紹介状とこれからのこと
「ルー、お店に迷惑かけちゃった……」
「あ、あはは……謝ったら『また店に来てくれたら良い』と笑ってくれたし、平気だよ」
店で大泣きしたあと、二人は紹介状を届けるために移動していた。
申し訳なさそうにするルーの横顔は、少しだけ以前の感情が戻ってきているようだった。
ルー本人に言ったら怒られるかもしれないが、そのしょぼくれた顔はとても好ましく思えた。
「ところでミース、紹介状ってどこへ届けるの? 貴族とか町長とか?」
「いや、ちょっと違うかな。えーっと……到着……」
目の前にある小さな建物。
それは砂漠の乾燥レンガで作られているが、すでに見慣れた施設――冒険者ギルドだった。
「本当にここで合ってる?」
「らしいです。何でも俺が知っている人がいるとか……」
半信半疑で冒険者ギルドの扉を開けると、奥にあるカウンターの方から聞き覚えのあるお姉さんボイスが響いた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどんな――って、ミース君じゃありませんか!? なんでこんなところに!?」
「エアーデさんこそ、なんで!?」
そこにいたのは仕事の出来るお姉さんという印象が強い、受付嬢エアーデだった。
互いに見合わせてパチクリと瞬きをしていたのだが、蚊帳の外のルーが質問を投げかけてくる。
「ミース、この人は誰?」
「あ、ごめんごめん。この人はエアーデさんという名前で、始まりの町アインシアで受付嬢をしていた方なんだ。初めての冒険で色々とお世話に……」
「初めまして、エアーデです。アインシアの冒険者ギルドから『ギルド長になれるチャンスだよ!』とドライクルへ異動させられましたが、ワンオペの言い換えだったというオチでした。あはは~……」
砂漠以上に渇いた笑いが木霊した。
大人って大変だなと思っていると、今度はエアーデからの質問が飛んできた。
「それで私も聞きたいんだけど、ミース君は横にいる子とはどういう関係なのかな~? お姉さん、色々とお世話をしたミース君だし興味があるな~?」
「えーっと……」
こうやって誰かに二人の関係を聞かれる可能性もある、とすでにメラニに指摘されていた。
そのために用意していた嘘がある。
「妹です。この子は妹のルー・ミースリーです……!」
「ルーはルー・ミースリー。よろしく……」
「妹さんですか~。姉のレドナさんや、妹のルーさんといいどちらも可愛いですね~。美形家族羨ましいな~」
嘘家族シリーズが増えてしまった。
ミースは心の中で謝り倒した。
「あれ、そういえばゼニガー君はどこに? たしか、領主令嬢のプラムミント様も一緒に冒険に付いていったんじゃ……」
「……そのことですが――」
ミースは詳細は明かさず、二人が死亡したことだけを告げた。
それを聞いたエアーデは取り乱さず、落ち着いているようだったが、声は若干震えていた。
「そう……辛かったわね、ミース君……」
何より最初にミースの心配をしてくれるところがエアーデらしかった。
それからしばらく無言が続き、ミースはここにやってきた目的を思い出した。
「あの、これメラニ理事長からの紹介状です」
エアーデはその名前を聞いて恭しく紹介状を受け取り、封蝋されている中身を取り出して黙読し始めた。
落ち込み気味だった表情は徐々に変化して、深刻そうな表情で息を呑む。
「これは……」
読み終わったエアーデはそう呟き、ミースを見つめた。
「はい」
ミースはただそれだけを返す。
何かを察したのかエアーデは急に明るく振る舞う。
「とりあえず、住むところを用意しなきゃね! そっちは探すから少しだけ時間を頂戴。あ、その間にミース君へ簡単なお仕事を頼んでいいかしら?」
「仕事ですか?」
「そう、冒険者のお仕事。ミース君なら簡単だろうし、町に慣れるのと気晴らしを兼ねてどうかなって!」
「わかりました。ルーさんと一緒にやってみます」
「オッケー! それじゃあ依頼内容と報酬は、この依頼書に書いてあるから――」
こうしてミースのドライクル初の冒険者活動が始まるのであった。