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<第三章完結>親ガチャ失敗したけどスキルガチャでフェス限定【装備成長】を引き当て大逆転  作者: タック
第三章(3) たった一つの想い出捨てて、過去に戻ってやり直し
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跳躍侯に花束を

 あるところに一人の寂しい女の子がいた。

 風竜人という身体の強い種族に生まれるも、心は空っぽで過ごす。

 空っぽなまま、同じだった周りの種族(みんな)はいなくなった。


 それからも空っぽなまま戦い続けた。

 欠けている自分からでは、何が欠けているのかわからない。

 与えられた役目は戦うことと、死に続けること。


 繰り返す、ひたすらに繰り返す。

 死ぬのは痛い、我慢、辛い、我慢、もう嫌だ、我慢。

 それまでは必死に空っぽな心でも我慢して耐えてきた。


 けれど、空っぽな心が彼で埋まってしまった。

 耐えられなくなった。

 最後の時間跳躍の対価――それは記憶だ。

 耐えられるわけがない。


 一つを除いて、他はすべて失っても構わない。

 でも、彼を――ミースを好きだった気持ちを失ってしまう。

 我慢できなかった。


 だから、最後の時間跳躍をせずに逃げた。

 そのことをミースに黙って、彼の大切な人を殺してしまったとしても、神殺しの団(ラグナレク)のみんなを殺してしまったとしても、人界のみんなを殺してしまったとしても……逃げた。


 世界で一番ずるい。

 地獄に落ちて当然だ。

 ミースからも軽蔑されるだろう。


 都合の良い話だが、彼に知られるのだけは絶対に嫌だ。

 嫌われたくない。

 ずっと後ろめたい秘密を抱えながら、笑顔のミースと接する。


 空っぽだった心が埋まったはずなのに、なぜこんなに苦しいのだろうか。

 辛いのだろうか。

 痛いのだろうか。


 でも、それも終わった。

 どうせ世界が終わることもわかっていた。

 それでも、最後の一秒までミースと一緒にいられて幸せだったのかもしれない。


 最高の人生だったとは胸を張って言えないが、彼と一緒にいられたことだけは幸せだったと思える。

 だから、そのお返しをしなければならない。

 自分を幸せにしてくれた大切な人を、今度は幸せな世界へ送り出すために。


「……行かなきゃ」


 時間跳躍の楔が打ち込まれた、十年前の開始地点。

 頭の中がかき混ぜられる、重い、明滅を繰り返している。

 ルーは急いで、まだ覚えている方角へと走り出す。


「ミースの(もと)へ行かなきゃ……!」


 すでに記憶が消去され始めていた。

 生まれ育った場所が思い出せない。


「急いでミースに……ミースの記憶を渡さないと……!」


 家族の顔が思い出せない。


「そうしたら、ミースだけは最後にまたやり直せる……!」


 所属していた団が思い出せない。


「きっと、その情報でミースは……誰かを……誰かを……助けるんだ……!」


 そこにいた仲間たちが思い出せない。


「わからない、もうわからないよ。けど、ミースだけは覚えている! だから、わたしは大丈夫……! 大丈夫なんだ……!!」


 自分の名前が思い出せない。


「ミース……! 怖いよ、ミース! でも、頑張れるよ……まだ……覚えているから……!」


 わけもわからず走り続け、〝誰か〟の下へ辿り着けた。

 頑張れた〝わたし〟を褒めたいと、きっと〝わたし〟は思ってくれただろう。

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こちら、書籍版です!

『親ガチャ失敗したけどスキルガチャでフェス限定【装備成長】を引き当て大逆転 2』
著:タック
イラスト:桑島黎音先生

レーベル:ムゲンライトノベルス
ISBN:978-4434357480
発売日:2025年6月2日
価格:1650円

結城にこ先生によるコミカライズ一巻も発売中です!
【↓各種情報はこちらのリンクから↓】
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