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創世神と邪神の境界線

 メラニに馬車を出してもらい、ミースとルーは南の街道を進んでいた。

 揺れる馬車の中で、ミースは隣をチラッと見る。

 そこにはうつむき、以前の元気をなくしているルーが静かに座っていた。

 風竜人というのがバレると目立つので、今は角も翼も消してある。

 その見た目は、ただの緑色のツインテールの少女だ。


「ルーさん。乗り心地は平気ですか……じゃなくて、平気?」

「……うん」


 ミースは敬語を喋ってしまい、慌てて言い直した。

 これはメラニが『年下に敬語だと不自然ですよ、注意してください』と指摘してきたためだ。

 ルーを敬う気持ちはあるのだが、今は敬語を止めている。


「もう少しで到着するみたいかな。そしたら水と食糧を補給して、振り落としの町ドライクルへ向かおう。あ、砂漠越えのためにガイドさんもいたら助かるね」

「……うん」


 ルーは壊れた人形のように同じ返事しかしなかった。

 それほどまでに心が弱っているのだろう。

 ミースは彼女の気を紛らわせるために、なるべく明るく振る舞おうとしていた。


「ドライクルは美味しいフルーツがあるらしいから楽しみだな~! ルーさんは何か好きなフルーツってあるかな?」

「……わからない」

「え?」

「戦うこと以外、何もなかったから……わからない……」


 食べたことがないか、それとも味など気にしていなかったのだろう。

 ミースもそういう時期があるので色々と理解してしまう。


「それだったら、好きなフルーツを探せる楽しみがあるね! 知らないということは、今から知ることができるとも言えるから!」

「今から知ることができる楽しみ……?」

「うん! ルーさんはまだ小さいんだし、色々と今から探していけばいいよ!」

「……そう、なのかな」


 ゼニガー、レドナと一緒に食べたドライクルのフルーツはどれも美味しかった。

 そのことを話そうとしたのだが、もういない二人の名前が出ると気を遣わせてしまいそうなので止めておいた。

 急に寂しくなり、泣きそうになったが堪えた。


「あっ」


 それを見たルーが小さな声をあげて、悲しそうな眼をした。

 何か言い訳をしようとしたのだが、そのタイミングで馬車は目的地に到着してしまった。




 馬車から降りると、そこは不思議な光景が広がっていた。

 足元は苔むした地面、その一歩先は薄い虹の幕に遮られた砂漠。

 まったく違う地形が隣り合わせになっているのだ。


「フェアト先生の授業で習ったけど、実際に見るとすごいな……これは面白い……」


 創世神マザーと、名前さえ忘れられた邪神が戦って誕生した場所と言われている。

 邪神側は大地の生命を奪って砂漠となり、創世神側は生命を守って苔むした地面となった。

 その互いが衝突したときに出来た輝きが、二つを分ける広大な虹の幕としてまだ残っているとか。


「っと、見とれている場合じゃないや。水と食糧、ガイドさんも探さなきゃ」


 本来ならスキル【大収納】の効果で水と食料を途中で補充する心配はなかったのだが、そうもいかなくなってしまった。

 なぜかスキル【大収納】が使えなくなったのが数日前。

 ミースだけが影響を受けたのかと思ったのだが、同系統の【収納】【小収納】を使える冒険者も同じ状態に陥っていたのだ。

 これは推測だが、空間の神インベスタの加護が世界のバランス崩壊によって薄れてしまったのかもしれない。

 そのために現在のミースは荷物を馬車に載せてやってきている状態だ。

 ここからは背負って移動しなければならない。


「さてと……この場所には常駐している商人が多いって聞いたけど……」


 ミースが周囲を見渡すと、キャラバンがいた跡はあるのだが人が見当たらない。

 ここは商人たちが稼ぐにはもってこいの場所だと聞いたのにおかしい。

 しばらく周囲を探すと、ラクダに乗る商人が一人だけ砂漠側からやってきた。

 ミースを見つけると声をかけてくる。


「おや、キャラバンを探しているのかね?」

「はい、砂漠を渡りたいので水と食糧……それと良ければガイドを頼もうかと……」

「あ~、それはタイミングが悪かったね。普段ここにいるキャラバンは、最近の情勢で移動しちまったよ。何でも物騒なことが起こりそうだってね」

「物騒なこと……」


 それは悪魔側が勝利してしまったという情報を得たのだろう。

 彼らは商売柄情報が早いので、それを聞きつけて新たな商売の地へ移動したに違いない。


「私はいったんキャラバンから離れて、ツヴォーデンにいる家族のところに行こうと思っててね」

「そうなんですか……。まだあそこは無事です。俺はツヴォーデンから馬車で来たので――」

「馬車……? なるほど、丁度いい。家族のところへ行くついでに商売をしようじゃないか」


 商魂たくましい彼は、ラクダと余分な水、食糧を譲ると交渉してきた。

 丁度、ツヴォーデンへ戻る馬車があるので、それに乗ればラクダは不要と考えたのだろう。

 ただし値段は割高となっている。

 それでも非常識な値段とまではいかないので、ミースは購入することにした。


「毎度あり! あんたたち、どうやら見たところ戦闘経験はありそうだけど、今は砂漠のモンスターが苛立っているから注意するんだよ」

「はい、ありがとうございます!」


 砂漠越えの準備が整ったので、ミースとルーは振り落としの町ドライクルへ出発した。

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