


「くそっ、どうする……剣じゃ倒せない……」


 蟲のヴィアラスカがやってくる時間も迫っている。

 絶体絶命のピンチだ。

 しかし、以前にもこんな状態でなんとかなったなと――懐かしい気持ちを思い出す。

 どうしてだろうか。

 それは背後に〝彼女〟が立っていたからだ。


「リブート完了――おはようございます」

「おはよう……レドナ!」


 大切な家族の一人――レドナが棺桶のような赤い箱から出てきていた。

 起動時の青白い放電を放ちながら、ミースに向かって滑舌の良すぎる口調で告げる。


「赤龍所属自律型ZYX、型式番号KSX-999 レッドナイン。エーテル・コア及びボディ修復完了」


 整いすぎた人形の顔は相変わらず最初だけはキリッとしていて、すぐにまたいつもの調子に戻る。


「まったく、起きてすぐマスターの死を見せられてしまってはたまりません。そんなわけで数百年ぶりに本気を出すであります」


 一糸まとわぬ姿のレドナは、途絶されていた赤龍とのリンクを開始した。

 魂とも言えるエーテル・コア本来の機能が復活し、レドナの真の姿を取り戻させる。

 オリハルコンなどで構成された特殊ナノマシンが、レドナの懐かしい赤い服を形作っていく。

 一見するとただの布だが、ミースの【装備成長】で作った装備にも負けない強度を持つ。

 それに加えて、敵と戦うための新たな兵装が出現していく。

 この世界ではあり得ない、宇宙時代の技術で作られたタクティカルアーマー。

 軽く硬い物質で、エーテルの輝き奔るラインが全体に通っている。

 それがドレスのデザインを遮らないように、各所に装着された状態だ。


「戦闘モード、起動します。エーテル・コア、制限解除」


 レドナは視線をミースから、ゾンビ片角王へと移す。

 そして、手ぶらで構える。

 弓を打つような格好だが、肝心の弓がない。


「あれは……!」


 ミースはそれを知っていた。

 いつも頼もしかった、レドナの攻撃スキル〝星弓〟だ。


「おぉっと、以前の当機とは一味違うであります」


 彼女のタクティカルアーマーが大きく可動・展開し、ラインが輝き、動きを補助するような形になった。


「矢で射殺(いころ)します。機能解放――〝流星弓〟!」


 以前よりも強力になった矢は巨大なエネルギーとして放たれ、ゾンビ片角王のバリアを突き破り、そのまま硬質な身体を貫いていた。

 エンシェント・デーモンの長だったモノはズシンと呆気なく倒れ、今度こそ魔素へと還っていった。

今日の活動報告でのキャラデザ公開は、人類最強の存在〝だった〟ハインリヒの予定です。

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著:タック
イラスト:桑島黎音先生

レーベル:ムゲンライトノベルス
ISBN:978-4434357480
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