勇者、お菓子を作る
魔王が用事で外出して午後のティータイムがお休みになったある日。
マリーは念願だったお菓子作りに初挑戦することになった。
「先生!今日はよろしくお願いします」
勢いよく挨拶するマリー。
「ははは、先生か。ちょっと照れるなぁ」
菓子職人が苦笑いする。長身で細めのアンデッドの男性だ。
「さて、今日はクッキーを作るよ。プレゼント用のラッピングまでやるからね」
菓子職人の指導を受けながらクッキーを作る。
材料を量ったり、生地をこねたり・・・初めてのことばかりでとまどいつつも、楽しくて仕方がないマリー。
使った道具をきれいに後片付けしてからラッピングも教わった。
魔王用に少し大きめのが袋が1つ、他に小さい袋がたくさん出来た。
マリーが小さな袋を1つ手に取る。
「あの、先生。これ、今日のお礼にもらってください・・・あ、でも、魔王様より先にあげたのは内緒にしてくださいね?」
菓子職人は頭をなでた。
「ありがとう。マリーとの秘密はちゃんと守るからね」
夜、いつものように魔王がマリーの部屋にやってきた。
「昼間は留守にしていて話をする時間もなかったが、今日は何をしておったかの?」
「はい、今日も厨房のお手伝いをしてました。それでですね、あの・・・」
枕の後ろに隠しておいたリボンで結んだクッキー入りの袋をごそごそと取り出す。
「これ、菓子職人さんに教えてもらいながらクッキーを作ったんです。いつもお世話になってるから、魔王様に何かお礼がしたいなって思って・・・初めてだからあんまりかっこよく出来なかったけど、味はちゃんと食べられるものになったので、よかったら食べてください」
魔王は差し出された袋を受け取った。
「ありがたくいただこう。どんな高価な贈り物もこれには勝てまいて」
マリーは魔王に抱きしめられた。
お互いに体温とは別の、何と呼んでいいのかよくわからない温かさを感じていた。




