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魔王、気にかける

朝食が終わった頃に様子を見に行き、午後は執務室でティータイムの供をさせ、夜は軽く話して寝かしつける。

これが魔王とマリーの日課。

最近では庭の散策も加わった。マリーは自分で歩けると言うのだが、魔王はマリーを抱きかかえて庭の花々を愛でる。

以前、マリーはおぼろげな記憶の中の花畑に過剰な反応を示していたが、庭の草花は問題がないらしい。付き添う庭師に花の名を尋ねたりもしている。気に入ったと思われる花を庭師が切り、メイドがマリーの部屋の花瓶に生けることもある。


マリーは知らないが、魔王は時々夜中にも様子を見に来ている。部屋の前を通った際、時々うなされていることに気づいたからだ。そんな時は頭をそっとなでていると落ち着いてくるようである。

どんな悪夢を見ているのか。失われた記憶の中に何があるのか。

調べる方法がまったくないわけではないが、尋問に用いる魔法で対象者の人格破壊が起こる可能性も高いのでさすがに使えないが。


「人間界に潜む者から勇者に関する調査の第一報が上がってまいりましたが、さらなる調査が必要と思われます」

側近が魔王に報告する。

「どういうことだ?」

「まず勇者に選ばれた時点で過去の経歴を知られないよう細工されます。立場を悪用されるのを恐れてのことで、その細工が巧妙なため本当の名前もいまだ判明しておりません」

「そうか」


「人間の勇者の選出ですが、先代の勇者が死亡した時点で勇者の紋は次代の者に移ります。次代の勇者の所在を見出せるのは大神官長と最高位の聖女だけで、本人にも周囲にも勇者とは告げず、別の名目で大神殿に召し上げられるのです」

「なるほど」

「本来なら見出された勇者は教育や訓練を施され、十分な実戦を積んだ上で我々に挑むのものらしいのですが、勇者の生まれた国では内政のゴタゴタに対する国民の不満の矛先を変えるため、強引に魔王討伐を命じたようです」

魔王が顔をしかめる。

「それであんな子供が戦場に立たされたということか」

「はい。勇者の国では討伐失敗に加えて積もりに積もった国民の不満が爆発して各地で内乱状態となり、さらに近隣諸国からの侵攻も受けているので、現在は事実上崩壊しているといえましょう」

「ということは、あの娘は故郷に帰ろうにも帰れぬということか」

側近は魔王に報告書を手渡した。

「それにいたしましても、人間の勇者は魔王様にずいぶん懐いたようで」

「記憶を失くしておるから誰かしら頼る者が欲しいのであろう。雛鳥が最初に見たものを親と思うのと同じじゃな」

側近がしばらく考えてから小さな疑問を口にする。

「・・・お手つきになさらなくてよろしいので?こちらに留めるのなら有効な手立てかと」

魔王は顔をしかめた。

「さすがにあのような子供に手を出す気にはならんな・・・ああ、他の者にも手を出させぬように。何がきっかけで記憶が戻るかわからぬしな」

「かしこまりました」

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