カフェを守れ
ミースは依頼書を眺めながらドライクルの道を歩いていた。
その横にいるルーが覗き込もうとしてくるが、背が足りないためにピョンピョンと跳ねている。
「ねーねー、何て書いてあるの~?」
「えーっと、今回の依頼は町での人助けかな。違法な立ち退きをさせようとしている組織があって、そこから依頼人を守るみたい」
「も、もしかして戦うの……?」
ルーは再び表情を曇らせてしまう。
ミースはしまったと思った。
やはりルーはまだ心の傷が癒えていない状態で、戦いを怖がっている
「ルーさんはエアーデさんのところで待っていても――」
「やだ! ルー、ミースと離れたくない!」
ルーはピョンと跳んで、ミースの背中にしがみ付いてきた。
意地でも離れない気だろう。
(これはあまり戦うところを見せないようにしないとなぁ……)
そう考えつつ、ルーの体重が軽いのでそのまま道を進んだ。
依頼書の裏にエアーデ手書きの地図があって指示通りに向かっているのだが、何か見覚えがある道だ。
「……というか、これって俺たちが来た道を戻っているだけじゃ?」
そう気が付いたときには、目的地に到着していた。
あの老人が経営するカフェの店先だ。
ルーを背中から下ろしたあと、これはどういうことかと考えようとしていたところ、中から怒声が聞こえてきた。
声の主はあの優しそうな老人ではないようだ。
「おうおうおう! 早く立ち退けよ! こんな店よりも役に立つものを建ててやる!!」
「そうだ、親分の言うとおりだ!」
「ひぃっ!? こ、こんな店でも楽しみにしてくれるお客さんがいるんだ……立ち退くわけには……」
「はっ! 跡継ぎもいないし、もう数年で終いだろ! 何なら、今ぶん殴って引退させてやろうかぁ!」
どうやら穏やかではない。
ミースは急いで店の中に飛び込んで、両者の間に入った。
「ちょっと待ってください……!」
「な、なんだぁテメェ!!」
「冒険者ギルドからやってきたミースです。暴力はいけないと思います」
「暴力がいけないだぁ? 暴力はサイコーだろ! なんてったって、強い方の言い分がシンプルに通るからなぁ!!」
「……シンプルに通らないから、こうやって冒険者ギルドから俺がやってきたんですよ」
ミースに正論を言われ、ピキピキと血管を浮き上がらせる男二人。
親分と呼ばれた方は大柄のスキンヘッドで、もう一人の子分らしき方は小柄でフォークのような奇抜な髪型をしている。
「テメェ! 馬鹿にしやがって! 親分、やっちまいましょうよ!」
「おう、強い方の言い分を通させてもらうぜぇ!!」
親分と子分のコンビはある程度場慣れしているようで、スムーズに戦闘へと移行した。
今にも、硬そうな拳で殴りかかってこようとしている。
普通なら場慣れした成人男性二人というのは、厄介な相手だろう。
しかし、モンスターを相手にする冒険者ギルドのクエストランクからすると、この二人の戦闘力は最下位のモンスタークラスだ。
身体を魔力やスキルで強化することのできない彼らなど、ミースの敵ではない。
「うーん、どれくらい加減すればいいんだろう。このくらいかなぁ……」
そうぼやくと、一瞬で勝敗が決まっていた。
「……え?」
「は? 何が……」
地面に倒れている親分と子分は状況が理解できなかった。
目をパチクリしていると、ちょこちょこと付いてきたルーが喋り始める。
「ミースは二人の足元を引っ掛けて転ばせたあと、怪我をさせないように抱きかかえてからソッと地面においた」
「そ、そんな馬鹿な……人間業じゃ……」
「うーん、オススメしないけどもう一回やってみる? 今度はわかるように優しくはしないけど」
親分と子分はズザザと引き下がった。
彼らからしたらワケがわからなかったが、一方的に転ばされたのは事実だ。
次にやったら一方的に殺される可能性があると考えると気が気ではなく、捨て台詞を吐いて逃げるしかなかった。
「お、覚えてろよー!」
「こ、この親分が言う覚えていろよというのは定型文で、決してまだ敵対を続けるという意味ではないぞ! そこんところは理解しろよ!」
よっぽど二度と戦いたくないのか、親分に対してそんなフォローを入れる子分であった。
騒がしい来訪者が消えて静かになったカフェで、老人がペコリと頭を下げた。
「助かったよ、ありがとう。お客さん、あなたたちは冒険者だったんだね」
「俺たちは偶然、冒険者ギルドから依頼を受けただけですので頭を上げてください。それと、依頼でなくても同じ事をしていたと思います」
「ミース、えらい。フルーツ美味しい場所、守った」
どうやら今の戦いはルーが怯えるようなものではなかったようだ。
依頼の成功と合わせてホッとした。
「では、失礼します。また冒険者ギルドに戻って、住むところを探さないと……」
エアーデを待たせる事になっては悪いので身をひるがえしたミースだったが、老人から呼び止められた。
「住むところだって? 丁度良い……このカフェに住み込みで働かないかい?」
「……え?」
それは偶然だった。
しかし、これが縁となって十年も住み込みで働き、老人が引退後も二人でカフェを切り盛りしていくことになるのであった。
今日の夜は、活動報告でレドナのキャラデザを公開予定です!