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砂漠越え

 二人はラクダの背に乗って砂漠を進んでいた。

 ミースが前に乗り、その後ろにルーがピッタリと密着している形だ。


「ルーさん、乗り心地は大丈夫?」

「……うん」


 ラクダという生き物は、人間の魔力を感じ取って動いてくれる。

 コツを掴めば特に難しい訓練などは必要ないし、気性も穏やかだ。

 それに乾燥地帯に適した身体をしていて、ここでは馬よりも優れた存在となっている。

 砂漠越えでは無くてはならない存在だ。


「鞍も良い物が装着されていて快適だ。あの商人さんに感謝しなきゃ」


 本来なら騎乗の揺れで酔ってしまったり、臀部が擦れて痛くなってしまったりするのだが、どうやらダンジョンドロップ品の鞍がそれを抑えてくれているらしい。

 しかし、それでも雲の無い空からは刺すような陽光がギラギラと降り注いでくる。

 人が生きるには辛い環境だ。


「さっき渡した外套をしっかりかぶっておいてね」

「……かぶってる」


 二人は強すぎる直射日光から身を守るために、目深に外套を装備している。

 それでも暑いし、自然と汗が噴き出してくる。


「視界、意外と高く感じるな……」


 騎乗したことによって、ラクダの背から見える世界は広いが何もない。

 揺らめく蜃気楼の世界。

 いつもと違う過酷な環境で、不安と同時に冒険心がわき上がってくるようだ。




 それからしばらく進み続けた。

 ミースは革の水袋から生ぬるい水を少しだけ飲み、ルーにそれを渡した。


「ルーさんもちゃんと飲まなきゃ」


 ルーは自分だけでは何かを食べたり、飲んだりということをしなくなった。

 ミースが要求しないと死ぬまで何も口にしないような気がして恐ろしい。

 そうして革の水袋を渡したあとに気が付いた。


「あ……ごめん。俺なんかが口を付けた物で……」

「……」


 ルーは表情を変えずに、ゆっくりと水を飲み始めた。

 あまり気にしていないのか、普段から言葉の意味を考えていないのか。

 どちらにしてもミースは気まずい。


「えーっと、俺が飲むのも気が引けるので、それはルーさん用で……」

「ん……」


 ルーは革の水袋を突っ返してきた。

 オマエが水を管理しろ、ということだろう。

 ミースは仕方なくそれに従い、渋々と受け取った。

 このまま無言は耐えられそうにないので、話題を変える。


「さ、さてと、地図地図っと……」


 このだだっ広い砂漠の地図を開いた。

 ほとんどが砂の色で塗りたくられている。

 他は振り落としの町ドライクルがちょこんと(しる)されていて、あとは周辺地域との境目があるくらいだ。

 ミースはその大雑把な地図だけで現在地を把握して、進むべき方向を決めた。

 普通の人間では迷って干からびてしまうようなこの場所でも、冒険者ともなれば驚異的な空間把握能力でマップを正確に読み取り、方角すらピタリと当てることができる。


 それに合わせてか『ヴェェェェェエ~』と間延びしたラクダの鳴き声が、その道で正解だというように言ってくる。

 どうやら頭が良いのと、町への往復経験も多いのだろう。

 これならガイドを付けずとも、何とか目的地に到着できそうだ。

 しかし、初めての砂漠越え。

 予想外に安定していて油断していたのかもしれない――


「なっ!?」


 突然、砂漠がボコンと盛り上がり、そこからサンドワームが出現した。

 サンドワームとは、以前〝聖杯のダンジョン〟で戦ったワームゾンビと似た種族だ。

 ただ、砂漠に適応しているためか身体は大きくなっており、太さは大木のようで、長さは砂に埋まっている部分もあって計り知れない。

 いきなりのサンドワームにラクダは驚き、ミースとルーを振り落としてしまった。

 そのままラクダは逃げようとしたのだが、サンドワームに丸呑みされてしまう。


「くっ、なんてこった……」


 ミースは普段なら音感知によって奇襲を受けることはほぼない。

 それはダンジョンでモンスターが徘徊していて音を発するためだ。

 だが、ここはフィールド。

 ダンジョンのように規則性を持って動いたりはせず、餌を穫るためにジッと音を立てずに潜んでいる敵もいるのだ。


「ルーさん、まずは俺が仕掛けます。その隙を狙って短距離転移で一撃を――」


 そう言いながらルーを視界の片隅に入れたのだが、彼女はうずくまって震えていた。


「た、戦い……やだ……怖い……」


 ラクダから落ちたときに膝を擦りむいている。

 身体が頑丈な風竜人ではありえないことだ。


(そういえばフェアト先生から聞いたことがある……。上位種は人間と違って、精神による能力の増減がとても激しい。神話の上位種が大地を割ったりする一方で、簡単に人間に殺されてしまうときがあるのはそういうことなのだと……。今のルーさんは精神が弱りすぎていて、身体の強さも普通の人間と変わらないくらいなのか……)


 弱々しく震えるルーを見て考えを改めた。


「ルーさんは自分の身を守ることに専念してください」


 ミースは一人で戦うしか無いと察した。

 もうルーは戦士として戦えない。

 ただの十歳の少女なのだ。


「サンドワーム、俺の方が肉があって美味いぞ!」


 モンスターが理解してくれるかは怪しいが、大声を出すことによって注意は引けるだろう。

 サンドワームの首がこちらを向いたことを確認して、ミースは攻撃のために走り出す。


「砂に足を取られる……!」


 通常と違って、砂漠での戦闘は特殊だ。

 普段より落差の大きい地形、柔らかい砂、尋常では無い暑さ。

 それに加えて初めての敵である巨大なサンドワーム。

 ミースは先手を取られてしまう。


「くっ!!」


 蛇のようにうねり、伸びてくる牙だらけの口。

 サンドワームはラクダと同じように丸呑みしてくるつもりだろう。

 ミースはそれを回避するために、踏ん張りが利かない足で無理やりに横っ飛びをした。

 力の加減を無視した動きでゴロゴロと身体が転がる。

 無事に回避できたのだが、サンドワームは別方向を向いていた。


「ルーさん!!」

「あ、あぁ……悪魔……」

「それは悪魔じゃない! 動いて!!」


 標的をルーに移したサンドワームは、その口で丸呑みしようと突進していた。

 それを何とか阻止しようとしたのだが、先ほどの動きで足を捻ってしまったのか痛みが酷い。


「まずい、慣れない足場も合わさって踏ん張りが利かない……!?」


 このまま追いついて斬りつけることができても、その一撃で倒しきれるか怪しい。

 選択肢としては全力を出すことだが、この砂漠で疲労を蓄積させたらこの先が持たない可能性がある。


「いや、俺はルーさんを守ると決めたんだ……! 〝守ノ照(かみのて)〟!!」


 片足で無理やり跳ぶ。

 それは弾丸のようだが、バランスが不安定で錐揉み回転してしまっている。

 そんなことはお構いなしにサンドワームに接近。

 ミース、ルー、サンドワームの距離は、ほぼゼロに近い。


「新式・九の聖光搦げ邪滅す刃ナイン・ホーリークルス!!」


 間一髪、ルーが牙の餌食になる前に放たれた輝き。

 サンドワームはオーバーキルによって身体の大半が弾け飛んだ。

 気味の悪い体液が、乾燥した砂漠に飛び散る。

 ミースはその液体からルーを抱き締めるように守った。


「ルーさん、大丈夫……? どこか痛いところとかは――うっ」

「ミース……ミース……?」


 妙なしびれを感じる。

 ミースはふらつき、砂漠に倒れ込んでしまった。

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