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探す人

夏といえども、日が上る前は、五月蠅く鳴き続ける蝉も静かだ。ぼんやりと明るくなってきた空を見上げて、欠伸を噛み殺した。始発が動き出すと、署内にも人の気配が増える。


「お前、泊まったのか」


トイレから出たところで、呆れたように先輩が声をかけてくるのに、いやあ、と頭の後ろに手をやって笑う。


「面倒くさくなっちゃって」

「ホテルじゃねえんだよ」


すみません、と謝った。昨日は書類をまとめるのに時間がかかってしまって、最寄り駅から少し離れているアパートまでの道のりを考えて億劫になってしまったのだ。一晩くらいなら何とかなるだろうと楽観していたが、夕方になると少し臭ってしまうかもしれない、と緩めていたシャツのボタンを留めつつ思う。

先輩と共にデスクに向かうと、先輩は、昨晩苦労した書類を取り上げて言う。


 「最初の事件が、ちょうど一年前の今頃か」

 「そうですね」


先日、とある一家が惨殺された。異臭がする、との通報は昨日のことだ。その前日には、近くの交番の警察官が巡回で訪ねていた家だったが、昼間に誰もいない家は珍しいものではない。遺体の状況は死後一日経つか経たないかという具合で、その上犯人は賢しくも空調をかけていたというから、警察官がその時点で死臭に気付かなかったのも無理はない。

すぐに多くの捜査員が緊急配備されたが、相手は一年近くも逃走し続けている相手だ。見つかればいいのだが、と思いながら、また欠伸をした。



昼過ぎ、助手席にて、冷房の角度を調節しながら尋ねる。


 「最後にかくれんぼしたのっていつですか」

 「ああ、え?」


生返事の後に、運転席で腕を組んだ先輩は目を瞑る。思い出すのに時間がかかるくらい前だということはわかった。


 「大人になってからしてるのって、自分達ぐらいじゃないですか」

 「遊びじゃねえんだよ」


先輩が睨みつけて来るのに、首を竦めて謝った。

一番新しい現場では、母親がキッチンで、父親がリビング、そして一人息子が二階の廊下で殺されていた。息子は仕事を辞めてから一か月ほど、あまり外出せず、部屋にこもりきりだったようだ。もしかすると、死ぬ直前まで、いや死ぬ直前ですら両親がすでに殺されていることを知らなかったかもしれない。


 「……あれ」


ふと顔を上げると、ネットカフェから出て来る人物と目が合った。無表情のまま、ふいと顔を逸らして、歩いていく。先輩を見ると頷いたので、車を降りた。



捕まってしまえば、あっさりとした自供だった。ここから展開が二転、三転すれば、二時間もののミステリードラマになり、あるいは何かしら伏線が残っていれば、連続ドラマの第一話になるのかもしれないが、事情聴取の記録を見ても、その可能性はなさそうだ。

かくれんぼはかくれんぼでも、かなり地道なものだと思う。時間制限はなく、鬼が必ず勝たなければいけない。理想論としては、そうだ。ぎりぎり終電に滑り込み、案の定少し臭っているシャツをつまみつつ、ため息をついた。


その時、窓の外の夜景を眺めていただけだが、思い出した。中学からの帰り道、毎日のように、ずいぶんと遅くまで公園で遊んでいる2人の子どもを見かけていた。うちは門限が厳しかった家なので、親がよく許すな、と思いつつ通り過ぎていたのだ。


 「もういいかい」

 「まあだだよ」


しばらくして、ニュースで女の子の方の写真を見た。思い出すのに時間はかかったが、公園のあの子だと気づいた。


ああ、誰にも見つけてもらえなかったのだな、と無関心に思ったのを、思い出した。


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